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番外編 2 タワマン事件簿
サレ男とサレ夫婦、部外者
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「は?」
今度は赤城さんは高い声を出し、目をまん丸にして光圀さんを凝視している。
かくいう私も驚いているし、さすがに美香さんも夫を見つめていた。
「そして、彼女とは男女の仲にありません」
光圀さんは赤城さんに怯えながらも、きっぱりと言う。
「ですがこれは……」
赤城さんはスマホの画像を再度見せつける。
けれど光圀さんは反抗する。
「写真は一緒にいるところを撮っただけですよね? 決定的な、ホテルに入る瞬間などは捉えていない」
「う……」
図星だったのか、赤城さんは言葉に詰まる。
美香さんは夫の言葉を静かに聞いていた。
「学生時代から、強気な恵里菜の子分的な立場にありました。僕は見ての通り、クラスにいれば陰キャで目立たない、いじめられやすいタイプです。恵里菜は目立つタイプで、スクールカーストの頂点にいました。そんな彼女が僕を気に掛けていてくれていたから、僕はいじめられずに済みました」
語られる過去に、もう赤城さんは口を挟もうとしなかった。
「どうしてそんなに正反対の二人が仲よくなったかと言えば、家庭環境と好きな本が似ていたからです。僕は父子家庭で、彼女は母子家庭でした。学校にいてもどこか友達と話が合わず、図書室にいる事が多かったです。閲覧室で本を読んでいたら、『その本面白いの?』と話しかけられました」
思っていたような下世話な関係ではなく、事情ありきの深い関係にあった。
私もそこまで考えられず、黙って光圀さんの話を聞く。
「彼女はもともとそれほど小説に興味がなく、漫画を好んでいました。ですが僕が面白かった本を薦めると、『読んでみる』と言って興味を持ち始めました。僕はミステリー小説が好きで、彼女も最後のどんでん返しなどが気に入ったようです。やがて二人でミステリー小説の話で盛り上がるようになりました。その関係もあり、クラスで僕がからかわれかけたら、さりげなく庇ってくれるようになりました」
そこまで言い、光圀さんはブラックコーヒーを一口飲む。
「僕たちの関係はただそれだけで、お互いを男女として見る事はありませんでした。片親を持つ悩みを打ち明け、慰め合うようになりました。やがて彼女の母は再婚して、高校生後半には安定した顔をしていました。『良かったな』と思って、陰ながら彼女が幸せになる事を祈っていました」
なんだか、いい話だな。
「偶然、大学も同じ学校に進学しました。学部は違ったのですが、キャンパス内で偶然顔を合わせた時は挨拶してくれました。その辺りから疎遠になっていきましたが、メッセージで季節の挨拶などは続けていました。やがて彼女は赤城さんと結婚し、僕は彼女の幸せを祈ったんです」
話題が自分に移り、赤城さんは居住まいを正す。
それまでスルスル話していたのに、光圀さんは少し口ごもる。
「そこまで話したなら、すべて打ち明けてくれ。何を言われても驚かない」
赤城さんに言われ、彼は息をついて再度話しだす。
「……彼女から定期的な挨拶以外に連絡があったのは、三十八歳の時でした。七年前です」
光圀さんは溜め息をつく。
「『夫のモラハラがつらい』と相談されました」
「はぁ!?」
赤城さんが声を上げる。
それから〝モラハラ〟と言われたのを気にしたのか、誤魔化すように咳払いをする。
……まぁ、確かに人に威圧感を与える人だな、とは第一印象で感じた。
体格にも恵まれているし、声も大きくて太い。
語気を強く言われると、私だってちょっと萎縮してしまう。
「僕はモラハラなんて……」
心外だというように言った赤城さんに、美香さんが冷たく言う。
「自覚していない人は、皆そう言うのよ」
美魔女にすげなく言われ、彼は唇を歪める。
「具体的に妻はどう言っていましたか?」
赤城さんは気にしたのか、光圀さんに丁寧に尋ねてくる。
彼はチラッと赤城さんを気にしたあと、言いにくそうに口を開いた。
「これはモラハラか分かりませんが、『声が大きくて怖い、いつも怒られているように感じる』と言っていました」
「そんな、これは地の声で……」
赤城さんは不愉快そうに眉間に皺を寄せる。
私は光圀さんに加勢しようと思って、挙手して言った。
「生まれ持ってのものってどうしようもないですが、意識的に優しくする事はできると思いますよ。言葉の抑揚って、感情に伴うものですから。奥さんを優しくいたわる気持ちで話したなら、威圧的と思われないはずです」
赤城さんは、溜め息をついて唇を引き結んだ。
今度は赤城さんは高い声を出し、目をまん丸にして光圀さんを凝視している。
かくいう私も驚いているし、さすがに美香さんも夫を見つめていた。
「そして、彼女とは男女の仲にありません」
光圀さんは赤城さんに怯えながらも、きっぱりと言う。
「ですがこれは……」
赤城さんはスマホの画像を再度見せつける。
けれど光圀さんは反抗する。
「写真は一緒にいるところを撮っただけですよね? 決定的な、ホテルに入る瞬間などは捉えていない」
「う……」
図星だったのか、赤城さんは言葉に詰まる。
美香さんは夫の言葉を静かに聞いていた。
「学生時代から、強気な恵里菜の子分的な立場にありました。僕は見ての通り、クラスにいれば陰キャで目立たない、いじめられやすいタイプです。恵里菜は目立つタイプで、スクールカーストの頂点にいました。そんな彼女が僕を気に掛けていてくれていたから、僕はいじめられずに済みました」
語られる過去に、もう赤城さんは口を挟もうとしなかった。
「どうしてそんなに正反対の二人が仲よくなったかと言えば、家庭環境と好きな本が似ていたからです。僕は父子家庭で、彼女は母子家庭でした。学校にいてもどこか友達と話が合わず、図書室にいる事が多かったです。閲覧室で本を読んでいたら、『その本面白いの?』と話しかけられました」
思っていたような下世話な関係ではなく、事情ありきの深い関係にあった。
私もそこまで考えられず、黙って光圀さんの話を聞く。
「彼女はもともとそれほど小説に興味がなく、漫画を好んでいました。ですが僕が面白かった本を薦めると、『読んでみる』と言って興味を持ち始めました。僕はミステリー小説が好きで、彼女も最後のどんでん返しなどが気に入ったようです。やがて二人でミステリー小説の話で盛り上がるようになりました。その関係もあり、クラスで僕がからかわれかけたら、さりげなく庇ってくれるようになりました」
そこまで言い、光圀さんはブラックコーヒーを一口飲む。
「僕たちの関係はただそれだけで、お互いを男女として見る事はありませんでした。片親を持つ悩みを打ち明け、慰め合うようになりました。やがて彼女の母は再婚して、高校生後半には安定した顔をしていました。『良かったな』と思って、陰ながら彼女が幸せになる事を祈っていました」
なんだか、いい話だな。
「偶然、大学も同じ学校に進学しました。学部は違ったのですが、キャンパス内で偶然顔を合わせた時は挨拶してくれました。その辺りから疎遠になっていきましたが、メッセージで季節の挨拶などは続けていました。やがて彼女は赤城さんと結婚し、僕は彼女の幸せを祈ったんです」
話題が自分に移り、赤城さんは居住まいを正す。
それまでスルスル話していたのに、光圀さんは少し口ごもる。
「そこまで話したなら、すべて打ち明けてくれ。何を言われても驚かない」
赤城さんに言われ、彼は息をついて再度話しだす。
「……彼女から定期的な挨拶以外に連絡があったのは、三十八歳の時でした。七年前です」
光圀さんは溜め息をつく。
「『夫のモラハラがつらい』と相談されました」
「はぁ!?」
赤城さんが声を上げる。
それから〝モラハラ〟と言われたのを気にしたのか、誤魔化すように咳払いをする。
……まぁ、確かに人に威圧感を与える人だな、とは第一印象で感じた。
体格にも恵まれているし、声も大きくて太い。
語気を強く言われると、私だってちょっと萎縮してしまう。
「僕はモラハラなんて……」
心外だというように言った赤城さんに、美香さんが冷たく言う。
「自覚していない人は、皆そう言うのよ」
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「具体的に妻はどう言っていましたか?」
赤城さんは気にしたのか、光圀さんに丁寧に尋ねてくる。
彼はチラッと赤城さんを気にしたあと、言いにくそうに口を開いた。
「これはモラハラか分かりませんが、『声が大きくて怖い、いつも怒られているように感じる』と言っていました」
「そんな、これは地の声で……」
赤城さんは不愉快そうに眉間に皺を寄せる。
私は光圀さんに加勢しようと思って、挙手して言った。
「生まれ持ってのものってどうしようもないですが、意識的に優しくする事はできると思いますよ。言葉の抑揚って、感情に伴うものですから。奥さんを優しくいたわる気持ちで話したなら、威圧的と思われないはずです」
赤城さんは、溜め息をついて唇を引き結んだ。
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