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番外編 2 タワマン事件簿

もう一組のデート

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「マンション内では噂になっていると思うから隠さないけれど、あの人は私じゃなくてもいいのよ。だから私も遊んでる。結婚は形だけしていれば、お互い助かる事もあるからいいんじゃない? 彼が本当に好きな人と再婚したいって言うなら、その時に考えるわ」

 彼女の割り切った答えを聞き、俺は思わず息をつく。

「大人なんですね」

「諦めただけよ。何かに縋り続けるって、疲れるもの」

 穏やかに笑った彼女は、もうこの件については吹っ切れているように見えた。

「私、五十二歳よ? 健康にも美容にも気をつけて百歳まで生きたいけど、あと五十年もないもの。無駄なものにはこだわらないで、やりたい事をどんどんしていくの。夫だとしても、邪魔になるなら執着しないわ」

「さすがです。俺はまだ、若造ですから」

 そう言うと、杉川さんは楽しそうに笑った。

「そういえば、慎也さんって二十八歳よね? 嫌だわ。私が二十四歳の時に生んだ子になるじゃない」

 今さらながら年齢差について言及し、杉川さんはおかしそうに笑う。

「……今さら、ですか?」

 呆れて尋ねると、彼女は魅力的に笑った。

「私はいつでも恋をしていたいタイプなの。恋をするのに年齢なんて関係ないわ。相手の年齢も大して考えた事はないもの」

「……はぁ。……そういう考え方、杉川さんの若さの秘訣みたいに感じられます」

「確かにその通りね」

 褒められて謙遜しないのも、若さの秘訣だろう。

「さて、夕焼けは見逃してあげるけど、せっかくシェフを呼んだから、ランチだけは付き合ってくれるかしら? ソロ活は好きじゃないの」

「……情報量としてなら」

「決まりね」

 杉川さんはニッコリ笑い、そのあとはとりとめもない普通の話題になった。

 一流シェフが振る舞うシーフードは美味かったが、俺は気もそぞろでせっかくの料理を楽しめないでいた。



**



「優美ちゃん、顔、顔」

「……やばい」

 正樹に言われ、私はハッとしてぎこちない笑みを浮かべる。

 場所はなんとプリクラマシーンの仕切りの中だ。

 今朝、慎也が美香さんとのクルージングデートに行くのを見送ったあと、私があんまりにもふてくされていたもんだから、正樹がデートに誘ってくれた。
 俊希はシッターさんにお願いし、久しぶりに正樹と二人きりで出かけている。

「機嫌悪いの分かるけどさ、どうせなら慎也に羨ましがられるようなデートしようよ」

「うん、雰囲気悪くしてごめん」

 そのあと、せっかくだからという事で、正樹とキスしてるプリクラを撮った。
 帰ったら慎也に見せびらかしてやる。

「プリクラマシーンの、この仕切りの中でエッチする子もいるみたいだね?」

「えっ? マジ?」

 もう一枚……と思ってタッチパネルを覗き込んで、背景を吟味していた私は、ギクッとして正樹を振り向く。

「女の子はあらかじめ下着を脱いで入るんだって」

「…………どうしてそういう事知ってるかなぁ……」

 正樹を肘でどついたあと、私は「ほら、撮るよ」と彼と腕を組む。

 一枚目は思いきりふざけた加工をしてしまい、二回目はイチャつこうという事になり、三回目はモデルみたいに撮ろうぜという事で、挑んでいる訳だけれども。

「はい、ピース」

 私はちょっとあざといポーズを取って、正樹に顔を寄せる。

 プリクラは正樹から「撮ろう」と言ってきたくせに、彼は中身についてはまったく興味ないので、私が色々せっせとやっている。

 というか、加工楽しいな……。文香さま並みの美女になれる……。

「僕、目がでっかくなってるね。もっとやったらリトルグレイになれない?」

 宇宙人の名前を出され、私はぶはっと噴き出す。

「じゃあ、私と文香に左右から引っ張られて連行される?」

「あはは! それいいね。あ、ペンちょっと貸して」

 そう言って正樹は私からタッチペンを受け取ると、わざと丸っこい字で『ズッ友だょ……』と書く。

「やめぇ」

 私はそれを見てケラケラ笑う。

 ちなみに正樹のいつもの字は、書道をしっかり習っていただけあって凄く綺麗だ。
 慎也も整った字を書くけど、正樹よりカクカクしたごつい字を書く。字までゴリラだ。

 私も一応書道はやっていたけれど、すぐに飽きてしまってやめたクチだ。
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