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入籍 編

肯定してもらうのって照れるね

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〝そう〟なった結果、どうなるかは世の中に実例が沢山ある。

『絶対ああなるもんか』って思う人がいるから、私は足を踏ん張って闇に落ちずにいられている。

 結局は、理性を保っていられるかどうか。
 常識と非常識の境目をきちんと判別できるか。

 それだけだ。

「僕って思ってたよりずっと完璧主義者で、鬱になりやすいタイプだったのかもね」

「かもねー。私も似たところあるから、皆で寄り添って助け合っていこう」

「ん」

 微笑んだ正樹は、私を抱き寄せてキスをしてきた。
 ちゅ、ちゅ、と唇をついばみ、息をついて顔を離すと、大事そうに私を見つめてくる。

 目が合うと微笑んで、またキスをしてくる。

「……イチャイチャしたい」

 吐息混じりに言ったあと、正樹は私を抱き上げてベッドルームに向かう。

「……するの?」

 彼の首に両手を回し、私は尋ねる。

「どうだろうね、その場任せ」

 答えた正樹は、私をキングサイズのベッドの上にそっと寝かせたあと、ジャケットを脱いだ。

 ――と、部屋のチャイムが鳴ったので「行ってくるね」と出入り口に向かう。

 やがて彼は氷の入ったバケツで冷やされたシャンパンと、グラスを持って戻ってきた。

「飲もっか」

「ん。お高いシャンパン、がぶ飲みしてやる」

 そう言うと、正樹が「いいねぇ~」と笑った。

 彼がシャンパンを注いでくれ、ベッドの上で乾杯する。
 私はフルートグラスに入った薄金色のお高い飲み物を、香りを楽しみながら飲んだ。

「私、幸せだよ」

「うん、それなら良かった」

「前まで太ってて恋愛どころじゃなかったでしょ? 浜崎くんと付き合ってもアレだったでしょ? 初恋の人とまた出会えたと思ったら、結婚できた。雲の上の理想の人って思っていたのに、泥臭い人間の部分を見せてくれる。これって、私を信頼してくれているからでしょ? 嬉しいなぁって思うよ」

「前向きだねぇ」

 私はシャンパンを一口飲み、ベッドサイドに置いてからボレロを脱ぐ。
 ついでにハイヒールも脱いで、ワンピースも皺にならないように脱いで、横にある椅子に掛けた。
 黒いスリップとストッキング姿になり、ポンとベッドに飛び乗る。

「私って、自己肯定感が地面通り越してマントルに届くぐらい低かった。だから自分は一生、幸せな恋愛なんてできないって思ってたんだよね。でも痩せられて、文香と出会って人生が楽しくなった。『恋愛とか特にいいや』って吹っ切れて、人生をどうやって楽しむかに注力し始めたら、どんどん色んな事が好転していった。そりゃあ嫌な事はあるし、嫌な人、合わない人がいてイライラする。でもちょっとやそっと嫌がらせされたからって、せっかく掴めた幸せを手離すのは勿体ないな、って思うの」

 ベッドの上で私は脚を組み、正樹の肩に頭をのせる。

「慎也と正樹みたいないい男、絶対に離すもんかって思ってる。私はいまだに自分の良さが分からないけど、二人は私のいい所を沢山見つけてくれてる。だから、そこをもっと伸ばしてやろうって思ってる。自分の駄目なところは分かってるし、治しにくいと思う」

「うん」

 ネクタイを緩めつつ、正樹は頷く。

「何にでも言えるけど、短所のパラメータを一生懸命伸ばしても、全体的に見れば平均になっちゃうんだよ。〝折原優美〟っていうブランドができてるなら、皆が認めてくれているところをガンガン伸ばしていったら、きっともっと需要ができて幸せになれる」

「そうだね。凄く同意する」

 正樹は私の手をにぎにぎして笑った。

「これって、正樹にも言えるからね」

「あ」

 自分自身には当てはめていなかったようで、彼は素の声を漏らす。
 それがおかしくて、私はクスクス笑った。

「……僕のいい所って何だろう? 見た目と金と家柄しか思いつかないけど」

「明るくてノリが良くて、話してて楽しいよ。オフになったらふざけてばっかりだけど、オンになったらびっくりするぐらいしっかりしてる。リーダーシップがある。何だかんだ言いながら、前に進もうと努力してる姿が好きだよ」

 その言葉を聞いたあと、正樹はグラスをベッドサイドに置いた。
 私を抱き締め、まふっと押し倒してきた。

 彼は私の谷間に顔を埋めて呟く。

「誰かに褒めて、肯定してもらうのって照れるね」

「でしょー。私も二人に褒められるたびに照れてるよ」

 彼を抱き締め返し、私は微笑む。
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