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慎也と元カノ 編
SNSトーク
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隣にいる慎也を見ると、ドン引きしていた。
「まー、別に見せてもどうって事はないんだけど、『弟のご飯が美味しい』とか『恋人が可愛くてつらい』とか、そういう事ばっかりだねー」
言いながら正樹は画面をスクロールしていったけれど、本当に大した事はない。
『おなかすいた』とか、『今日は唐揚げの気分』とか、『仕事しんどい』とか、ごくごく普通のユーザーだ。
「正樹だったら、根暗なアカウント作ってそうって思ってた。人の恨み辛み書いたりとか」
「ああ、そういうのはどっかで漏れたらヤバイから、一切やらないよ。文章ソフトでドバーッと書いて、パソコンのMDNファイルに纏めてる」
「MDN?」
芸能人のような略し方をされ、私は首を傾げてフリを入れる。
「『正樹のデスノート』」
「「ぶふぉっ!!」」
私と慎也は同時に噴きだす。
「やっば……。マジモンじゃん」
「僕が死んだ時は、しっかりデータ消してね!」
ネタにして笑っていたけれど、割とリアルな事を言われてちょっと……な気持ちになる。
「まだ結婚する前なのに、そういう事言わないでよもぉ……」
「あはは、ごめんごめん。でも僕は割とまじめに、早い段階から遺言状とか用意しておくつもりだよ」
遺言状と言われて、胸の奥が鈍く痛む。
「確かに、いつ何があるか分かんないよな。そんで、ポクッと死んで何事もなく済むような家でもないし。資産もそこそこあるし、優美に迷惑かけらんねーよな」
慎也まで同意するので、ちょっと落ち込んでしまう。
「そういうの、考えておくの当たり前なの?」
「んまー、普通は七十代、八十代になってからが普通だろうけどね。終活ってやつ。でも、備えあれば憂いなしっていうのは、その通りだと思ってるよ」
「確かに、一理あるけど……」
私は溜め息をつき、何とはなしにメニューを見る。
「ごめんねって。勿論、簡単にくたばるつもりはないから、安心して。最低二人は優美ちゃんに産んでもらって、華麗なる久賀城家を繁栄させていくんだから」
今度は子供の話になり、思わず笑う。
「頑張りたいけど、授かり物だからそんなに期待しないでね」
だけど兄弟は顔を見合わせてニヤァ……、と笑うのみだ。コラコラ。
「SNSの話に戻るけど、慎也は割とまともにやってるよね。ポツリッターはやってないみたいだけど、フォトジェニストでオシャレな写真を載せてるのを、僕は知ってる……」
両手で顔を覆った正樹が、指の間からわざとらしく慎也を見る。
「正樹だってやってるだろ?」
慎也は呆れて言い、正樹はトントンとスマホを操作してフォトジェニストのアプリを開く。
「見てよ僕の過去の投稿。慎也が作ってくれた弁当とご飯ばっかり。『これが恋人が作ってくれた物なら……』って思うよね。っていうか、そういう風に勘違いしてるフォロワーもいたっけ」
テーブルの上に載せられたスマホを覗くと、食べ物や旅行の写真とか、すっごい素敵な写真が沢山ある。
「えー、嘘。やだ。二人ともフォローしていい?」
私は急に二人のアカウントに興味津々になり、スマホを取りだす。
「優美ちゃん、繋がっていいの? それならぜひ!」
「俺もフォローしたい」
そのあと三人で、アカウントをフォローし合う。
「あっは! 『知り合いじゃありませんか?』って出てきたの、これ文香ちゃんでしょ。フォローしとこっと」
文香はビミョーにSNSでの慣れ合いとか、嫌がるタイプだから、どうなんだろうなぁ。
私は特別って言ってるけど、リアルで顔を合わせている人ほど、SNSで繋がりたくないタイプだ。
多分、自分の二面性っていうかを知られたくないんだろうな。
「彼女、インフルエンサーだし、あんまり構ってくれなくても気を悪くしないでね」
「分かってるよ。僕だってSNSで頻繁にやり取りするほど、時間が余ってる訳じゃないから。基本的に備忘録程度に投稿して、あとはサラッと見て終わり」
「俺も同じ。一応、学生時代からの友達とかは沢山繋がってるけど、そんなにコメントの応酬はしないかな。お互い忙しいのは分かってるから、その辺りはありがたい」
「いい意味でドライな付き合いできてて良かったね。私ともそんな感じでお願いします」
にっこり笑うと、正樹がいやらしーい笑みを浮かべた。
「えー? エッチなDMとか送ったら駄目なやつ? 『マサ活しませんか?』とか」
マサ活って何ですか。
「もしそういうの送ってきたら、ブロックする」
私は完璧なビジネススマイルを浮かべてやり返す。
「きっびし!」
「俺はE&Eフーズ時代から、優美のトークアプリは知ってたもんなー。勝ち!」
「くっそ……」
いつの間にか、私のSNSを知っているか否かで勝敗を決める流れになっている。
「それにしても、元カノさんはもう大丈夫そうな感じ?」
話を元に戻すと、慎也が「ああ」と顔を上げる。
「まー、別に見せてもどうって事はないんだけど、『弟のご飯が美味しい』とか『恋人が可愛くてつらい』とか、そういう事ばっかりだねー」
言いながら正樹は画面をスクロールしていったけれど、本当に大した事はない。
『おなかすいた』とか、『今日は唐揚げの気分』とか、『仕事しんどい』とか、ごくごく普通のユーザーだ。
「正樹だったら、根暗なアカウント作ってそうって思ってた。人の恨み辛み書いたりとか」
「ああ、そういうのはどっかで漏れたらヤバイから、一切やらないよ。文章ソフトでドバーッと書いて、パソコンのMDNファイルに纏めてる」
「MDN?」
芸能人のような略し方をされ、私は首を傾げてフリを入れる。
「『正樹のデスノート』」
「「ぶふぉっ!!」」
私と慎也は同時に噴きだす。
「やっば……。マジモンじゃん」
「僕が死んだ時は、しっかりデータ消してね!」
ネタにして笑っていたけれど、割とリアルな事を言われてちょっと……な気持ちになる。
「まだ結婚する前なのに、そういう事言わないでよもぉ……」
「あはは、ごめんごめん。でも僕は割とまじめに、早い段階から遺言状とか用意しておくつもりだよ」
遺言状と言われて、胸の奥が鈍く痛む。
「確かに、いつ何があるか分かんないよな。そんで、ポクッと死んで何事もなく済むような家でもないし。資産もそこそこあるし、優美に迷惑かけらんねーよな」
慎也まで同意するので、ちょっと落ち込んでしまう。
「そういうの、考えておくの当たり前なの?」
「んまー、普通は七十代、八十代になってからが普通だろうけどね。終活ってやつ。でも、備えあれば憂いなしっていうのは、その通りだと思ってるよ」
「確かに、一理あるけど……」
私は溜め息をつき、何とはなしにメニューを見る。
「ごめんねって。勿論、簡単にくたばるつもりはないから、安心して。最低二人は優美ちゃんに産んでもらって、華麗なる久賀城家を繁栄させていくんだから」
今度は子供の話になり、思わず笑う。
「頑張りたいけど、授かり物だからそんなに期待しないでね」
だけど兄弟は顔を見合わせてニヤァ……、と笑うのみだ。コラコラ。
「SNSの話に戻るけど、慎也は割とまともにやってるよね。ポツリッターはやってないみたいだけど、フォトジェニストでオシャレな写真を載せてるのを、僕は知ってる……」
両手で顔を覆った正樹が、指の間からわざとらしく慎也を見る。
「正樹だってやってるだろ?」
慎也は呆れて言い、正樹はトントンとスマホを操作してフォトジェニストのアプリを開く。
「見てよ僕の過去の投稿。慎也が作ってくれた弁当とご飯ばっかり。『これが恋人が作ってくれた物なら……』って思うよね。っていうか、そういう風に勘違いしてるフォロワーもいたっけ」
テーブルの上に載せられたスマホを覗くと、食べ物や旅行の写真とか、すっごい素敵な写真が沢山ある。
「えー、嘘。やだ。二人ともフォローしていい?」
私は急に二人のアカウントに興味津々になり、スマホを取りだす。
「優美ちゃん、繋がっていいの? それならぜひ!」
「俺もフォローしたい」
そのあと三人で、アカウントをフォローし合う。
「あっは! 『知り合いじゃありませんか?』って出てきたの、これ文香ちゃんでしょ。フォローしとこっと」
文香はビミョーにSNSでの慣れ合いとか、嫌がるタイプだから、どうなんだろうなぁ。
私は特別って言ってるけど、リアルで顔を合わせている人ほど、SNSで繋がりたくないタイプだ。
多分、自分の二面性っていうかを知られたくないんだろうな。
「彼女、インフルエンサーだし、あんまり構ってくれなくても気を悪くしないでね」
「分かってるよ。僕だってSNSで頻繁にやり取りするほど、時間が余ってる訳じゃないから。基本的に備忘録程度に投稿して、あとはサラッと見て終わり」
「俺も同じ。一応、学生時代からの友達とかは沢山繋がってるけど、そんなにコメントの応酬はしないかな。お互い忙しいのは分かってるから、その辺りはありがたい」
「いい意味でドライな付き合いできてて良かったね。私ともそんな感じでお願いします」
にっこり笑うと、正樹がいやらしーい笑みを浮かべた。
「えー? エッチなDMとか送ったら駄目なやつ? 『マサ活しませんか?』とか」
マサ活って何ですか。
「もしそういうの送ってきたら、ブロックする」
私は完璧なビジネススマイルを浮かべてやり返す。
「きっびし!」
「俺はE&Eフーズ時代から、優美のトークアプリは知ってたもんなー。勝ち!」
「くっそ……」
いつの間にか、私のSNSを知っているか否かで勝敗を決める流れになっている。
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