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正樹と料理 編

正樹の家事スペック

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「んま、んまーい!」

 久しぶりに食べた慎也のご飯は、めちゃくちゃ美味しい。

 勿論、実家のご飯も美味しいんだけど、随分慎也に胃袋を掴まれたようだ。

 何をどうやってるのか知らないけど、慎也の作るハンバーグってすっごい柔らかくて肉汁ジューシーで、とっても美味しい。

「優美、俺のハンバーグ好きだから、帰る日に作ろうって思ってたんだ」

「ありがとう!」

 楽しい食卓を囲んでいた訳だけれど、正樹が溜め息をついた。

「僕も作れるようになりたいなぁ。ねぇ、慎也、料理って難しい?」

 おっ、やる気を見せた。

 今まで、「向いてない」って言って諦めてた感があったからなぁ。
 けど、慎也はしょっぱい顔をしたままだ。

「やる気があるなら教えるけどさ、俺の言う事聞ける?」

「えー? いっつもちゃんと聞いてるじゃん」

「じゃあ、どうして『白菜切ってみて』って言った途端、包丁を振り上げて親の敵でも斬るような目をするんだよ」

 ……あー、これは筋金入りのやつですね。
 絶対カボチャを切らせたら駄目なやつ。

「正樹そっちかぁ……。料理音痴っていうか」

「あれぇ? 僕って全パラメータ高いキャラだよね?」

「性格と家事だけはぶっ壊れてるな」

 慎也の冷静な答えに、正樹は「あれぇ?」と首を傾げる。

「カップ麺は作れるでしょ?」

「蓋開けて、中身全部突っ込んで、お湯入れたらいい奴だよね?」

「場合による」

 真顔で突っ込んだ私に向けて、慎也が渋い顔で首を左右に振る。

「こいつ、カップ焼きそばにお湯入れてソースも入れて、三分経って全部捨てる奴だから」

「あああ……」

 私は思わず俯いてうなり声を上げる。

「お陰で俺、正樹が失敗したカップ麺の、リカバリーとリメイク巧くなったよな……」

 慎也はとても感慨深い顔をしている。
 なるほど、この兄弟の軌跡が見えてきた。

「今は慎也がカップ麺も作ってくれるって言うから、言葉に甘えてるかな」

「あれ? 正樹ってスムージーぐらいなら作れるんじゃなかった?」

 前に聞いた話を言うと、慎也が微妙な顔になる。

「割と原始的だけどな。バナナの皮を剥いて手でちぎって放り込んで、最近はほうれん草とかは洗ったあと切らないでちぎって入れてるな。最初は茎のお尻の部分、包丁で切ってたんだけど、その手つきがヤバくて俺が『やめろ』って言ったんだ」

「お陰で僕、野菜を引きちぎるの巧くなったよ」

「それさぁ、威張る事じゃないよぉ?」

 呆れ果てて疲れさえ感じてきた私は、正樹に突っ込みを入れる。

「何でだろうな? 仕事ではきちんと手順を踏んで、あれこれやれてるはずなのに」

「僕思うんだけど、仕事じゃないからだと思うなぁ」

「あっ……」

 なるほど、と思って私は深く頷いた。

 正樹は仮面を被って〝久賀城正樹〟を演じている時は完璧だけど、その仮面を脱いだらもーぉ、ポンコツだ。
 適当だし大雑把だし、普通「え?」となる事態になっても平然としている。

「そのくせ、コーヒーと紅茶、お茶類は淹れるの巧いんだよな。掃除もきちんとするし」

「あれはなんか、手順が決まってるから、インプットしたらそれで終わりで楽だよね。料理ってほら、品によって手順が変わるじゃん? そういうの対応できないんだ」

「ちなみに洗濯は?」

 私が尋ねると、慎也はまた難しい顔になる。

「絶対触らないって誓約書を書かせた」

「あっは! 泡まみれにしたのは謝るって。てか、大体はクリーニングに出したら済むからいーじゃん。掃除だってお掃除ロボットくんがいる訳だし」

 そう。この家はメゾネットの一階、二階それぞれにお掃除ロボットがいて、定期的に綺麗にしてくれている。ちなみに名前は太郎と花子だ。
 私たちはたまに階段や隅っこに掃除機を掛けて、拭き掃除するだけ。

「うーん……。正樹の大体のスペックは分かった」

「あれ、僕ポンコツ扱い?」

 彼はおかしそうに笑っていて、相変わらず反省している様子がない。
 お味噌汁を飲み終えて「ごちそうさま」をしてから、私は水を飲んで彼に尋ねる。

「本気で何かできるようになりたいって思うなら、私がマンツーマンで教えてあげようか? 慎也の教え方はどうだったか知らないけど、一回ちょっと様子を見るために私もチャレンジしてみたい」

「やったー! 優美ちゃんのマンツーマン!」

「優美を傷つけたら、正樹の指を詰めさせるから」

 慎也が遠い目で物騒な事を言う。
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