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番外編 2 タワマン事件簿
マサキング
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「一円……。一円でお求めできます」
ニッコォ……と笑った正樹が、私の手を両手で包む。
「やっすいなぁ。簡単に倒産するじゃん。そんな会社の商品買わないよ」
「っていうか、分かってたけど正樹ってバカだね。マサキングって何よ」
女性陣二人、容赦のない突っ込みをする。
そんなアホな兄の様子を、キッチンから弟が笑い崩れて見守っている。
あ、和人くんも向こうでプルプル震えてる。
「しかも自分で自分の事、極上の美男とか言っちゃうの? 誇大広告は違法になるからやめといたら?」
文香さまの突っ込みを受け、正樹は私の手を握ったままなまぬるーい笑みを浮かべる。
「文香ちゃんは塩対応でも、僕は優美ちゃんにモテればそれでいいしー」
「私も『買う』とは言ってないけどね?」
「そこをなんとか!」
もうこれじゃあただの押し売りだ。
一方で慎也はキッチンで手早く材料を混ぜ、慣れた手つきでカシュカシュと粉をふるっている。
彼のこだわりは、市販のミックスとかはなるべく使わない事だそうだ。
「はいはい、夜になるまで考えてあげるから」
私はかるーくあしらったあと、少し気になっていた事を尋ねた。
「さっきさ、パーティーで美香さんたちに何か言われてた? えらいチヤホヤされてたみたいだけど」
結婚した以上泰然自若としていたいけど、清花さんにああ言われて、ちょっと気にしている。
向こうも結婚している以上外聞の悪い事はしないだろう。
けどお互い関係が冷えていて、見て見ぬ振りでダブル不倫していると聞くと、「とばっちりがないといいな……」と思ってしまう。
いくら美香さんが美魔女とはいえ、うちの二人が私を放置して彼女にグラつくなんてないと信じている。
けどなぁ……。なんかモヤッとするんだよ。
自分のモノにベタベタ触られた不快感というか。
そういう意味で、念のため聞いてみた。
「あー、と」
それまでふざけ倒していた正樹が、はたと真顔になり、チラッとキッチンにいる慎也を見る。
「その反応は何かあった訳?」
文香が急に不機嫌な声になる。
「いや! 優美を裏切るような事は一切ないし、あり得ない! それは安心してくれ」
キッチンから慎也が大きめの声で言ってくる。
ちなみに奴は電動ハンドミキサーを使わず、ゴリラみたいな腕力で生クリームをホイップする達人だ。
もとは正樹のために栄養バランスのいい食事を……と、料理の道に足を踏み入れた。
けど、あとは完全に趣味になって、最近ではシェフやパティシエの知り合いを作っては色々教えてもらっているようだ。
休日になるとフラッと個人的な料理レッスンに向かって、私たちにその成果を披露してくれる。
そうしている間に色んなものがレベルアップしていって、最初は電動ハンドミキサーを使っていたのが、こだわりで手動に……となっていった。
彼いわく、手首を使って混ぜると腱鞘炎になるので、腕全体を使って混ぜるんだそうだ。
それはそうと、以前に増して腕やら胸板やらが逞しくなってきたような……。
……いや、それはおいておいて。
「色気振りまかれたけど、僕らは何も反応しなかった。それだけだよ」
正樹がスパッと言って、さっきのふざけはどこへやら、めっちゃ真顔をしている。
「……そーぉ?」
そういう返事しかできない私は、ちょっと拗ねてる……のかもしれない。
……いや、恥ずかしいな。嫉妬してたのか。
「第一さぁ、同じマンション内でどうにかなると思う? 泥沼じゃん。昼ドラもびっくりだよ。っていうか一昔前の昼ドラだよ」
正樹がケラケラと笑い、スーッと紅茶の香りを嗅いで「いい匂い」とうっとり微笑んでから飲む。
「僕らはさ、飲みたくない紅茶は絶対に飲まないの」
(あ)
正樹が言っている事を私はすぐに理解する。
確かイギリスの性教育動画で、『相手に紅茶を勧めても、飲みたくないと言われたら飲ませてはいけません』と説明しているものがあった。
相手が寝ている時にむりやり飲ませたら駄目とか、紅茶を性行為にすり替えた分かりやすい動画になっていた。
私もSNSで日本語字幕がついたものを見て、「なるほどな」って思っていたのだけれど。
ニッコォ……と笑った正樹が、私の手を両手で包む。
「やっすいなぁ。簡単に倒産するじゃん。そんな会社の商品買わないよ」
「っていうか、分かってたけど正樹ってバカだね。マサキングって何よ」
女性陣二人、容赦のない突っ込みをする。
そんなアホな兄の様子を、キッチンから弟が笑い崩れて見守っている。
あ、和人くんも向こうでプルプル震えてる。
「しかも自分で自分の事、極上の美男とか言っちゃうの? 誇大広告は違法になるからやめといたら?」
文香さまの突っ込みを受け、正樹は私の手を握ったままなまぬるーい笑みを浮かべる。
「文香ちゃんは塩対応でも、僕は優美ちゃんにモテればそれでいいしー」
「私も『買う』とは言ってないけどね?」
「そこをなんとか!」
もうこれじゃあただの押し売りだ。
一方で慎也はキッチンで手早く材料を混ぜ、慣れた手つきでカシュカシュと粉をふるっている。
彼のこだわりは、市販のミックスとかはなるべく使わない事だそうだ。
「はいはい、夜になるまで考えてあげるから」
私はかるーくあしらったあと、少し気になっていた事を尋ねた。
「さっきさ、パーティーで美香さんたちに何か言われてた? えらいチヤホヤされてたみたいだけど」
結婚した以上泰然自若としていたいけど、清花さんにああ言われて、ちょっと気にしている。
向こうも結婚している以上外聞の悪い事はしないだろう。
けどお互い関係が冷えていて、見て見ぬ振りでダブル不倫していると聞くと、「とばっちりがないといいな……」と思ってしまう。
いくら美香さんが美魔女とはいえ、うちの二人が私を放置して彼女にグラつくなんてないと信じている。
けどなぁ……。なんかモヤッとするんだよ。
自分のモノにベタベタ触られた不快感というか。
そういう意味で、念のため聞いてみた。
「あー、と」
それまでふざけ倒していた正樹が、はたと真顔になり、チラッとキッチンにいる慎也を見る。
「その反応は何かあった訳?」
文香が急に不機嫌な声になる。
「いや! 優美を裏切るような事は一切ないし、あり得ない! それは安心してくれ」
キッチンから慎也が大きめの声で言ってくる。
ちなみに奴は電動ハンドミキサーを使わず、ゴリラみたいな腕力で生クリームをホイップする達人だ。
もとは正樹のために栄養バランスのいい食事を……と、料理の道に足を踏み入れた。
けど、あとは完全に趣味になって、最近ではシェフやパティシエの知り合いを作っては色々教えてもらっているようだ。
休日になるとフラッと個人的な料理レッスンに向かって、私たちにその成果を披露してくれる。
そうしている間に色んなものがレベルアップしていって、最初は電動ハンドミキサーを使っていたのが、こだわりで手動に……となっていった。
彼いわく、手首を使って混ぜると腱鞘炎になるので、腕全体を使って混ぜるんだそうだ。
それはそうと、以前に増して腕やら胸板やらが逞しくなってきたような……。
……いや、それはおいておいて。
「色気振りまかれたけど、僕らは何も反応しなかった。それだけだよ」
正樹がスパッと言って、さっきのふざけはどこへやら、めっちゃ真顔をしている。
「……そーぉ?」
そういう返事しかできない私は、ちょっと拗ねてる……のかもしれない。
……いや、恥ずかしいな。嫉妬してたのか。
「第一さぁ、同じマンション内でどうにかなると思う? 泥沼じゃん。昼ドラもびっくりだよ。っていうか一昔前の昼ドラだよ」
正樹がケラケラと笑い、スーッと紅茶の香りを嗅いで「いい匂い」とうっとり微笑んでから飲む。
「僕らはさ、飲みたくない紅茶は絶対に飲まないの」
(あ)
正樹が言っている事を私はすぐに理解する。
確かイギリスの性教育動画で、『相手に紅茶を勧めても、飲みたくないと言われたら飲ませてはいけません』と説明しているものがあった。
相手が寝ている時にむりやり飲ませたら駄目とか、紅茶を性行為にすり替えた分かりやすい動画になっていた。
私もSNSで日本語字幕がついたものを見て、「なるほどな」って思っていたのだけれど。
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