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番外編 2 タワマン事件簿
〝違う〟気がするんだよなぁ……
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正樹がノンカフェインの紅茶を淹れて、高級チョコも出してくれる。
夜だけど食べてしまえ。
女には四の五の言っていられない時がある。
「先に言っておくけど、私、エレベーターホールの横の非常階段で、慎也と美香さんがしゃべってたのを聞いちゃった。それで、クルージングに誘われて慎也がOKしたのも聞いた。私側の情報はそれだけ」
私の話を聞き、慎也はバツが悪そうな顔になる。
「ごめん。やな思いさせたよな」
その言葉には、素直に頷いておく。
「慎也なら断るって信じてた。でも本当にクルージング行っちゃうんだもん。傷付いた」
「ごめん」
謝らせてばっかりで、こっちも気持ちが重たくなる。
責めて謝らせて、困らせて、そんな事で優越感に浸りたい訳じゃない。
確かに傷付いて、彼を責める権利は私にあると思っているけれど、私が求めているのは〝そう〟じゃない。
「……ちゃんと理由を話して」
溜め息をつき、私はチョコレートを摘まむとポンと口に入れる。
品のいい甘さのそれをゆっくり舌の上で転がし、気持ちを落ち着かせた。
「あの時は、優美を盗撮してる人がいると匂わされた。けどその場で答えてくれず、はぐらかされた。クルージングに一緒に行くなら話すと言われて、頷いてしまった」
なんと、盗撮。
話が色恋じゃないと知り、私は思わず天井を仰いだ。
「それで……、クルージングに行って話を聞いたんだけど……」
そこまで言って、慎也の言葉の歯切れが悪くなる。
「ここまできたなら、何でも話して。何を言われても驚かないから」
彼に圧を与えないように、私はなるべく穏やかに言う。
慎也はしばらくテーブルの上を見つめていたけれど、ソファに置いていたバッグから封筒を出し、その中から複数枚の写真をバサッとテーブルに広げた。
「何……、……えっ?」
一瞬何がなんだか分からなかった。
けれど〝それ〟が私ばかりを写した写真に、めちゃくちゃ穴が開けられているモノだと気づき、ゾゾッと背筋が凍った。
強張った表情をする私を、隣に座っている正樹が抱き寄せる。
「気持ち悪いね。分かるよ。でも大丈夫、僕らが守るから」
寒気の走った背中を優しく撫でられたからか、少し気持ちが落ち着く。
それでも、得体の知れない悪意に晒されている気持ち悪さは消えない。
「……これ、どうしたの?」
とにかく話を全部聞こうと思って尋ねると、慎也は暗い表情で話してくれた。
「……はぁ……」
すべて聞いた私は、大きい溜め息をついて夜景を見る。
ネオンで光るビル群を見たあと、焦点を変えると、不安に彩られた自分がガラスに映っている。
「……私思うんだけど、多分美香さんは、自分で言っている通り関係ない気がする。慎也と正樹に『イケメンだから仲良くしたい』って思う気持ちや、私に『ちょっと意地悪してやろう』っていう気持ちは想像できるから、その通りだと思う。特に私に関する事は、マイナスな話題なのにきちんと話している分、嘘を言っていないと思う」
「僕も同意だね」
正樹が頷く。
「それに慎也が推測した通り、社長さんをやっている人ならへたな事をしないんじゃないかな。……まぁ、不倫というか、若い男の子に手を出してるのは、ちょっとスキャンダルになるかもだけど。でも今までずっとそういう生活を続けていた訳でしょ? W不倫していても、別れようとか訴えてやるとか〝問題〟にはなってない。現時点で大騒ぎになる〝問題〟を抱えていない人が、わざわざ自分からリスクを冒す真似をするはずがないと思うの。頭良さそうだし」
一度は嫉妬してしまった相手だけど、美香さんがどんな感じの人かは把握しているつもりだ。
社会的地位があって美容に気を遣い、周囲からどう見られるかを大切にしている。
〝裏〟で問題を抱えて、周囲からヒソヒソ言われているのは承知の上でも、表向きはなんでもない顔をして堂々とする胆力のある人。
そういう人こそ大ボスみたいな立ち位置になりやすいけど、何となく彼女は〝違う〟気がするんだよなぁ……。
小手先のリスクは抱えても、致命傷になる問題は抱えないというか。
周りが何か言っていても、自分は一歩離れたところから俯瞰して状況を見て、感情的になって騒ぎ立てない印象がある。
精神的に大人だから、皆の中心人物になれているんだと思う。
夜だけど食べてしまえ。
女には四の五の言っていられない時がある。
「先に言っておくけど、私、エレベーターホールの横の非常階段で、慎也と美香さんがしゃべってたのを聞いちゃった。それで、クルージングに誘われて慎也がOKしたのも聞いた。私側の情報はそれだけ」
私の話を聞き、慎也はバツが悪そうな顔になる。
「ごめん。やな思いさせたよな」
その言葉には、素直に頷いておく。
「慎也なら断るって信じてた。でも本当にクルージング行っちゃうんだもん。傷付いた」
「ごめん」
謝らせてばっかりで、こっちも気持ちが重たくなる。
責めて謝らせて、困らせて、そんな事で優越感に浸りたい訳じゃない。
確かに傷付いて、彼を責める権利は私にあると思っているけれど、私が求めているのは〝そう〟じゃない。
「……ちゃんと理由を話して」
溜め息をつき、私はチョコレートを摘まむとポンと口に入れる。
品のいい甘さのそれをゆっくり舌の上で転がし、気持ちを落ち着かせた。
「あの時は、優美を盗撮してる人がいると匂わされた。けどその場で答えてくれず、はぐらかされた。クルージングに一緒に行くなら話すと言われて、頷いてしまった」
なんと、盗撮。
話が色恋じゃないと知り、私は思わず天井を仰いだ。
「それで……、クルージングに行って話を聞いたんだけど……」
そこまで言って、慎也の言葉の歯切れが悪くなる。
「ここまできたなら、何でも話して。何を言われても驚かないから」
彼に圧を与えないように、私はなるべく穏やかに言う。
慎也はしばらくテーブルの上を見つめていたけれど、ソファに置いていたバッグから封筒を出し、その中から複数枚の写真をバサッとテーブルに広げた。
「何……、……えっ?」
一瞬何がなんだか分からなかった。
けれど〝それ〟が私ばかりを写した写真に、めちゃくちゃ穴が開けられているモノだと気づき、ゾゾッと背筋が凍った。
強張った表情をする私を、隣に座っている正樹が抱き寄せる。
「気持ち悪いね。分かるよ。でも大丈夫、僕らが守るから」
寒気の走った背中を優しく撫でられたからか、少し気持ちが落ち着く。
それでも、得体の知れない悪意に晒されている気持ち悪さは消えない。
「……これ、どうしたの?」
とにかく話を全部聞こうと思って尋ねると、慎也は暗い表情で話してくれた。
「……はぁ……」
すべて聞いた私は、大きい溜め息をついて夜景を見る。
ネオンで光るビル群を見たあと、焦点を変えると、不安に彩られた自分がガラスに映っている。
「……私思うんだけど、多分美香さんは、自分で言っている通り関係ない気がする。慎也と正樹に『イケメンだから仲良くしたい』って思う気持ちや、私に『ちょっと意地悪してやろう』っていう気持ちは想像できるから、その通りだと思う。特に私に関する事は、マイナスな話題なのにきちんと話している分、嘘を言っていないと思う」
「僕も同意だね」
正樹が頷く。
「それに慎也が推測した通り、社長さんをやっている人ならへたな事をしないんじゃないかな。……まぁ、不倫というか、若い男の子に手を出してるのは、ちょっとスキャンダルになるかもだけど。でも今までずっとそういう生活を続けていた訳でしょ? W不倫していても、別れようとか訴えてやるとか〝問題〟にはなってない。現時点で大騒ぎになる〝問題〟を抱えていない人が、わざわざ自分からリスクを冒す真似をするはずがないと思うの。頭良さそうだし」
一度は嫉妬してしまった相手だけど、美香さんがどんな感じの人かは把握しているつもりだ。
社会的地位があって美容に気を遣い、周囲からどう見られるかを大切にしている。
〝裏〟で問題を抱えて、周囲からヒソヒソ言われているのは承知の上でも、表向きはなんでもない顔をして堂々とする胆力のある人。
そういう人こそ大ボスみたいな立ち位置になりやすいけど、何となく彼女は〝違う〟気がするんだよなぁ……。
小手先のリスクは抱えても、致命傷になる問題は抱えないというか。
周りが何か言っていても、自分は一歩離れたところから俯瞰して状況を見て、感情的になって騒ぎ立てない印象がある。
精神的に大人だから、皆の中心人物になれているんだと思う。
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