上 下
457 / 539
番外編 2 タワマン事件簿

三笠のいる三十三階へ

しおりを挟む
「不愉快な思いをさせて、申し訳ございませんでした。確認のために伺っただけで、お二人が『知らない』と言った言葉を信じます」

 そういうと、成宮さん夫婦は強張った表情のまま頷く。

「事件性がありますので、どうか他言無用にお願いできますか?」

「分かりました」

 清花さんが頷き、圭さんが忠告してくる。

「もしまだ何か起こったら、警察に通報したほうがいいと思いますよ」

「はい、そうします」

 それで成宮さん宅をあとにしようとしたが、清花さんがポツリと呟いた。

「……美香さんが久賀城さんご兄弟を狙ってるのかも」

 その言葉を聞いて、俺はピクリとする。

「……ここだけの話ですが、先日美香さんがうちに来たんです。話した内容については伏せますが、彼女、慎也さんと正樹さんの事を格好いいって言っていましたし」

 ふりだしに戻って、俺は息をつく。

 杉川さんが疑わしいという疑惑について、彼女自身が言っていたように、俺たち兄弟に手を出すリスクが高すぎる。
 不倫しているのは本当だとしても、わざわざ同じマンション内の家庭をかき乱すメリットがない。

 クルージングの時に言っていたように、「少し意地悪してやりたかった」というのが本音だとしても、彼女の場合〝あれ〟止まりな気がする。

 ずっと猫を被っているならともかく、クルージングの時にある程度彼女の話は聞いた。
 その上でさらに久賀城家に手を出してくる、頭の悪い女には思えない。

 成功者で経営者をしていれば、当たり前に忙しい。

 世の中には引っ越しするのが趣味という人もいるが、彼女が引っ越しを考えている様子はなかったし、旦那さんと離婚して家を出て行くそぶりもない。

 なら、わざわざ自分の住んでいるマンションの人間関係を、ぶち壊しにする必要はないんじゃないかと思う。引っ越しするのはとても面倒だし。

 幾ら俺と正樹を気にしているとしても、手出ししたら面倒な相手なら、そう簡単に馬鹿な真似をしないんじゃ……と感じる。

「それも考慮して、慎重に状況を見定めようと思います」

 とりあえずこの夫婦には確認できたから、次へ行こう。

「遅い時間に嫌な話をしてすみませんでした」

 別れを切り出すと、成宮さん夫婦はぎこちなく微笑んだ。

「では、おやすみなさい」

 挨拶して廊下を歩き、エレベーターホールまで行く。

 待機所にはソファがあり、その横には観葉植物と小さめのゴミ箱がある。

 こういう物の管理は管理人がしてくれている。
 優美の写真がゴミ箱に捨てられていたとして、そのまま放置されていれば管理人が発見しただろう。

 その時にコンシェルジュ経由で俺たちに知らせるかは、今はたらればの話なので置いておく。

 管理人がマンション内の点検をする時間は決まっている。
 もし犯人がそれを見越した上で、誰かの目につくように写真を捨てていたのだとしたら……?

 深く考えるほど、色んな人が疑わしくなってくる。

 考えながらエレベーターを待っていたが、随分かかりそうなので非常階段を使う事にした。

 考えて見れば三笠さんがいる三十三階まで二フロア上がるだけだし、エレベーターを待つまでもない。

 精神面が安定していない時、同じ場所にいると思考がどんどんネガティブになっていく。
 場所を変え、環境を変え、体を動かすのが一番だ。

 なるべく何も考えずに階段を上がり、あらかじめ知っていた部屋番号のチャイムを押した。

 ……まだ帰っていないのか。

 何度かチャイムを押して溜め息をついた時、エレベーターが三十三階に着いた電子音が鳴り、彼が姿を現した。

「あれ? 久賀城さん?」

 相変わらずギラついた印象の彼は、パーティーか何かの帰りという格好をしている。
 手にはワインの入った細長い紙袋を持っていた。

「こんばんは。すみません、用事があって」

「待たせてしまってすみません。中、入ります? 男の一人暮らしの、むさ苦しい部屋ですが」

「いえ、立ち話で結構です」

 好意的な様子だが、三笠さんは俺の纏う雰囲気を鋭敏に感じたようだった。

 ……というか、俺の姿を見た瞬間、僅かにギクッとした表情をしたのを見逃さない。

 俺は直感で、優美の写真を撮った人と穴を開けた人物は別なのでは、と思っている。

 杉川さんが言っていた通り、三笠さんが優美に興味を持って写真を撮った可能性は高い。

 だが彼が異常なまでの執念深さを見せ、あんなサイコストーカー的な事をするとは考えづらい。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~

けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。 秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。 グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。 初恋こじらせオフィスラブ

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...