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ハワイ 編

だからもう、迷わない

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「部屋で休んでるみたいだから、邪魔したら悪いと思って」

「ふぅん。一応気を遣えるんだ」

 ストレートだなぁ。

 あんまり友達が多くないっていうの、よく分かる。

 ただ、僕もものをハッキリ言うタイプだから、目くそ鼻くそだな。

「優美の事、幸せにしてね。あの子が泣いて私の所に逃げてくるような事があったら、二人ともぶん殴るから」

「分かってるよ。愛してるし、これ以上なく大切にしてるし、そんな事にならない。……ように努力する」

「男目線の『愛してるから、こんなに大切にしてるのに』ほど、信用ならない言葉はないけどね」

 喧嘩を売るような声に、思わず溜め息が漏れる。

「文香ちゃんさぁ、僕の事嫌いなの?」

「別に? 優美に近づく男は全員嫌い。でもあんた達二人は、比較的マシな扱いをしているつもりだけど」

 ……筋金入りだな。

「……お世辞を言わない分、君の事は信頼してるけど」

「それはどうも」

 ……何だか。

 何のために呼び寄せたのやら。

 こういう時、和人くんは気配を消すもんなぁ。

 彼と一対一で話すと、普通の男性で愛想もいいし楽しい。
 だけど文香ちゃんがいると、女王様気質な彼女に隠れて存在がなくなる。

「このまま結婚したら、恐妻?」「尻の下に敷かれる?」とか考えちゃうけど、二人からすればバランスがいいんだろう。
 優美ちゃんから聞いた話では、幼馴染みからの長い恋を成就させたらしいし。

「ねぇ、ぶっちゃけ、優美と慎也の結婚式を見ててどう思った?」

 あー、そっちか。

「心から祝福してたよ。文香ちゃんみたいに一眼レフじゃないけど、めっちゃ写真撮ったし。楽しかったし、いい結婚式だった」

「心の底からそう思ってるならいいけど。……ずーっと思ってたけど、あんた達『独り占めしたい』って思わないの? 私は和人を誰かとシェアするなんて無理。考えただけで気がおかしくなる。優美が選んだ人を否定したい訳じゃない。ただ、そこから何かが崩れて、優美が不幸になるのが嫌なの」

 こういう事を強く言われすぎていたら、「やっぱり身を引こうかな」って気持ちが揺れたかもしれない。

 でも今は、僕を受け入れると言ってくれた彼女を信じてる。

 重い荷物を背負わせる申し訳なさはあるけど、僕があそこまで誰かを信頼し、心を開いたのは彼女が初めてだ。

 だからもう、迷わない。

「絶対に不幸にしないよ。それは断言する。関係が不安定になっても絶対何とかする」

 僕の返事を聞いたあと、文香ちゃんは少し黙る。

「……ふーん。『じゃあ抜ける』とか言わないんだ」

 見透かされていたようで、僕は苦笑いする。

「それは今まで散々考えたよ。そのたびに優美ちゃんに励まされて、ここまできた」

「あの子、励ましのスペシャリストみたいだよね」

「あっは! 分かる」

 そういう所が好きなんだと、文香ちゃんとの間に共通点が生まれる。

「僕が身を引けばいいとか、何回も考えた。そうすれば逆に二人に気を遣わせてしまう。きっかけは、慎也が僕に気を遣った事だ。それにのったのが僕で、受け入れてくれたのが優美ちゃん。一度運命共同体になってしまった以上、僕が途中下車しますって言ったら、残る二人もうまくいかなくなる気がしてる」

「……悔しいけど分かる。あの子は責任感が強い。一度受け入れて責任を持つって決めた相手が、『迷惑になるから』って遠ざかっていったら、いつまでも気にする。自分の何が悪かったのか考えて反省会をする。それで、『幸せにできなかった』って自分を責める」

 彼女らしいけど……。

 少し引っかかりを覚えた時、文香ちゃんが続ける。

「『幸せにできなかった』なんて傲慢な考えだって、優美も分かってるんだよ。でもあの子は周りの人に助けられて、今の自分がいると思っている。感謝しているから、今度は自分が周りに恩返ししたいと思ってるの。無理はしないけど、余力があれば身近にいる人を幸せにしたいって願っている。幸せなんて独り占めすればいいのに。優美はいつでも人を気に掛けて、分け与えてばっかり」

 文香ちゃんは溜め息をつき、水を飲む。

「あの子が〝凄い人〟だと皆分かってる。行動力があるから、会社では成績がいい。努力し続けたから、外見もキープできている。けど、そういう努力を見ないで『恵まれた人だ』ってやっかむバカがいる。そういうバカにまで優美は理解を示す。『理由があるはず』って、相手が改善する気持ちを持ってるなら、敵対したのをなかった事にして救おうとする」

 五十嵐の顔が浮かび、僕は「あー……」となる。

「そういう、何でも受け入れて救おうとするあの子だから、ズブズブの関係になったあんた達にやられないか、心配で堪らないの」

 彼女の言う事は、一理ある。
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