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妊娠・出産 編

……初めまして

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 涙目でお腹のほうを見ると、股の間からモジャッとした髪の毛が見えている。

「出てこいってばぁあああぁあ!! ふんーっ!!」

 叫んで思いっきりいきみ、どれぐらい経った時か――。

 あ。

 お腹いっぱいに詰まっていた赤ちゃんが、ドゥルンッ! と勢いよく出た。

「久賀城さん! 生まれたよー!」

 そして聞こえる、元気な産声。

 終わっ……た……?

 酸欠状態でボーッとしていて、目の前がチカチカしている。

「優美、お疲れ様」

 慎也が汗でびっしょりの私の頭をヘアキャップ越しに撫で、額にキスをする。
 多分その時の彼は泣いていたと思うんだけど、私は赤ちゃんの事で頭が一杯だった。

「久賀城さーん、赤ちゃんですよー」

 呼ばれて、体を綺麗にされた赤ちゃんを見せてもらえた。

 毛量……凄い。

 めっちゃ泣いてる。元気だなぁ。

「……初めまして」

 生まれたてほやほやの彼に挨拶をし、私は次から次に涙を零す。

 後ろからグスッと洟を啜る音が聞こえたのは、慎也だろう。

 しばし、赤ちゃんを抱っこさせてもらえた。
 ホヤホヤ泣いていたのも落ち着き、その小さな体の重みを胸の上に、満ち足りた気持ちで過ごす。

 やがて一旦お別れとなり、彼の事はプロに任せる。

 そして私も十分休憩をとったあと、個室に移る事になった。



 陣痛が訪れてからおよそ十二時間、二十三時頃の事だった。



**



 退院後は埼玉からお母さんが来てくれて、何かと面倒をみてくれた。

 本当はホテルを取ると言っていたんだけれど、慎也と正樹が許すはずがない。
 以前に二人が言っていた私の〝避難先〟のマンションが近くにあるんだけど、そこで寝起きして通ってもらう事になった。

 ……そう。結局、「必要だから」と押し切られて、私用のマンションを買われてしまったのだ。

 いつ使う事を想定したか分からないけど、広いマンションなので勿体ない……と思っていた。でも意外なところで役に立っていた。

 勿論、玲奈さんも忙しいなか来てくれて、何かと助けてくれている。

 退院後の出産祝いの内輪パーティーでは、もう思いっきり食べたい物を食べた。
 お寿司にお刺身、焼きたてのステーキ、芳也くんが買って来てくれた高級チョコレートに、未望ちゃんが買って来てくれたオススメ店のケーキ。

 文香もジュエリーみたいに美しいチョコレートを何箱も買ってくれて、「じっくり味わえ」とサムズアップしてくれた。
 和人くんは高級ブランドの焼き菓子の詰め合わせを買って来てくれて、相変わらずこの夫婦はハイセンスだ。

 皆にお祝いしてもらって、妊娠中にずっと我慢していた食欲も解放され、本当に幸せなひとときだった。

 子供は俊希としきと名付け、皆も可愛がってくれた。





「疲れたんじゃない?」

 翌朝、正樹がスムージーを作りながら尋ねてくる。

「んー、平気」

 ちなみにもう、彼は野菜を引きちぎらず包丁を使えていた。
 現在はキャベツの千切りに目覚めた……と見せかけて、便利グッズを次から次に買おうとしているので、「とりあえず相談して!」と怒ったばかりだ。

 私は早朝に俊希のおっぱいコールに応えたあと、リビングのソファでうたた寝をしていた。

 その間、俊希の事は慎也が面倒を見てくれていて、ありがたいばかりだ。

 意外と慎也はあやしの才能があり、おむつを替えるのもうまい。
 なんなら沐浴もうまい。

 現在は正樹が慎也の弟子になって、自分の子供が生まれた時のために予習をしてくれている。ありがたいもんだ。

 そんでもって今、正樹がスムージーを作って目の前に置いてくれた。

「あんがと」

 もっそりと起き上がった私は、のびをしてからバナナと小松菜の豆乳スムージーを飲む。

「慎也、初めての育休楽しんでる?」

 人数分のグラスをテーブルに置きソファに落ち着いたあと、正樹が尋ねる。

「うん、楽しんでるよ」

 慎也は育休を取るかとても悩んでいた。

 気持ちとしては、初産で何かと大変な私のサポートをしたいから、取りたい一択だった。

 けれど今年の四月に副社長になったばかりなのに、育休を取っていいものか……と、めちゃくちゃ悩んで、一時は酷い顔をしていた。
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