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妊娠・出産 編

文香の結婚式

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「そういう意味で、母さんは敵を作らない達人だったな」

「それって強いよね。そもそも敵を作らないほうがいいもの。そんでもって誰とでも平和的に過ごすほうが、ずっと忍耐力が試されると思う。私は我慢できなくて、すぐスパーン! と言っちゃうから、ダメだなぁ」

「優美は優美のやり方でいいよ。人と比べる必要はない」

「うん、そうだね。……っと、おっと」

 その時、お腹の内側からポコンと蹴られて、思わず私はお腹を抱える。

「蹴った?」

「うん。げんっきだわぁ……」

 赤さんはめっちゃ元気が有り余っているようで、ポコポコ蹴ってくださる。

「優美ちゃん、とりあえず座って」

「ん、ありがと」

 正樹に言われ、私はソファに「どっこらしょ」と座る。

「では、聞かせて頂きましょう」

「うむ」

 やにわに二人は私の前に跪き、お腹に顔を寄せて耳を当ててくる。

「そう都合良く……あっ」

「おっ」

「へへっ」

 タイミング良くまたポコンと胎動があり、二人が声を漏らして喜ぶ。

「正樹、嬉しいのは分かるけど笑い方が気持ち悪い」

「えぇ~?」

 笑い方にダメ出しを食らって、正樹が唇を尖らせた。

「うそうそ!」

「優美、何か飲む?」

「ん、いや、特にいいよ。パーティーでお茶を沢山飲んだし」

「じゃあ、白湯でも用意するよ。その間に着替えてきな」

「ありがと」

 私は慎也にお礼を言って、着替えとメイク落としをする。

 そしていつものようにのんびりと夜を過ごし、三人で眠りについたのだった。



**



 そして臨月直前に、文香と和人くんの結婚式が都内のホテルで行われる。

 ここのところ慎也が「にんにくとかはおっぱいの味に影響が出るから、そろそろ食べ物に気をつけた方がいい」と言って、食事のベースは和食になっていた。

 勿論、美味しいからいいんだけど、たまには違う物が食べたい。

 その意味で、結婚式で食べられるフレンチをとても楽しみにしていた。

 その気になれば食べられるんだけどね。

 何て言うか、二人が凄く気を遣ってくれているから、合わせたほうがいいなと思って。

 とはいえ、すべてがより良い状態のために、きっちりと厳格にルールを守られている訳ではない。
 ラーメンが食べたくなる時だってあるし、ストレスが一番いけないという事で、二人は私に付き合ってくれる。

 勿論あっさりめの奴だけど。

 四か月ぐらいからマタニティヨガやマタニティアクアに通い始め、ウォーキングもして運動不足を解消している。
 慎也と正樹に「一人で行動して万が一の事があったら困る」と言われているので、なるべくウォーキングする時は文香に付き合ってもらっていた。

 彼女も「結婚式前のダイエットに丁度いいわ」と言って、快く付き合ってくれているのがありがたい。

 そんな訳で、妊娠中も適度に運動をして、大体好きな物を食べられていた。





「優美、大丈夫か?」

「ん、平気」

 式が行われるホテルに来て、私は慎也に手を引かれてゆっくり歩く。

 九か月になり、大きくなった赤さんに胃が圧迫され、時々気持ち悪くなったり、歩いていてゼエゼエする事も増えてきた。

 花嫁の手伝いを……と思ったけれど、それは彼女側から「無理するな。来てくれるだけで凄く嬉しい」と言われていた。
 うん、私も無理はできないと思ったけど。

 万が一の事があった場合に備え、文香はウエディングプランナーにもしもの時の病院の連絡先や、移動手段などもしっかり確認してくれていた。
 ホテル近くの産婦人科の場所を確かめ、何があっても大丈夫なようにしておく。

 と言っても、担当医から参列しても大丈夫と言われるぐらい、順調ではあるんだけど。

 文香の友達らしき女性たちは、皆身なりのいいお嬢さんだった。

 ありがたくも「優美と一緒にいるのが一番楽」と言ってもらえている。
 けど、お嬢様には相応の友達がいて、仮面を被っていたのだとしても、何とかやっていたんだろう。

 聞いた話では性格が合わなくて〝明るい学生時代〟ではなかったみたいだけど。

 そうこうしている間に、チャペルに和人くんが神父さんと一緒に入場し、祭壇前に立った。
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