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番外編 2 タワマン事件簿
早く帰りたいです
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「価値観の相違はあるかもしれません。ですが妻に相手を害する意思がない以上、相手が歪んだ解釈をして被害者ぶっている確率が高いです」
「そうね。世の中にはそういう可哀想な人がいるわ」
杉川さんはシャンパンを一口飲み、ゆったりとした笑みを浮かべる。
「けど、幸せになるためには、そういう人を無視し続けるか、戦ってものを言えなくするしかないのよ。ステージの上で常に輝くためには、声援もブーイングも同時に受ける覚悟がないと」
そう言う彼女の身の上にも、〝何か〟はあったのだろう。
「……目立とうとか、輝こうとか、特に思っていませんけどね。俺たちは普通の家族の幸せを掴みたいだけです」
「それでも、私たちが住んでいるようなマンションの住人は、絶対に誰かから妬まれているわ。それは確信を持って言える」
「……仰る通りです」
同意すると、杉川さんは脚を組んで息をついた。
そして自分なりの見解を口にした。
「先日のパーティーで皆の様子を見ていたけれど、優美さんを見る女性陣の目は分かりやすかったわね。美人で身長も高くてスタイルもいいから、『芸能人ですか?』って私にこっそり確認してくる人もいたわ。お友達もFamさんだし、羨ましがられるでしょうね」
……文香の性格はさておき、彼女が美人で有名人なのは確かだ。
「彼女と話して『友達になりたい』と思う人がいる傍ら、彼女の性格が鼻につく上、素敵な旦那さんやご友人がいる事に嫉妬してる人もいたわ。表向き『素敵ですね』って言っていても、私には同族の考えている事は手に取るように分かるのよ」
やれやれ、と思って俺は溜め息をつく。
「だから、清花さんだけが疑わしいのではなく、全員を疑ったほうがいいわね。マンション内なら誰だって行き来できるもの。濡れ衣を着せるために、写真を別のフロアのゴミ箱に捨てるなんて、誰にでもできるわ」
「……確かに」
俺は頷く。
「清花さんを庇っている訳じゃないわよ。可能性を考えた上で、全員に平等な動機があると想定した上での事」
「はい」
「同時に、男性だとも考えられるわ。三笠さんが彼女にスマホを向けていたのもそうだけれど、優美さんはとても魅力的だもの。人って綺麗なもの、可愛いものを見ると『つい』撮りたくなるわ。そして今なら、SNSで拡散したくなるのかしらね」
拡散と言われて、俺は唇を引き結ぶ。
とっさに自分のスマホをポケットから出したが、先に杉川さんに言われた。
「私もそう思って軽く検索してみたけれど、今のところ目立つところには写真はなかったわ。『美人』とか『セクシー』とか『人妻』とかもっと男性が喜びそうなワードで検索をかけてみたけれど、優美さんの写真はなかったわね」
一旦、俺は安堵の溜め息をつく。
「三笠さんが優美さんの写真を撮っていたかは分からない。けれど彼が優美さんに好意を持っているのは確かね。それを言うなら成宮さんも熱心に話を聞いていたし、似たようなものだと思うけれど」
「……確かに、男の動機は割とシンプルでしょうね」
けど、陰険じゃなければいいという問題じゃない。
優美が性的に見られているというだけで、不愉快極まりない。
「今のところ、私が知っている情報はこれだけね」
そこまで言い、杉川さんは首をすくめる。
「確かに意地悪してしまったのは認めるけれど、本心ではお節介を焼いたつもりよ。これをどう処理するかは、久賀城家の問題だけれど」
「……ありがとうございます」
確かに、面倒くさいやり方をされたが、これはある種の親切だ。
世の中には「知らなかったほうが良かった」という情報もあるが、この写真は犯罪に繋がりかねない。
事前に知って対策を講じれば、優美に危害が加えられるのを阻止できる。
……と言っても、現段階では誰が黒なのか分からなくて、優美に「身の回りに注意しろ」としか言えないんだが。
とりあえず、三笠さんには近づかせないでおこう。
先日も「ジムで会ったから、一緒にプールで泳いできた」と言って、その時はムカッとしただけで終わったが、これを聞けば話は違ってくる。
「……すみません、早く帰りたいです」
心底疲れ果ててギブアップすると、杉川さんはクスクス笑った。
「仕方がないわね。夕焼けはまた別の機会にするわ。全部片付いたら、ご家族を誘ってもいい?」
「はい」
今度は意地悪なしで、優美も含め全員誘ってくれるのだと知り、それなら……と俺は苦笑いする。
「その時は、杉川さんの旦那さんも?」
夫婦仲が冷え切っていると聞いたが、一応聞いてみる。
すると杉川さんは大きな溜め息をつき、シャンパンをもう一杯手酌した。
「そうね。世の中にはそういう可哀想な人がいるわ」
杉川さんはシャンパンを一口飲み、ゆったりとした笑みを浮かべる。
「けど、幸せになるためには、そういう人を無視し続けるか、戦ってものを言えなくするしかないのよ。ステージの上で常に輝くためには、声援もブーイングも同時に受ける覚悟がないと」
そう言う彼女の身の上にも、〝何か〟はあったのだろう。
「……目立とうとか、輝こうとか、特に思っていませんけどね。俺たちは普通の家族の幸せを掴みたいだけです」
「それでも、私たちが住んでいるようなマンションの住人は、絶対に誰かから妬まれているわ。それは確信を持って言える」
「……仰る通りです」
同意すると、杉川さんは脚を組んで息をついた。
そして自分なりの見解を口にした。
「先日のパーティーで皆の様子を見ていたけれど、優美さんを見る女性陣の目は分かりやすかったわね。美人で身長も高くてスタイルもいいから、『芸能人ですか?』って私にこっそり確認してくる人もいたわ。お友達もFamさんだし、羨ましがられるでしょうね」
……文香の性格はさておき、彼女が美人で有名人なのは確かだ。
「彼女と話して『友達になりたい』と思う人がいる傍ら、彼女の性格が鼻につく上、素敵な旦那さんやご友人がいる事に嫉妬してる人もいたわ。表向き『素敵ですね』って言っていても、私には同族の考えている事は手に取るように分かるのよ」
やれやれ、と思って俺は溜め息をつく。
「だから、清花さんだけが疑わしいのではなく、全員を疑ったほうがいいわね。マンション内なら誰だって行き来できるもの。濡れ衣を着せるために、写真を別のフロアのゴミ箱に捨てるなんて、誰にでもできるわ」
「……確かに」
俺は頷く。
「清花さんを庇っている訳じゃないわよ。可能性を考えた上で、全員に平等な動機があると想定した上での事」
「はい」
「同時に、男性だとも考えられるわ。三笠さんが彼女にスマホを向けていたのもそうだけれど、優美さんはとても魅力的だもの。人って綺麗なもの、可愛いものを見ると『つい』撮りたくなるわ。そして今なら、SNSで拡散したくなるのかしらね」
拡散と言われて、俺は唇を引き結ぶ。
とっさに自分のスマホをポケットから出したが、先に杉川さんに言われた。
「私もそう思って軽く検索してみたけれど、今のところ目立つところには写真はなかったわ。『美人』とか『セクシー』とか『人妻』とかもっと男性が喜びそうなワードで検索をかけてみたけれど、優美さんの写真はなかったわね」
一旦、俺は安堵の溜め息をつく。
「三笠さんが優美さんの写真を撮っていたかは分からない。けれど彼が優美さんに好意を持っているのは確かね。それを言うなら成宮さんも熱心に話を聞いていたし、似たようなものだと思うけれど」
「……確かに、男の動機は割とシンプルでしょうね」
けど、陰険じゃなければいいという問題じゃない。
優美が性的に見られているというだけで、不愉快極まりない。
「今のところ、私が知っている情報はこれだけね」
そこまで言い、杉川さんは首をすくめる。
「確かに意地悪してしまったのは認めるけれど、本心ではお節介を焼いたつもりよ。これをどう処理するかは、久賀城家の問題だけれど」
「……ありがとうございます」
確かに、面倒くさいやり方をされたが、これはある種の親切だ。
世の中には「知らなかったほうが良かった」という情報もあるが、この写真は犯罪に繋がりかねない。
事前に知って対策を講じれば、優美に危害が加えられるのを阻止できる。
……と言っても、現段階では誰が黒なのか分からなくて、優美に「身の回りに注意しろ」としか言えないんだが。
とりあえず、三笠さんには近づかせないでおこう。
先日も「ジムで会ったから、一緒にプールで泳いできた」と言って、その時はムカッとしただけで終わったが、これを聞けば話は違ってくる。
「……すみません、早く帰りたいです」
心底疲れ果ててギブアップすると、杉川さんはクスクス笑った。
「仕方がないわね。夕焼けはまた別の機会にするわ。全部片付いたら、ご家族を誘ってもいい?」
「はい」
今度は意地悪なしで、優美も含め全員誘ってくれるのだと知り、それなら……と俺は苦笑いする。
「その時は、杉川さんの旦那さんも?」
夫婦仲が冷え切っていると聞いたが、一応聞いてみる。
すると杉川さんは大きな溜め息をつき、シャンパンをもう一杯手酌した。
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