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妊娠・出産 編

私たちのリズムで

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 ただ、そういう願望は今の自分の心にも根を張っているから、気をつけないとな……と思う。

 今大事にしないといけないのは、満足する気持ちだ。

 初恋の二人と結婚できた。
 痩せて周りから認められるようになった。

 仕事のスキルも得たし、ハキハキと自分の意見を言える女性になれた。
 ありがたい事に生活レベルもグッと上がった。

 ほとんどの人が「羨ましい」と言う存在になれている。

 なら、これ以上欲を持つなと言われても、それは違う。

 人間だもの、常に何かしらの欲は抱えているし、日々を乗り越えていくにはご褒美が必要だ。

 それでも、求めすぎると身を滅ぼす。

 今自分が身を置いている環境はとても幸せで、恵まれたものだ。
 多少の不満を持っていても、そのすべてを解消して願いを叶えようとしなくてもいい。

 人生、山あり谷ありが当たり前だ。
〝楽〟ばかりの人生なんてあり得ない。

 百合さんも、「多少不便なぐらいが丁度いいのよ」と言っていた。

 今一番大切なのは、無事に子供を産む事。
 そして、慎也と正樹と話し合いながら、理想の家族を築き上げていく事。

 それが最優先事項だ。

「何でもかんでも今すぐ!」は駄目。

「……うん、よし。……我慢するね。多少ムチムチでも、元気な赤ちゃんを産む事を優先する。それは私にしかできないもの」

 そう答えたのを聞いて、二人とも少し安心した表情になった。

「承認欲求の問題なら、俺たちが毎日ベタベタに褒めて甘やかして、『愛してる』って言う。……それじゃ代わりにならない?」

「いや、自分の機嫌は自分で取る! 何かできなくなるなら、代わりの楽しい何かを見つけてみせる。そのほうが楽しいでしょ?」

 ニカッと笑うと、「さすが優美ちゃん!」と正樹が抱きついてきた。

「とりあえず、明日病院行ってみてからだね」

「俺もついてく」

 すかさず慎也が言い、正樹が頷く。

「そうしなよ。僕は行けないけど、慎也は父親として付き添ってあげて」

 ん、と思って彼を見たけれど、もう寂しそうな顔はしていなかった。
 きちんと自分の役割を理解した上で、慎也を一人目の父親として認めていた。

「…………うん」

 きっと、大丈夫。

 二人が側にいてくれるなら、妊娠出産でメンタルがガタついてもやっていける。

「まぁ、楽しみにしててくださいな!」

 私は二人の腕を抱き、笑った。



 話している間に、朝はすでに訪れていた。

 休日でも朝から早く活動し始める人がいる。

 他人ひとは他人のリズムで、私たちは私たちのリズムで。

 無理なく、楽しく。



**



 その後、私の妊娠は確定した。

 周りから盛大な「おめでとう」の言葉をもらったあと、元気に健康に出産する事を目標に、毎日を楽しく過ごす事にした。

 楽しく過ごすと言っても、豪遊する訳じゃない。
 何気ない毎日の中で、自分が嬉しく、楽しく思うものを見つけ、気分を上げながら平和に過ごすだけだ。

 恵まれてるなと思ったのは、家事を家政婦さんと分担できる事だった。

 二人が仕事をしている間、私は家で家事をしている。
 勿論掃除や洗濯は普通にするけど、クリーニングに頼ったり、お掃除ロボットの太郎(一階)と花子(二階)の後始末をする程度だ。
 水回りや拭き掃除は、家政婦さんが請け負ってくれるのでありがたい。

 家政婦さんにお願いしたのは、二人が「無理はしてほしくない」と言ったからだ。

 ご飯を炊く匂いに「うっ」となってしまうので、炊事時間は散歩して回避させてもらった。

 この世界に、私ほど甘やかされた妊婦はいないんじゃないか、っていうぐらいだ。





 あっという間に年末になり、ご馳走が美味しい時期。

 そして、私にとって試練の時だ。

 何せ丁度その年末年始の頃がつわりのピークで、私は頻繁に「うっぷ……」としていた。

 ご馳走を作るのは慎也と家政婦さんに任せ、正樹とのんびりと散歩する。

「妊婦さんも大変だねぇ。生物なまものに気をつけなきゃいけないとか、塩分とか……」

「そうなんだよねぇ……」

 正樹に言われ、私はげんなりとして頷く。

 産婦人科の先生にあれこれ聞いたけれど、前のめりになってメモまで取って詳しく聞いたのは慎也だ。
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