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妊娠・出産 編
人生に一回の良き日
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彼はモーニングを着ていて、スラッと背が高いのもあって、とても似合う。
通り過ぎる時に横顔を見たけれど、さすがに緊張しているようだった。
大人しく座っていると、『結婚行進曲』がオルガニストによって演奏され、チャペルのドアが開いた。
おっ、と思って振り向くとブライダルのCMモデルより美しい文香が、お父さんにエスコートされてしずしずと進んでくる。
彼女は長い髪を纏め、側頭部に大きな白い花の髪飾りをつけている。
耳とデコルテにはゴージャスなダイヤモンドのアクセサリーが輝き、彼女の美を引き立てている。
首から肩のライン、そしてふっくらとしたデコルテにすんなりとした腕、すべてが国宝級に美しい。
ドレスは胸元がハートカットになっていて、シルクのような光沢のある生地だ。
後ろは裾を引きずっていて、彼女の小さな従姉妹が裾を持ってちょこちょこ歩いているのがまた可愛い。
ブーケはほんのりピンクがかった薔薇と葉物の、キャスケードブーケだ。
綺麗だなぁ……。
いつも芸能人顔負けの、極上の美女だと思っていたけど、ドレスを着ると本当に女神のようだ。
彼女は緊張した顔で私の前を通り過ぎ、夫となる和人くんのもとへ向かった。
そのあとはお馴染みの流れになり、誓いの言葉のあと、結婚指輪の交換、そして誓いのキスとなった。
私は心の中で指笛を鳴らし、「いいぞもっとやれ!」と二人をけしかける。
けれど神聖なチャペルでそんな事ができるはずもなく、大人しく二人を見守っていた。
私は結婚して久賀城の姓になったけど、文香はこれから岡川文香になるんだなぁ。
もとの名字が円城寺ってパンチがあったから、大人しくなる印象だ。
まぁ、ご本人は大人しくなる予定はないだろうけど。
結婚式のあとは披露宴になり、開場のあと、私は慎也と正樹と一緒にテーブルについた。
多分今日はこのあと、ケーキカット辺りや、ラストのお見送りしか文香と話せるタイミングはないだろう。
経験者なので、当日の大変さは嫌というほど分かる。
文香とはいつでも話せるから、何も今日欲張らなくてもという思いはある。
けれどドレスアップした彼女と一緒に写真と撮れる、結婚式当日は今日しかない。
だから、頑張って一枚ぐらい写真を撮らせてもらえたらと思っていた。
やがて司会の人が話し始め、お色直しをした新郎新婦が入場した。
色んな人の挨拶やら祝辞があり、乾杯となる。
そのあとケーキカットになり、私は慎也に付き添ってもらって前に出て、一生懸命文香の晴れ舞台を写真に収めた。
幸せ一杯に笑ってファーストバイトする彼女たちを撮る。
そのあと、スタッフさんがケーキを切り分けている間、順番を待って文香と写真を撮ろうと試みた。
文香の友人たちが列を作っていて、私は最後尾に大人しく並ぶ。
「大丈夫か?」
慎也が尋ねてくれ、私は「うん」と頷く。
今日はお腹を締め付けない、ゆるっとしたデザインのワンピースを着ている。
靴もローヒールなので、全体的に安定感があった。
妊娠してからなるべくヒールを履かないようにしていたけれど、お腹が大きくなると同時に、普段は見えていた足下が見えなくなる恐怖を味わっている。
なのでいつも以上に慎重に歩く癖がついていた。
順番になり、私は慎也にエスコートしてもらって文香のいる壇に上がる。
「よっす」
「おいっす」
あああ……、綺麗な花嫁さんなのに、ついいつもの感じで挨拶してしまった。
「綺麗だねぇ! 最高!」
私はスマホを構え、パシャパシャと文香と和人くんを撮る。
「慎也、写真撮って」
「OK」
私は文香と和人くんの間に立ち、二人も体を寄せてくれる。
「はい、3、2、1」
慎也が二枚写真を撮ってくれ、きちんと写っているか確認する。
「ありがと~!」
彼にお礼を言ってスマホを受け取っている時、文香が私のお腹を撫でてきた。
「大丈夫? 具合悪くない?」
「うん、大丈夫だよ。ありがと。今日は文香と和人くんが主人公なんだから、私の事は気にしないで人生に一回の良き日を楽しんで」
「ん、そうする」
「優美ちゃん、慎也、今度また正樹も誘って五人で食事しよう。勿論、優美ちゃんの出産が落ち着いた頃に」
和人くんが誘ってくれ、私はにっこり笑う。
「うん、ぜひそうしたい! ありがとう」
そのあと、私の後ろにも待っている人がいるので、邪魔にならないよう席に戻った。
通り過ぎる時に横顔を見たけれど、さすがに緊張しているようだった。
大人しく座っていると、『結婚行進曲』がオルガニストによって演奏され、チャペルのドアが開いた。
おっ、と思って振り向くとブライダルのCMモデルより美しい文香が、お父さんにエスコートされてしずしずと進んでくる。
彼女は長い髪を纏め、側頭部に大きな白い花の髪飾りをつけている。
耳とデコルテにはゴージャスなダイヤモンドのアクセサリーが輝き、彼女の美を引き立てている。
首から肩のライン、そしてふっくらとしたデコルテにすんなりとした腕、すべてが国宝級に美しい。
ドレスは胸元がハートカットになっていて、シルクのような光沢のある生地だ。
後ろは裾を引きずっていて、彼女の小さな従姉妹が裾を持ってちょこちょこ歩いているのがまた可愛い。
ブーケはほんのりピンクがかった薔薇と葉物の、キャスケードブーケだ。
綺麗だなぁ……。
いつも芸能人顔負けの、極上の美女だと思っていたけど、ドレスを着ると本当に女神のようだ。
彼女は緊張した顔で私の前を通り過ぎ、夫となる和人くんのもとへ向かった。
そのあとはお馴染みの流れになり、誓いの言葉のあと、結婚指輪の交換、そして誓いのキスとなった。
私は心の中で指笛を鳴らし、「いいぞもっとやれ!」と二人をけしかける。
けれど神聖なチャペルでそんな事ができるはずもなく、大人しく二人を見守っていた。
私は結婚して久賀城の姓になったけど、文香はこれから岡川文香になるんだなぁ。
もとの名字が円城寺ってパンチがあったから、大人しくなる印象だ。
まぁ、ご本人は大人しくなる予定はないだろうけど。
結婚式のあとは披露宴になり、開場のあと、私は慎也と正樹と一緒にテーブルについた。
多分今日はこのあと、ケーキカット辺りや、ラストのお見送りしか文香と話せるタイミングはないだろう。
経験者なので、当日の大変さは嫌というほど分かる。
文香とはいつでも話せるから、何も今日欲張らなくてもという思いはある。
けれどドレスアップした彼女と一緒に写真と撮れる、結婚式当日は今日しかない。
だから、頑張って一枚ぐらい写真を撮らせてもらえたらと思っていた。
やがて司会の人が話し始め、お色直しをした新郎新婦が入場した。
色んな人の挨拶やら祝辞があり、乾杯となる。
そのあとケーキカットになり、私は慎也に付き添ってもらって前に出て、一生懸命文香の晴れ舞台を写真に収めた。
幸せ一杯に笑ってファーストバイトする彼女たちを撮る。
そのあと、スタッフさんがケーキを切り分けている間、順番を待って文香と写真を撮ろうと試みた。
文香の友人たちが列を作っていて、私は最後尾に大人しく並ぶ。
「大丈夫か?」
慎也が尋ねてくれ、私は「うん」と頷く。
今日はお腹を締め付けない、ゆるっとしたデザインのワンピースを着ている。
靴もローヒールなので、全体的に安定感があった。
妊娠してからなるべくヒールを履かないようにしていたけれど、お腹が大きくなると同時に、普段は見えていた足下が見えなくなる恐怖を味わっている。
なのでいつも以上に慎重に歩く癖がついていた。
順番になり、私は慎也にエスコートしてもらって文香のいる壇に上がる。
「よっす」
「おいっす」
あああ……、綺麗な花嫁さんなのに、ついいつもの感じで挨拶してしまった。
「綺麗だねぇ! 最高!」
私はスマホを構え、パシャパシャと文香と和人くんを撮る。
「慎也、写真撮って」
「OK」
私は文香と和人くんの間に立ち、二人も体を寄せてくれる。
「はい、3、2、1」
慎也が二枚写真を撮ってくれ、きちんと写っているか確認する。
「ありがと~!」
彼にお礼を言ってスマホを受け取っている時、文香が私のお腹を撫でてきた。
「大丈夫? 具合悪くない?」
「うん、大丈夫だよ。ありがと。今日は文香と和人くんが主人公なんだから、私の事は気にしないで人生に一回の良き日を楽しんで」
「ん、そうする」
「優美ちゃん、慎也、今度また正樹も誘って五人で食事しよう。勿論、優美ちゃんの出産が落ち着いた頃に」
和人くんが誘ってくれ、私はにっこり笑う。
「うん、ぜひそうしたい! ありがとう」
そのあと、私の後ろにも待っている人がいるので、邪魔にならないよう席に戻った。
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