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妊娠・出産 編
〝人〟になる
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――愛しい。
「ありがとう」
お礼を言ったあと、念のために尋ねてみる。
「あの、ご要望があれば手でとか口で……とか、可能だけど」
「あのさぁ、優美ちゃん」
正樹が私の肩を抱いた腕に、のしっと力を込める。
「してくれたとして、絶対エロ顔になるでしょ。出させてもらって、僕たちが優美ちゃんを気持ちよくさせたいって思わない訳ないでしょ」
「あ……」
そういえばこの二人、サービス精神の塊だった。
「だーかーら」
慎也は私の頭をポンポンと撫でてくる。
「優美は気にしなくていいの。気持ちは嬉しいけどさ」
ほっぺにキスをされ、胸の中が温かな感情で満たされていく。
「……ありがとう。本当は物足りないって思われてたらどうしようって不安になってた。ほら、出産育児でレスになって……ってよく聞くじゃない」
ここまでしつこく言った理由を口にすると、慎也は納得して頷いた。
「一般的にはそう言われるかもしれないけど、子供ができても恋人みたいな関係を続けている夫婦はある。あんまり情報に踊らされんな」
慎也に優しく言われ、私は安堵して頷く。
「うん、ありがとう」
安心したら急に眠たくなってきた。
「……お休み……」
「ん、おやすみ」
「おやすみ」
私は二人にちゅっちゅっとキスをされ、手を繋いで目を閉じた。
**
そして一月末、定期検診に言った時、五十代後半のおばちゃん先生が笑った。
「うん、男の子だね」
「おお……」
どっちでも嬉しかったけれど、やっぱり男の子を期待されているのでは? と思っていたので、安堵した。
診察に付き添ってくれた慎也が、私の肩に手を置く。
「経過もいい感じだし、また四週後ぐらいに予約入れとこうね」
「はい!」
「男の子だって」
「うん。本当にどっちでも嬉しかったんだけど、男の子だって分かった途端、何かクるものがあるな……」
帰り道、私と慎也は手を繋いで帰っていた。
病院はマンションから徒歩圏内で、運動がてら歩いて通っていた。
慎也は定期検診の時は仕事を抜けて付き合ってくれる。
先生も「仲がいいね」と褒めてくれ、嬉しい。
「……慎也が今何を考えてるか、当ててあげよっか」
「っはは、すぐバレそう」
「『名前何にしようかな?』」
「当たり!」
私たちは顔を見合わせて「あはは!」と笑い、繋いだ手をブンブンと振る。
「とりあえず正樹にも知らせて三人で考えようよ」
「そうだな。アイデアは人数が多いほどいいと思う」
そのあともそれぞれ名前を考えながら歩き、マンションが近くなった頃に慎也が呟く。
「本当に生まれるんだなっていう感じがする。いや、今まで自覚がなかった訳じゃないけど、性別、名前だろ。〝人〟になるな……って思う」
「分かるよ。私も〝赤さん〟とかぼんやりとした呼び方だったし」
さん付けなのは、今の私の生活はこの子が中心だし、敬意を込めてだ。
「こうやって少しずつ存在感を増して、〝人〟になっていくんだなぁ」
慎也は私のお腹を覗き込み、そっと触ってくる。
「お腹の中で、すこーしずつニンゲンの形になってきてるよ」
「だな。あー、人体の神秘すげぇ!」
慎也は嬉しそうに笑い、私を家まで送り届けたあと、玄関先でチュッとキスをして会社にトンボ帰りをした。
結局その日は性別が判明したお祝いで、慎也が家政婦さんと一緒にご馳走を作ってくれた。
私は家族や文香に性別が分かったと報告し、温かな言葉をもらっている。
正樹は手放しに喜んでくれ、慎也と同じように名前を考えてはニヤニヤしていて、今日の仕事は手に着かなかったらしい。すまん。
「ありがとう」
お礼を言ったあと、念のために尋ねてみる。
「あの、ご要望があれば手でとか口で……とか、可能だけど」
「あのさぁ、優美ちゃん」
正樹が私の肩を抱いた腕に、のしっと力を込める。
「してくれたとして、絶対エロ顔になるでしょ。出させてもらって、僕たちが優美ちゃんを気持ちよくさせたいって思わない訳ないでしょ」
「あ……」
そういえばこの二人、サービス精神の塊だった。
「だーかーら」
慎也は私の頭をポンポンと撫でてくる。
「優美は気にしなくていいの。気持ちは嬉しいけどさ」
ほっぺにキスをされ、胸の中が温かな感情で満たされていく。
「……ありがとう。本当は物足りないって思われてたらどうしようって不安になってた。ほら、出産育児でレスになって……ってよく聞くじゃない」
ここまでしつこく言った理由を口にすると、慎也は納得して頷いた。
「一般的にはそう言われるかもしれないけど、子供ができても恋人みたいな関係を続けている夫婦はある。あんまり情報に踊らされんな」
慎也に優しく言われ、私は安堵して頷く。
「うん、ありがとう」
安心したら急に眠たくなってきた。
「……お休み……」
「ん、おやすみ」
「おやすみ」
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「うん、男の子だね」
「おお……」
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診察に付き添ってくれた慎也が、私の肩に手を置く。
「経過もいい感じだし、また四週後ぐらいに予約入れとこうね」
「はい!」
「男の子だって」
「うん。本当にどっちでも嬉しかったんだけど、男の子だって分かった途端、何かクるものがあるな……」
帰り道、私と慎也は手を繋いで帰っていた。
病院はマンションから徒歩圏内で、運動がてら歩いて通っていた。
慎也は定期検診の時は仕事を抜けて付き合ってくれる。
先生も「仲がいいね」と褒めてくれ、嬉しい。
「……慎也が今何を考えてるか、当ててあげよっか」
「っはは、すぐバレそう」
「『名前何にしようかな?』」
「当たり!」
私たちは顔を見合わせて「あはは!」と笑い、繋いだ手をブンブンと振る。
「とりあえず正樹にも知らせて三人で考えようよ」
「そうだな。アイデアは人数が多いほどいいと思う」
そのあともそれぞれ名前を考えながら歩き、マンションが近くなった頃に慎也が呟く。
「本当に生まれるんだなっていう感じがする。いや、今まで自覚がなかった訳じゃないけど、性別、名前だろ。〝人〟になるな……って思う」
「分かるよ。私も〝赤さん〟とかぼんやりとした呼び方だったし」
さん付けなのは、今の私の生活はこの子が中心だし、敬意を込めてだ。
「こうやって少しずつ存在感を増して、〝人〟になっていくんだなぁ」
慎也は私のお腹を覗き込み、そっと触ってくる。
「お腹の中で、すこーしずつニンゲンの形になってきてるよ」
「だな。あー、人体の神秘すげぇ!」
慎也は嬉しそうに笑い、私を家まで送り届けたあと、玄関先でチュッとキスをして会社にトンボ帰りをした。
結局その日は性別が判明したお祝いで、慎也が家政婦さんと一緒にご馳走を作ってくれた。
私は家族や文香に性別が分かったと報告し、温かな言葉をもらっている。
正樹は手放しに喜んでくれ、慎也と同じように名前を考えてはニヤニヤしていて、今日の仕事は手に着かなかったらしい。すまん。
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