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妊娠・出産 編
……甘えたかった
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「スイッチ入れて、〝女〟に戻ろうとした?」
「え? う、うん……」
それを望んだんじゃないの?
不思議に思いながらも頷くと、正樹が額にキスをしてきた。
「今の優美ちゃんは、俊希を生んだ母なんだから、すべての感覚を独身時代に戻さなくていいんだからね?」
そう言われて、胸の奥にあったものがフッ……と軽くなる。
「僕たちは今まで自由に優美ちゃんを求めていた。そもそものきっかけも、僕が乱入して優美ちゃんに受け入れさせてしまった。そのあとも君の優しさに甘えて関係を続けて今に至る。……勿論、今は二人とも心から愛して結婚生活を送れているって分かってるよ」
昔の話が出て少し心配になったものの、最後の言葉に安心して私は頷いた。
「優美ちゃんは今までずっと、僕らを両手で優しく抱き締めて何でも受け入れてくれた。それに甘えてしまっていたのは否定しない。僕が不安定だったのもあったし、本当に甘えてしまった。……その説はありがとう」
正樹にこんな風に言われるなんて、何だか変な感じ。
「どう致しまして。何も無理してなかったけど」
「分かってるよ」
慎也が私の後頭部をスルリと撫で、微笑んでくる。
「だから、今は我慢できるし、優美ちゃんの気持ちが整ってないのにがっついたりしない。僕にも父親の自覚はあるんだ。おむつ替えも得意になってきたしね」
「あはは、いつもありがとう」
笑った私を見て正樹も微笑み、頬をスルリと撫でてくる。
「優美ちゃんがこの一年、全力で突っ走ってきたのは僕も慎也も分かってる。一番側で見ていて、本当に頑張ってるなって思ったよ。初めて母親になって戸惑う事ばかりで、俊希が熱を出した時なんてパニックになってた」
「うん、あの時はビビった」
思い出し笑いをし、私はこの一年を振り返り、その前の生活と大きく変わったのを再度自覚する。
目の前にいる二人は、私の夫で家族だ。
正樹の過去の事を考えて嫉妬してしまう事も、最近はなくなった。
慎也の元カノ事件を思い出しても、「もう関係ないしね」と思っている。
それらより今目の前にある現実の生活のほうが、ずっと大変で考えるべき事だからだ。
物事にきちんと優先順位がつき、大切なものとそうでないものが昔以上にハッキリした。
「今はもう、俺たちに気を遣ってどうこうしようと頑張らなくていい。俺たち家族は優美と俊希を中心に動いている。俺と正樹は妻と子供を守って、心地よく過ごしてもらうために頑張るのみ。それは夜の生活も同じだと思っている」
「つまり、全部私に合わせてくれるっていう事?」
尋ねると、二人は頷く。
「自分の心に耳を澄ましてみて。優美ちゃんは今、どうしたい?」
正樹に尋ねられ、私はしばし思考を手放して心の奥にある本能を感じようとした。
「……怒らないで聞いてくれる?」
「うん」
「当たり前だ」
二人ともベッドにリラックスした表情で座り、私の話を聞いてくれる。
「確かにやっぱり、……突っ走って気を張り詰めすぎて、疲れたな……は感じてる。でも二人は『たまには好きな事をしといで』って、シッターさんを呼んで自由にしてくれる。お陰で文香と遊べるし、美容室とかブラブラ買い物とかできるし、すんごいありがたい」
本当に、私は甘やかされた母親だと思ってる。
「けど……、なんだろ。自分の時間があってありがいんだけど、夫婦でのんびりイチャイチャする時間もほしいって思ってしまう。今はお酒は飲めないけど、夜にゆっくりちょっといい所でディナーして、バーでしっとり飲んで……って。そうできた時間を懐かしいなって思ってしまうんだ」
「確かに、それはあるな」
「僕も思ってはいた」
同意は得られたけれど、私は焦って付け足す。
「その、決して俊希がどうこうじゃなくて、それとは切り離した問題なんだけど」
「分かってるよ、心配しなくていい。俺たちは優美をそんな風に思ってないから」
慎也が私の頭を撫で、落ち着かせるようにその手で肩や二の腕も撫でていく。
「二人と好きなように、自由に遊んで愛し合えた時期が懐かしいんだと思う。でも、現実問題無理なものはあって、それは分かっていて……。だから」
……そうか。
言いながら思考を整理し、私は正樹に抱きついた。
「休みの日でいいから、きっちりせかせか〝生活〟しないで、食事はカップ麺とかでいいから、のんびり二人とくっついていたい……のかもしれない」
自分の気持ちを、少しずつ理解していく。
今までは立ち止まって整理する暇もなかった。
「……甘えたかった」
正樹の腰の上に座り、向かい合わせになると、体を密着させて呟いた。
「うん。たっぷり甘えて」
正樹は私を抱き締めたまま、仰向けになる。
そして私の頭をよしよしと撫で、優しいキスをしてくれた。
反対側には慎也も寝転び、私の肩や二の腕を撫で、耳の輪郭を指でなぞる。
「え? う、うん……」
それを望んだんじゃないの?
不思議に思いながらも頷くと、正樹が額にキスをしてきた。
「今の優美ちゃんは、俊希を生んだ母なんだから、すべての感覚を独身時代に戻さなくていいんだからね?」
そう言われて、胸の奥にあったものがフッ……と軽くなる。
「僕たちは今まで自由に優美ちゃんを求めていた。そもそものきっかけも、僕が乱入して優美ちゃんに受け入れさせてしまった。そのあとも君の優しさに甘えて関係を続けて今に至る。……勿論、今は二人とも心から愛して結婚生活を送れているって分かってるよ」
昔の話が出て少し心配になったものの、最後の言葉に安心して私は頷いた。
「優美ちゃんは今までずっと、僕らを両手で優しく抱き締めて何でも受け入れてくれた。それに甘えてしまっていたのは否定しない。僕が不安定だったのもあったし、本当に甘えてしまった。……その説はありがとう」
正樹にこんな風に言われるなんて、何だか変な感じ。
「どう致しまして。何も無理してなかったけど」
「分かってるよ」
慎也が私の後頭部をスルリと撫で、微笑んでくる。
「だから、今は我慢できるし、優美ちゃんの気持ちが整ってないのにがっついたりしない。僕にも父親の自覚はあるんだ。おむつ替えも得意になってきたしね」
「あはは、いつもありがとう」
笑った私を見て正樹も微笑み、頬をスルリと撫でてくる。
「優美ちゃんがこの一年、全力で突っ走ってきたのは僕も慎也も分かってる。一番側で見ていて、本当に頑張ってるなって思ったよ。初めて母親になって戸惑う事ばかりで、俊希が熱を出した時なんてパニックになってた」
「うん、あの時はビビった」
思い出し笑いをし、私はこの一年を振り返り、その前の生活と大きく変わったのを再度自覚する。
目の前にいる二人は、私の夫で家族だ。
正樹の過去の事を考えて嫉妬してしまう事も、最近はなくなった。
慎也の元カノ事件を思い出しても、「もう関係ないしね」と思っている。
それらより今目の前にある現実の生活のほうが、ずっと大変で考えるべき事だからだ。
物事にきちんと優先順位がつき、大切なものとそうでないものが昔以上にハッキリした。
「今はもう、俺たちに気を遣ってどうこうしようと頑張らなくていい。俺たち家族は優美と俊希を中心に動いている。俺と正樹は妻と子供を守って、心地よく過ごしてもらうために頑張るのみ。それは夜の生活も同じだと思っている」
「つまり、全部私に合わせてくれるっていう事?」
尋ねると、二人は頷く。
「自分の心に耳を澄ましてみて。優美ちゃんは今、どうしたい?」
正樹に尋ねられ、私はしばし思考を手放して心の奥にある本能を感じようとした。
「……怒らないで聞いてくれる?」
「うん」
「当たり前だ」
二人ともベッドにリラックスした表情で座り、私の話を聞いてくれる。
「確かにやっぱり、……突っ走って気を張り詰めすぎて、疲れたな……は感じてる。でも二人は『たまには好きな事をしといで』って、シッターさんを呼んで自由にしてくれる。お陰で文香と遊べるし、美容室とかブラブラ買い物とかできるし、すんごいありがたい」
本当に、私は甘やかされた母親だと思ってる。
「けど……、なんだろ。自分の時間があってありがいんだけど、夫婦でのんびりイチャイチャする時間もほしいって思ってしまう。今はお酒は飲めないけど、夜にゆっくりちょっといい所でディナーして、バーでしっとり飲んで……って。そうできた時間を懐かしいなって思ってしまうんだ」
「確かに、それはあるな」
「僕も思ってはいた」
同意は得られたけれど、私は焦って付け足す。
「その、決して俊希がどうこうじゃなくて、それとは切り離した問題なんだけど」
「分かってるよ、心配しなくていい。俺たちは優美をそんな風に思ってないから」
慎也が私の頭を撫で、落ち着かせるようにその手で肩や二の腕も撫でていく。
「二人と好きなように、自由に遊んで愛し合えた時期が懐かしいんだと思う。でも、現実問題無理なものはあって、それは分かっていて……。だから」
……そうか。
言いながら思考を整理し、私は正樹に抱きついた。
「休みの日でいいから、きっちりせかせか〝生活〟しないで、食事はカップ麺とかでいいから、のんびり二人とくっついていたい……のかもしれない」
自分の気持ちを、少しずつ理解していく。
今までは立ち止まって整理する暇もなかった。
「……甘えたかった」
正樹の腰の上に座り、向かい合わせになると、体を密着させて呟いた。
「うん。たっぷり甘えて」
正樹は私を抱き締めたまま、仰向けになる。
そして私の頭をよしよしと撫で、優しいキスをしてくれた。
反対側には慎也も寝転び、私の肩や二の腕を撫で、耳の輪郭を指でなぞる。
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