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番外編 2 タワマン事件簿
常に考え続けないと
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「今日、文香ちゃんと五十嵐来てたんだって?」
「うん、そう」
夜、私は正樹と同じベッドに潜り込み、寝る前に少し話す。
彼は相変わらず忙しくしていて、必ずしも一週間毎日ご飯を一緒に食べられる訳ではない。
寂しさはあるけれど、これは仕方がない。
「楽しかったんなら何よりだけど、あの女、大丈夫?」
正樹はまだ五十嵐さんが苦手なようだ。
「大丈夫だって。それより……」
私は彼女たちと話した事を正樹に教える。
「はぁぁ……。なるほどねぇ……」
正樹は薄闇のなか、腕組みする。
「……まぁ、奥原さんの正体が何なのか、確定した訳じゃないし、夜に働いていたからといって、イコール彼女が悪者になる訳じゃない。けど、百パーセント透明な存在でもない。確実な証拠が出るまではなるべくフラットな目で見て、淡々と証拠が揃うのを待つしかないね」
「そうだね」
私は正樹の冷静さに感謝する。
モヤモヤする点があるからといって、そこから疑いすぎている節は確かにある。
「……ちょっと危なかった。仲のいい者同士って、話が盛り上がっちゃって、ガンガンアクセル踏んじゃうから」
「そうだね。でも優美ちゃんなら、アクセル踏んでも誰かを撥ねる事はないでしょ。やっちゃいけない事を理解して、自分をセーブできてるなら大丈夫」
「ん……」
確かに、内輪で話し合って予想を言うぐらいならアリだ。
実際、さやかさんに何かしたらアウトな訳であって。
「不安になってると、その理由を知って自分を安心させたいから、想像であっても決めつけて答えを知りたがるんだろうね」
今の自分の気持ちを整理しつつ言うと、正樹が同意してくれる。
「だねー。ラベリングすると、物の見方がラクになるのは確かだもんね。『あの人はこういう人だ』って決めつけたら、それで終わり。考えなくて済む。でも、世の中は多面的で、人間はもっと色んな側面を持つ。関わる人によって抱く印象は変わるし、その人の主観、その時の気分によって主張が変わる」
「常に考え続けないと」
溜め息混じりに言うと、正樹が笑って私の頭をポンポン叩いてきた。
「せっかくあのマンションから出たんだから、あんまり考えすぎないようにね? 僕は優美ちゃんと俊希に、ニコニコして平和でいてほしいの。優先順位をきちんとつけて、他人事を背負いすぎないようにね」
「うん」
ふー……、と息を吐き、私は気負っていたものを解放しようとする。
「明日休みだし、息抜きがてら近くのカフェでも行こうか。シッターさんが来てくれる日だし、デートしよ」
「うん、ありがと」
お礼を言ったあと、私はモソモソと寝返りを打って正樹に抱きついた。
「……おやすみ」
「ん、おやすみ」
彼は私の額にチュッとキスをして、優しく抱き締めて脚を絡めた。
**
翌日、私たちは慎也と一緒に近所のカフェに向かった。
全国展開しているお花屋さんが経営するカフェで、店内は緑やお花が溢れていてめっちゃ映えるし気分がアガる!
メニューを開くと、お花屋さんらしくエディブルフラワーをふんだんに使っていて、飲み物もスイーツも、全部可愛い!
「いや~、連れてきてくれてありがとう!」
お花の紅茶にフレンチトースト、(甘い物を頼んだのに)デザートにパフェを頼んだ私は、ニッコニコして二人にお礼を言う。
「どうたしまして。優美ちゃんが笑ってくれるなら、どうって事ないよ」
「たまにはこういう所もいいもんだな」
女性受けのいいお店だけど、男性客がいない訳じゃない。
それに二人も美しいものは好きだから、しっかり世界観の作り込まれた店内をしげしげと見ている。
……そんな二人を、女性客がチラチラ気にしてるのはいつもの事で。
雑談しながら先にきた紅茶を飲んでいたけど、私は「あれ?」と目を瞬かせた。
「どした?」
慎也が私を覗き込む。
「……いや、アレ」
私は彼に顔を寄せて小声で言い、ちょい、と顎をしゃくる。
「うん、そう」
夜、私は正樹と同じベッドに潜り込み、寝る前に少し話す。
彼は相変わらず忙しくしていて、必ずしも一週間毎日ご飯を一緒に食べられる訳ではない。
寂しさはあるけれど、これは仕方がない。
「楽しかったんなら何よりだけど、あの女、大丈夫?」
正樹はまだ五十嵐さんが苦手なようだ。
「大丈夫だって。それより……」
私は彼女たちと話した事を正樹に教える。
「はぁぁ……。なるほどねぇ……」
正樹は薄闇のなか、腕組みする。
「……まぁ、奥原さんの正体が何なのか、確定した訳じゃないし、夜に働いていたからといって、イコール彼女が悪者になる訳じゃない。けど、百パーセント透明な存在でもない。確実な証拠が出るまではなるべくフラットな目で見て、淡々と証拠が揃うのを待つしかないね」
「そうだね」
私は正樹の冷静さに感謝する。
モヤモヤする点があるからといって、そこから疑いすぎている節は確かにある。
「……ちょっと危なかった。仲のいい者同士って、話が盛り上がっちゃって、ガンガンアクセル踏んじゃうから」
「そうだね。でも優美ちゃんなら、アクセル踏んでも誰かを撥ねる事はないでしょ。やっちゃいけない事を理解して、自分をセーブできてるなら大丈夫」
「ん……」
確かに、内輪で話し合って予想を言うぐらいならアリだ。
実際、さやかさんに何かしたらアウトな訳であって。
「不安になってると、その理由を知って自分を安心させたいから、想像であっても決めつけて答えを知りたがるんだろうね」
今の自分の気持ちを整理しつつ言うと、正樹が同意してくれる。
「だねー。ラベリングすると、物の見方がラクになるのは確かだもんね。『あの人はこういう人だ』って決めつけたら、それで終わり。考えなくて済む。でも、世の中は多面的で、人間はもっと色んな側面を持つ。関わる人によって抱く印象は変わるし、その人の主観、その時の気分によって主張が変わる」
「常に考え続けないと」
溜め息混じりに言うと、正樹が笑って私の頭をポンポン叩いてきた。
「せっかくあのマンションから出たんだから、あんまり考えすぎないようにね? 僕は優美ちゃんと俊希に、ニコニコして平和でいてほしいの。優先順位をきちんとつけて、他人事を背負いすぎないようにね」
「うん」
ふー……、と息を吐き、私は気負っていたものを解放しようとする。
「明日休みだし、息抜きがてら近くのカフェでも行こうか。シッターさんが来てくれる日だし、デートしよ」
「うん、ありがと」
お礼を言ったあと、私はモソモソと寝返りを打って正樹に抱きついた。
「……おやすみ」
「ん、おやすみ」
彼は私の額にチュッとキスをして、優しく抱き締めて脚を絡めた。
**
翌日、私たちは慎也と一緒に近所のカフェに向かった。
全国展開しているお花屋さんが経営するカフェで、店内は緑やお花が溢れていてめっちゃ映えるし気分がアガる!
メニューを開くと、お花屋さんらしくエディブルフラワーをふんだんに使っていて、飲み物もスイーツも、全部可愛い!
「いや~、連れてきてくれてありがとう!」
お花の紅茶にフレンチトースト、(甘い物を頼んだのに)デザートにパフェを頼んだ私は、ニッコニコして二人にお礼を言う。
「どうたしまして。優美ちゃんが笑ってくれるなら、どうって事ないよ」
「たまにはこういう所もいいもんだな」
女性受けのいいお店だけど、男性客がいない訳じゃない。
それに二人も美しいものは好きだから、しっかり世界観の作り込まれた店内をしげしげと見ている。
……そんな二人を、女性客がチラチラ気にしてるのはいつもの事で。
雑談しながら先にきた紅茶を飲んでいたけど、私は「あれ?」と目を瞬かせた。
「どした?」
慎也が私を覗き込む。
「……いや、アレ」
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