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番外編 2 タワマン事件簿

タワマンの人付き合い

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「へぇ! それは知らなかった」

 正樹は片付けしてくれようとするので、私がコーヒーの準備をしようとした。
 けれど、こだわりのある正樹に「僕がやるから座ってて」と言われてしまった。

「芸能人が出ていったあとに、その杉川さん? が入ったんだよね。うちにも挨拶に来てくれたんだけど、そんな長話するもんでもないし、忙しかったからちょっと立ち話した程度。そのあと慎也と一緒に住むようになったけど、改めて挨拶もしてないし、そんなもんだなぁ」

「そっかー。なら交流が浅くても仕方ないよね」

 ベビー椅子から解放された俊希は、自由を満喫してトタトタと歩く。

 もともとフローリングだったのを、完全マット製にしたので、転んでも痛くはない。
 でも心配なので、私は彼の前に手を差しだしながら後ろ向きに歩く。

 ちなみにリビングの一角にある〝俊希コーナー〟には、方々からいただいた玩具が沢山あって、お店でも開けそうだ。

 正樹と慎也は知育玩具を、「これ! 皇室ご愛用品だって!」と嬉々として買ってくる。
 何やら友達や取引先、役員からお勧めを聞いては買ってるそうだ。

 今から俊希に習わせたいものを話してるけど、もう少し成長してからかなと思っている。
 けどまず、英語と水泳は習っておいて損はないかな、と感じていた。

「ていうか、都心のタワマンに住んでて〝ご近所さん〟付き合いってほぼないなぁ。逆に俺、優美の実家に行って良美さんが近所の人と立ち話してるのを見て、『あぁ、いいなぁ』って思ったぐらいだし。俺らの実家でも、そういうのないしなぁ」

 テーブルを拭いた慎也がソファに座って言う。
 正樹は食洗機のスイッチを入れ、コーヒーの準備をしていた。

「いやぁ……、ないなとは思ってたけど。っていうか、エレベーターとかで会っても会釈したらいいほうだよね」

「それそれ。雑談なんてしない」

 笑いながら、慎也はフワフワのボールを「ほいっ」と俊希に投げる。

「たぁっ」

 俊希選手、それを素晴らしいコントロールで両手でホームランした。

「あらー、行っちゃったね。俊希! よーいどんで追っかけよう!」

 私が走る真似をすると、俊希は笑顔で走り始めた。
 食後の運動で疲れさせて寝かせる作戦である。

「同じマンションに住んでても、何せ人が多いから、パブリックスペースで一緒になっても『誰でしたっけ?』みたいな感じだし。そもそも、タワマンに住む人って外国人も多いし、生活時間も異なる。家族で住むより、富裕層の独身や高齢夫婦も多いし、皆何やってんだか分かんないなぁ」

 コーヒーをドリップしながら、正樹が言う。

「じゃあ、今日のさやかさんってかなりレアなケースなのかもね?」

 俊希がお気に入りの木馬に乗ったので、私は近くの床に胡座をかいて返事をする。

「かもな。親切な人か、逆に変な話を吹き込む人か」

「あー、まぁね。ちょっと考えなくはなかったけど。……親切そうな人だったし、嫌な感じはしなかった。でも、件の奥様たちについては自分で会って判断するよ」

「だな。それが一番だ」

 よかれと思っても、本人にはありがた迷惑な事ってある。
 嬉しい事ならどんどん聞かせてほしいけど、ネガティブな情報だと場合による。

「事前に知れて対策が取れるからありがたい」場合もあるし、「知らなければ良かった」と思う事もある。

 はてさて、今回のはどっちになるか。

「ママ!」

「はいはい、ママだよー!」

 俊希に抱っこをせがまれて、私は木馬から彼を抱き上げた。
 よしきた。あとは抱っこしておっぱい触らせて寝るコースだ。

 カウチソファに脚を投げ出して座り、俊希を抱っこしてると正樹が来た。

「はい、コーヒー。……と、優美ちゃんにはとうきび茶」

「サンキュ」

 ティーポットの中には、なみなみととうきび茶が入っている。
 ほんのりとうきびの甘みがあるし、ノンカロリー、ノンカフェインなので、妊婦時代からリピっている。

 同じノンカフェインでも、文香は美容のためにルイボスティーを愛飲しているけれど、私はどうもクセがあって駄目だった。

「けどなんか、意外だね。そういう風に〝タワマンでは基本的に交流はない〟って言われてるのに、奥様たちは集まってパーティーだなんて」

「んー、高層階に住んでる一部の奥様限定なのかもね。住人は基本的にそれぞれの時間帯で暮らしてるから、招待状を送っても来ない人はずっと来ない。一度欠席したらタイミングを逃すし『交流会なんて、別にいいか』と思うでしょ。面倒な人もいるだろうし、基本的にこのマンションぐらいに住む人なら忙しそう」

 正樹に言われ、私は頷く。

「確かになぁ」
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