上 下
423 / 539
番外編 1

スコーンとナンパ 1

しおりを挟む
「ねぇ、僕思うんだけど」

 正樹が口を開いたのは、週末に家でゴロゴロしていた時の事だった。

 私はカウチソファに脚を投げ出して、文香とメッセージのやり取りをしている。
 正樹はそんな私の太腿の上に頭をのせ、昼寝をしていたはずだった。

 ちなみに慎也もさっきまでソファに座って本を読んでいたけれど、「小腹が空いたから何か作るか」と言って、キッチンで何かしている。

 で、私は正樹に話しかけられた訳で。

「どした?」

 彼の頭を撫でると、正樹は気持ちよさそうに目を細める。

「僕、かなり優美ちゃんに甘えてると思う」
「うん、まぁそうなのかもね」

 それは否定しない。

「それについて思うんだけど、多分母親に甘えられなかった分も、優美ちゃんに甘えてるのかなって」
「あぁー……」

 言われて確かに、と思った。

 実のお母さんは亡くなられていて、玲奈さんには遠慮があった。

 結局、正樹は誰の事も信頼できず今に至ったのだと思っている。

「でも、マザコン的な感情ではないから、安心して」

「んふふ、分かってるよ」

「優美ちゃんに出会えて、大分……何て言うかな。僕の中の修羅みたいなものが落ち着いてる。中二っぽい表現だけど」

「分かるよ」

 彼の今までを知っているからこそ、誰にも心をさらけ出さずにいたんだろうな、とは思っていた。

 人を信じなければ、自分一人で何とかしてみせるという気持ちになる。
 意固地になり、表面上は愛想良く振る舞って、気を緩められるのが自宅しかない。

「甘えるって、気持ちいいね」
「ん……」

 私は微笑み、正樹の頭をふわふわと撫でる。

「ずっと女性の事は、守る対象、またはやらせてくれる人たち、ぐらいに思ってた。最低だけど」

 正樹は私の毛先を弄び、髪の匂いを嗅ぐ。

「そんな女性に、僕が甘えられると思っていなかったんだ。優美ちゃんと会うまで、再婚する気持ちはゼロだった。勿論、利佳にも甘えた事はなかった。仲が良かった頃は形だけ抱きつくとか、膝枕とかあったけど、心の中は無だったな……」

 言ってから、正樹は息をついて少し話を変える。

「僕さ、遊び歩いていた時に外泊は沢山したけど、寝た事ないんだ」

「ん?」

 意味が分からなくて、私は聞き返す。

「友達の家とかホテルとか、女の子の家とかに行っても、気を許してないから安心して眠れないんだ。どんだけ飲んで酔っ払ってても、朝まで起きてる」

「へぇぇ……。私は眠くなったら寝ちゃうな」

「それだけ、僕は他人を信頼していなかった。だから優美ちゃんと初めてしたあと、自分でもびっくりしたよ。自宅とはいえ他人がいるなら、それまでの僕だったら相手を信用できずに寝なかったと思うんだ。でも初めて三人でしたあと、普通にすやっと寝た。そういう意味もあって、『あれ、この子違うな』って思ったのはあったなぁ」

「そうだったんだ!?」

 それは知らなかったので、思わずちょっと高い声が出た。

「慎也は外で寝れるんだよね」

 正樹が話しかけると、キッチンにいた彼が返事をする。

「俺は図太くできてるから、健康のためにもちゃんと寝るよ」

「あはは! 慎也らしい」

 彼の答えに私は笑う。

「正樹はアレだろ。セックスうまいって評判良かったから、女性に気に入られて気を抜くと跨がられるんだろ」

「ぶっふ……」

 正直そこまでいくと、嫉妬するよりも笑ってしまう。

「寝ようとしてる時まで狙われてるんだったら、セックスよりちん○目当てでしょ……」

 げんなりと言う彼の様子に、私はケラケラ笑う。

「大きくて立派だしね? 気に入られたのかもね?」

 ポンポンとジーンズ越しに彼の股間を叩くと、正樹があらゆる意味でやばい事を言う。

「イヤーッ! 優美さんのエッチ!」

「ぶっはははは!!」

 私も慎也も声を上げて笑い、「お湯かけないと!」と悪ノリする。

「逆に優美ちゃんってさ、文香ちゃんと海外行ってた訳でしょ? ナンパとかされなかったの? 断ったとしても、食事とか飲んでたらテーブルに来ない?」

「あー……」

 言われて、私は文香との旅行を思い出す。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~

けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。 秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。 グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。 初恋こじらせオフィスラブ

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...