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妊娠・出産 編
パーティーと奥様たち
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彼は帰りに書店で名付け辞典を買ってきた。
ご飯を食べ終わったあと、三人で辞典を捲りながら意見交換をして、なかなか有意義な時間になった。
**
季節が過ぎるのは早いもので、バレンタインが終わって盛大なホワイトデーをもらったあと、三月の末に彼らの大叔父さんのお疲れ様会をした。
四月に入ると社長、副社長就任パーティーがあり、妻として参加しないとと思い、七か月のお腹で向かった。
ワンピース姿で、カジュアルな感じがして申し訳ないけれど、体に負担を掛ける訳にいかない。
役員の奥様方が挨拶に来て、ペラペラ喋る。
「それにしても慎也さんはまだ二十七歳で副社長でしょう? 才気溢れる方ですけど、社長もお若くて不安になりません?」
いきなり失礼だな。
「いいえ。二人とも商才があって周囲に認められ、今日を迎えたのだと思います。それに皆様方の旦那様もしっかりした方々なんでしょう? 重役の方々、株主の方々の同意を得て決まったのですから、大丈夫だと信じています」
きっぱりと言いきった私がおもねるタイプではないと知って、ご夫人達は意外そうな顔をしていた。
けれど、自分の夫を褒められてまんざらでもない顔をしている。
そうです。対策はすでに打っておきました。
ただ悠々自適に生活しているだけじゃアレだから、正樹と慎也に役員や取引先の人について教えてもらっていた。
どこ出身、何が好物で何が趣味、家族構成に奥さんはどういう人で……というのを、全部頭に叩き込んだ。
だからパーティーで、誰さんにはどう振る舞うべきか把握しているつもりだ。
「加賀さんですよね? 今日の色留袖、とても素敵ですね。指輪の真珠の光沢も一際輝きが違うように思えます。天然真珠ですか?」
リーダー格の夫人に微笑みかけると、彼女がにっこり笑う。
「あら、お目が高いのね。嫁いだ時に夫の母から譲り受けたの」
加賀さんは指を揃えて大きな真珠と自身のスラリとした指を見せ、満足そうに微笑んだ。
「そのお義母様って……」
知っている情報から突っ込みすぎない程度に会話を膨らませていくと、加賀さんは話題が自分中心になった事に気を良くして、ニコニコ話しだす。
加賀さんがその調子なので、取り巻きの奥様たちも話を合わせていく。
十分経った頃には、皆さんすっかり友好的になってくれていた。
「正樹さんも若いし、慎也さんと優美さんも若いからどうなる事かと思ったけれど、話しているととても頭の回転のいい方ね。私の事も随分調べたみたいで、人付き合いのために学ぼうとする意欲も買ったわ」
おや、バレてた。
私は調べていた事を隠さず、堂々と笑う。
「加賀さんにはすべてお見通しなのですね。恐れ入ります」
「ふふ、伊達に三十年近く加賀の妻をしていないわ。人生の先輩でもあるしね」
悪戯っぽく笑った彼女に、私は「お見それします」と微笑み返す。
「それにしても七か月ですって? 調子は大丈夫なの?」
「はい、お陰様で」
「何かあったらいつでも相談して頂戴。玲奈さんや、ご実家のお母様がいらっしゃるから大丈夫とは思うけれど。子供が大きくなってからのママ友との付き合い方とか、私たちなら経験豊富ですからね」
加賀さんが言うと、他の奥様たちが「そうよねぇ~」と笑う。
最初は「試してやろう」という空気がバシバシ伝わってきたけれど、無事打ち解けられたみたいだ。
そのあと、加賀さんたちのメッセージアプリのグループに入れてもらい、タイミングのいい時に、お茶でもしましょうという流れになった。
「優美、今日どうだった? 囲まれてたみたいだけど」
「大丈夫! うまくやれた!」
私はビシッとサムズアップする。
「良かった~! あの奥さん、公正な判断をするし、いい人なんだけど、厳格だから僕らは〝ザ・ジャッジ〟って呼んでるんだよね」
うーん、そのあだ名を聞いて、「分からないでもない」と思ってしまった。
確かに彼女が「ノー」と言えば他の奥さんたちも「ノー」になって、それが役員の夫に伝わっていきそうだ。
実際に役員として働いている女性もいるから、本当に軽んじられない。
「玲奈さんは彼女たちと、どういう関係だったの?」
昌明さんの妻なら、周囲も放っておけなかっただろう。
「あー、玲奈さんの場合、性格が〝ああ〟でしょ? 皆して〝フワフワしたお姫様を守る女騎士〟みたいな感じになってたなぁ」
正樹の言葉を聞き、私は「あー」と声を出し頷いた。
ご飯を食べ終わったあと、三人で辞典を捲りながら意見交換をして、なかなか有意義な時間になった。
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季節が過ぎるのは早いもので、バレンタインが終わって盛大なホワイトデーをもらったあと、三月の末に彼らの大叔父さんのお疲れ様会をした。
四月に入ると社長、副社長就任パーティーがあり、妻として参加しないとと思い、七か月のお腹で向かった。
ワンピース姿で、カジュアルな感じがして申し訳ないけれど、体に負担を掛ける訳にいかない。
役員の奥様方が挨拶に来て、ペラペラ喋る。
「それにしても慎也さんはまだ二十七歳で副社長でしょう? 才気溢れる方ですけど、社長もお若くて不安になりません?」
いきなり失礼だな。
「いいえ。二人とも商才があって周囲に認められ、今日を迎えたのだと思います。それに皆様方の旦那様もしっかりした方々なんでしょう? 重役の方々、株主の方々の同意を得て決まったのですから、大丈夫だと信じています」
きっぱりと言いきった私がおもねるタイプではないと知って、ご夫人達は意外そうな顔をしていた。
けれど、自分の夫を褒められてまんざらでもない顔をしている。
そうです。対策はすでに打っておきました。
ただ悠々自適に生活しているだけじゃアレだから、正樹と慎也に役員や取引先の人について教えてもらっていた。
どこ出身、何が好物で何が趣味、家族構成に奥さんはどういう人で……というのを、全部頭に叩き込んだ。
だからパーティーで、誰さんにはどう振る舞うべきか把握しているつもりだ。
「加賀さんですよね? 今日の色留袖、とても素敵ですね。指輪の真珠の光沢も一際輝きが違うように思えます。天然真珠ですか?」
リーダー格の夫人に微笑みかけると、彼女がにっこり笑う。
「あら、お目が高いのね。嫁いだ時に夫の母から譲り受けたの」
加賀さんは指を揃えて大きな真珠と自身のスラリとした指を見せ、満足そうに微笑んだ。
「そのお義母様って……」
知っている情報から突っ込みすぎない程度に会話を膨らませていくと、加賀さんは話題が自分中心になった事に気を良くして、ニコニコ話しだす。
加賀さんがその調子なので、取り巻きの奥様たちも話を合わせていく。
十分経った頃には、皆さんすっかり友好的になってくれていた。
「正樹さんも若いし、慎也さんと優美さんも若いからどうなる事かと思ったけれど、話しているととても頭の回転のいい方ね。私の事も随分調べたみたいで、人付き合いのために学ぼうとする意欲も買ったわ」
おや、バレてた。
私は調べていた事を隠さず、堂々と笑う。
「加賀さんにはすべてお見通しなのですね。恐れ入ります」
「ふふ、伊達に三十年近く加賀の妻をしていないわ。人生の先輩でもあるしね」
悪戯っぽく笑った彼女に、私は「お見それします」と微笑み返す。
「それにしても七か月ですって? 調子は大丈夫なの?」
「はい、お陰様で」
「何かあったらいつでも相談して頂戴。玲奈さんや、ご実家のお母様がいらっしゃるから大丈夫とは思うけれど。子供が大きくなってからのママ友との付き合い方とか、私たちなら経験豊富ですからね」
加賀さんが言うと、他の奥様たちが「そうよねぇ~」と笑う。
最初は「試してやろう」という空気がバシバシ伝わってきたけれど、無事打ち解けられたみたいだ。
そのあと、加賀さんたちのメッセージアプリのグループに入れてもらい、タイミングのいい時に、お茶でもしましょうという流れになった。
「優美、今日どうだった? 囲まれてたみたいだけど」
「大丈夫! うまくやれた!」
私はビシッとサムズアップする。
「良かった~! あの奥さん、公正な判断をするし、いい人なんだけど、厳格だから僕らは〝ザ・ジャッジ〟って呼んでるんだよね」
うーん、そのあだ名を聞いて、「分からないでもない」と思ってしまった。
確かに彼女が「ノー」と言えば他の奥さんたちも「ノー」になって、それが役員の夫に伝わっていきそうだ。
実際に役員として働いている女性もいるから、本当に軽んじられない。
「玲奈さんは彼女たちと、どういう関係だったの?」
昌明さんの妻なら、周囲も放っておけなかっただろう。
「あー、玲奈さんの場合、性格が〝ああ〟でしょ? 皆して〝フワフワしたお姫様を守る女騎士〟みたいな感じになってたなぁ」
正樹の言葉を聞き、私は「あー」と声を出し頷いた。
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