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正樹と料理 編

さて! レッスンを始めます!

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 けれど今は正樹が話していると思い、言葉を留めたようだった。

「ですが、両家の家族に話させて頂いたように、僕たちは三人で幸せになる道を選びました。結婚生活も子供の事も、僕らなりにきちんと考えています」

 正樹が言い終わったあと、慎也が正樹に目で合図をし、話し始める。

「この関係が多くの人の耳に入れば、優美さんが好奇の目で見られます。俺たちはあまり他人に、家庭環境について言わないつもりです。生活するにしても、幸い住んでいる場所は近隣住人と頻繁に顔を合わせる環境ではありません。いずれ子供が生まれても、深く聞いてくる人はいないと思っています」

 慎也は折原家に向かって微笑んでみせる。

「万が一、何か言われる事があっても、俺たちは優美さんも子供も守っていきます。今は色んな形の愛が認められる時代だからこそ、俺たちが築こうとしている特殊な家族の形も、皆さんに受け入れてもらえたら……と思っています」

 最後に、私が頭を下げた。

「どうぞ、見守ってください。宜しくお願い致します」

 二人も私と同時に頭を下げる。

 一呼吸置いてから、パン、と手を打つ音がし、パチパチと拍手の音がする。

 顔を上げると、お祖母ちゃんが拍手をしていた。
 続いてすぐにお母さんも拍手をし、全員に広がっていく。

 その暖かな波が落ち着いた頃、お母さんが口を開いた。

「色々仰ってくださいましたが、うちの優美はお二人の事を心から愛していますし、折原家は三人での関係に何の不安もありません。社会的にどう見られるかについては、不安がないと言ったら嘘になります。ですがそれは、両家が力を合わせてサポートしていけたら……と思っています」

「ぜひとも!」

 玲奈さんが笑顔で頷き、ようやく全員の空気が明るくなった。

「皆で三人を支えていきましょう」

 お祖母ちゃんが締め、皆が笑顔で頷いた。

 そのタイミングで飲み物が運ばれてきて、先付から始まる懐石料理のコースが始まった。
 秋の味覚をふんだんに取り入れ、品良く彩りよく、それでいて上品な味付けに皆が笑顔になる。

 最初に真剣な話をしたからか、食事中はそれぞれとの結婚式の話題が中心になった。
 うちの家族にはざっくりと正樹との式の話をしていたけれど、本人や久賀城家の人たちを交えて話すのは初めてだ。

(ああ、良かったな)

 ――これで皆で幸せになれる。

 結婚式一か月前でやる事目白押しだけれど、私たちは確かに最高潮に幸せを感じていた。





 その日は帰ったあと、三人でワインを開けて祝杯を挙げた。

 もう三人とも本当に嬉しくなってしまって、変な絡みをしながら次々にワインを開けて酔っ払う。

 三人ともお酒には強いはずだけれど、浮かれていたのとカパカパグラスを空けていたのがたたったのか、気がついたら三人でベッドにもつれ込み、スヤリと眠ってしまった。



**



「さて! レッスンを始めます!」

 容赦なく、翌日は正樹の料理特訓だ。
 私は赤いカフェエプロンをつけ、髪を纏めた姿でキッチンに立つ。

「今日は三食、正樹が私のサポートのもと、きちんとご飯を作り終えるまでご飯なしとします!」

「きっびしぃ!」

 一番に悲鳴を上げたのは、なぜか当の正樹だ。

 時刻は朝の六時。特に超早起きではない。
 世のお弁当を作っているお母さんは、もっと早い時間に起きて働いているはずだ。

「では、先にお味噌汁の鍋に水を入れて、昆布を放り込んでおきます」

 私は正樹にお味噌汁用の鍋を教え、それに六分から七分くらいの水を入れさせる。
 そしてあらかじめ使いやすい大きさにカットした昆布を瓶から取り出し、鍋にポイさせた。

「じゃあ、お米を炊くよ」

 私は正樹に冷蔵庫に入っている、電動真空ボックスを見せ、その中に入っているお米を計量カップで二合分測らせ、水を張ったボウルに入れてもらう。
 それから、後ろから正樹の手を握ってお米をすすぐ。

「あはっ、これいいね」

「ぼやぼやしない! 最初のすすぎはスピードが命! お米は乾いてるから、最初のお水をぐんぐん吸うの。綺麗なお水でシャーッと洗って、ペッと捨てる!」

 私は容赦なく正樹の手を掴んだままお米を掻き混ぜ、ボウルを傾けてお水を捨てていく。

「お米粒落とさないようにね。勿体ないから」

「ん、分かった」

 私がスパルタ気味と分かった正樹は、真剣な声で返事をする。
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