上 下
488 / 539
番外編 2 タワマン事件簿

常に考え続けないと

しおりを挟む
「今日、文香ちゃんと五十嵐来てたんだって?」

「うん、そう」

 夜、私は正樹と同じベッドに潜り込み、寝る前に少し話す。

 彼は相変わらず忙しくしていて、必ずしも一週間毎日ご飯を一緒に食べられる訳ではない。
 寂しさはあるけれど、これは仕方がない。

「楽しかったんなら何よりだけど、あの女、大丈夫?」

 正樹はまだ五十嵐さんが苦手なようだ。

「大丈夫だって。それより……」

 私は彼女たちと話した事を正樹に教える。

「はぁぁ……。なるほどねぇ……」

 正樹は薄闇のなか、腕組みする。

「……まぁ、奥原さんの正体が何なのか、確定した訳じゃないし、夜に働いていたからといって、イコール彼女が悪者になる訳じゃない。けど、百パーセント透明な存在でもない。確実な証拠が出るまではなるべくフラットな目で見て、淡々と証拠が揃うのを待つしかないね」

「そうだね」

 私は正樹の冷静さに感謝する。

 モヤモヤする点があるからといって、そこから疑いすぎている節は確かにある。

「……ちょっと危なかった。仲のいい者同士って、話が盛り上がっちゃって、ガンガンアクセル踏んじゃうから」

「そうだね。でも優美ちゃんなら、アクセル踏んでも誰かを撥ねる事はないでしょ。やっちゃいけない事を理解して、自分をセーブできてるなら大丈夫」

「ん……」

 確かに、内輪で話し合って予想を言うぐらいならアリだ。
 実際、さやかさんに何かしたらアウトな訳であって。

「不安になってると、その理由を知って自分を安心させたいから、想像であっても決めつけて答えを知りたがるんだろうね」

 今の自分の気持ちを整理しつつ言うと、正樹が同意してくれる。

「だねー。ラベリングすると、物の見方がラクになるのは確かだもんね。『あの人はこういう人だ』って決めつけたら、それで終わり。考えなくて済む。でも、世の中は多面的で、人間はもっと色んな側面を持つ。関わる人によって抱く印象は変わるし、その人の主観、その時の気分によって主張が変わる」

「常に考え続けないと」

 溜め息混じりに言うと、正樹が笑って私の頭をポンポン叩いてきた。

「せっかくあのマンションから出たんだから、あんまり考えすぎないようにね? 僕は優美ちゃんと俊希に、ニコニコして平和でいてほしいの。優先順位をきちんとつけて、他人事を背負いすぎないようにね」

「うん」

 ふー……、と息を吐き、私は気負っていたものを解放しようとする。

「明日休みだし、息抜きがてら近くのカフェでも行こうか。シッターさんが来てくれる日だし、デートしよ」

「うん、ありがと」

 お礼を言ったあと、私はモソモソと寝返りを打って正樹に抱きついた。

「……おやすみ」

「ん、おやすみ」

 彼は私の額にチュッとキスをして、優しく抱き締めて脚を絡めた。



**



 翌日、私たちは慎也と一緒に近所のカフェに向かった。

 全国展開しているお花屋さんが経営するカフェで、店内は緑やお花が溢れていてめっちゃ映えるし気分がアガる!

 メニューを開くと、お花屋さんらしくエディブルフラワーをふんだんに使っていて、飲み物もスイーツも、全部可愛い!

「いや~、連れてきてくれてありがとう!」

 お花の紅茶にフレンチトースト、(甘い物を頼んだのに)デザートにパフェを頼んだ私は、ニッコニコして二人にお礼を言う。

「どうたしまして。優美ちゃんが笑ってくれるなら、どうって事ないよ」

「たまにはこういう所もいいもんだな」

 女性受けのいいお店だけど、男性客がいない訳じゃない。

 それに二人も美しいものは好きだから、しっかり世界観の作り込まれた店内をしげしげと見ている。

 ……そんな二人を、女性客がチラチラ気にしてるのはいつもの事で。

 雑談しながら先にきた紅茶を飲んでいたけど、私は「あれ?」と目を瞬かせた。

「どした?」

 慎也が私を覗き込む。

「……いや、アレ」

 私は彼に顔を寄せて小声で言い、ちょい、と顎をしゃくる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

【R18】こんな産婦人科のお医者さんがいたら♡妄想エロシチュエーション短編作品♡

雪村 里帆
恋愛
ある日、産婦人科に訪れるとそこには顔を見たら赤面してしまう程のイケメン先生がいて…!?何故か看護師もいないし2人きり…エコー検査なのに触診されてしまい…?雪村里帆の妄想エロシチュエーション短編。完全フィクションでお送り致します!

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...