297 / 539
折原家への挨拶 編
崖の上の豪邸のような男
しおりを挟む
「確かに当時は楽しかった。僕の目の前で、女の子が罪悪感たっぷりの顔で、僕に抱かれてる姿を見てスカッとしたんだ。僕も誰かのパートナーを抱いてるって思うだけで、征服感と支配感がハンパなくて、ドキドキしてハイになった。あっ、誓って変なクスリはやってないよ。酒は飲んでたけど」
「やってたら殴るよ」
俺は苦笑いし、正樹は「あははっ」と軽く笑う。
「その時はすっごい楽しかったんだ。毎晩のように出歩いて酒飲んでセックスして、自分の空っぽな心が、女の子の温もりと快楽とで満たされる気がした。でも結局、上辺だけの満たされ方だった。ちょっと冷静に考えれば、普通の人ってこんな事で幸せを感じないって分かってた。朝帰りした時、公園のベンチでコンビニおにぎり食べて、通勤する人を見ながらめっちゃ賢者タイムになってたなぁ」
「……さみし」
その様子を想像し、俺はボソッと突っ込む。
「あははっ、寂しいよね。……でも当時の僕は、他に自分を慰める方法を知らなかったんだ」
正樹はドリンクホルダーにあるお茶を飲み、息をつく。
「あの時の僕は、セックスする事でしか自分の価値を認められなかった。大学では友達からキラキラした目で見られて、普通の女の子にキャーキャー言われても、逆に居心地が悪くなる始末だった。中二病みたいだけど、自分だけ汚れてるように思えて『あいつらは何て綺麗なんだろう、僕とは違う……』なんて思ってたな」
「それ、やべー奴じゃん」
「そうなんだよ。ヤバかったんだよ。闇のカルマが貯まりすぎてた」
言い合って、二人で爆笑する。
「だからさ、楽しくはあったんだけど潮時を求めてた。そりゃあ、結婚してもスワッピングできたり、3PがOKな奥さんがいたら最高だなって思ってた。でもそれは〝普通〟じゃない。イベント参加者は恋人や夫婦がいたけど、みんなパートナーを愛してるから、歪んだやり方で一時的なスリルを求めてるんだよ。イベントが終わったら、仲良し夫婦、恋人に戻る」
口を挟める立場じゃないので、黙って続きを話すのを待つ。
「スワッピングとか乱交の醍醐味ってさ、他の男の女を寝取って勝利感に浸る所なんだよね。女性はパートナーを愛してるほど、精神的にきついんじゃないかな。女性ってどっちかというと受け身が多いと思うし。セックス大好きで参加する子もいるけど、結局リスクが高いのは当然女性で、不安もある」
「確かに」
俺は頷く。
「当時僕と付き合ってた……ような女の子いたじゃん。まぁ、僕が振られた形になったから、一応付き合ってたんだろうけど。その子に言われたよ。『正樹に本気で惚れたら、性格以外は完璧だから独占したくなる。正樹が他の女を抱いてるのを見たら、嫉妬で狂って殺人を犯す人が出てもおかしくない。あんたはもっと、自分がどれだけ男として価値があるか知っておいたほうがいい。自覚しないでパートナーを危険に晒す相手は嫌だ』……ってね」
「……なるほど」
正樹は自分のステータスなら、嫌というほど分かっている。
けど中身は、女性に告白されるたび「何で僕みたいなのが好きなの?」って真顔で言う奴だ。
自分を大切にできない奴が、パートナーの気持ちを考えて、二人で幸せになれる訳がない。
当時の彼女にとって、正樹は優良物件でありながら危険な存在でもあったんだろう。
崖の上の豪邸みたいなもんだ。
『僕は好きなようにやる。君も好きなようにして。結婚して夫としての責任は取るけど、君を好きになれないし、僕が他の女を抱いても嫉妬しないで』
正樹が望んでいたのはそういう事だ。
本当に最低だ。
「だから慎也に言われたのもあったけど、もともと『いつかやめたい』って思っていたから、イベントに行くのをやめた。卒業すれば入社するし、いつまでもああいうイベントに行けないとは思ってたからね。それぐらいの分別はあったんだ」
静かに笑い、正樹はポンと俺の腕を叩いてきた。
「だから、慎也のせいじゃないよ」
「……ん、分かった」
正樹が抱いていた当時のドロドロした気持ちは置いておき、「俺のせいかどうか」という件については、これで解決としよう。
「まぁ、会社については久賀城家に生まれた以上仕方ないし、普通に社畜になるよね。そんで、利佳との事も結婚しなきゃ良かったって思うけど、あの時は流れ上仕方なかった」
自殺しようと思うまで追い込まれたのに、今「仕方ない」って言えているのは、正樹が執着しない男だからだ。
普通ならいつまでも恨んで当たり前なのに、「終わった事だからもういいか」と興味を失っている。
先日利佳さんに会った時は、ツンツンした態度を取られた上、優美まで馬鹿にされたからキレたんだろう。
しばらく黙ったあと、俺はさらに切り込む。
「正樹はどれぐらい、優美を独占したい?」
その問いは、お互いが最も避けていた話題だ。
正樹はまた、しばらく黙った。
首都高を走る車の走行音だけが耳に入り、俺も正樹が答えるまで黙る。
「やってたら殴るよ」
俺は苦笑いし、正樹は「あははっ」と軽く笑う。
「その時はすっごい楽しかったんだ。毎晩のように出歩いて酒飲んでセックスして、自分の空っぽな心が、女の子の温もりと快楽とで満たされる気がした。でも結局、上辺だけの満たされ方だった。ちょっと冷静に考えれば、普通の人ってこんな事で幸せを感じないって分かってた。朝帰りした時、公園のベンチでコンビニおにぎり食べて、通勤する人を見ながらめっちゃ賢者タイムになってたなぁ」
「……さみし」
その様子を想像し、俺はボソッと突っ込む。
「あははっ、寂しいよね。……でも当時の僕は、他に自分を慰める方法を知らなかったんだ」
正樹はドリンクホルダーにあるお茶を飲み、息をつく。
「あの時の僕は、セックスする事でしか自分の価値を認められなかった。大学では友達からキラキラした目で見られて、普通の女の子にキャーキャー言われても、逆に居心地が悪くなる始末だった。中二病みたいだけど、自分だけ汚れてるように思えて『あいつらは何て綺麗なんだろう、僕とは違う……』なんて思ってたな」
「それ、やべー奴じゃん」
「そうなんだよ。ヤバかったんだよ。闇のカルマが貯まりすぎてた」
言い合って、二人で爆笑する。
「だからさ、楽しくはあったんだけど潮時を求めてた。そりゃあ、結婚してもスワッピングできたり、3PがOKな奥さんがいたら最高だなって思ってた。でもそれは〝普通〟じゃない。イベント参加者は恋人や夫婦がいたけど、みんなパートナーを愛してるから、歪んだやり方で一時的なスリルを求めてるんだよ。イベントが終わったら、仲良し夫婦、恋人に戻る」
口を挟める立場じゃないので、黙って続きを話すのを待つ。
「スワッピングとか乱交の醍醐味ってさ、他の男の女を寝取って勝利感に浸る所なんだよね。女性はパートナーを愛してるほど、精神的にきついんじゃないかな。女性ってどっちかというと受け身が多いと思うし。セックス大好きで参加する子もいるけど、結局リスクが高いのは当然女性で、不安もある」
「確かに」
俺は頷く。
「当時僕と付き合ってた……ような女の子いたじゃん。まぁ、僕が振られた形になったから、一応付き合ってたんだろうけど。その子に言われたよ。『正樹に本気で惚れたら、性格以外は完璧だから独占したくなる。正樹が他の女を抱いてるのを見たら、嫉妬で狂って殺人を犯す人が出てもおかしくない。あんたはもっと、自分がどれだけ男として価値があるか知っておいたほうがいい。自覚しないでパートナーを危険に晒す相手は嫌だ』……ってね」
「……なるほど」
正樹は自分のステータスなら、嫌というほど分かっている。
けど中身は、女性に告白されるたび「何で僕みたいなのが好きなの?」って真顔で言う奴だ。
自分を大切にできない奴が、パートナーの気持ちを考えて、二人で幸せになれる訳がない。
当時の彼女にとって、正樹は優良物件でありながら危険な存在でもあったんだろう。
崖の上の豪邸みたいなもんだ。
『僕は好きなようにやる。君も好きなようにして。結婚して夫としての責任は取るけど、君を好きになれないし、僕が他の女を抱いても嫉妬しないで』
正樹が望んでいたのはそういう事だ。
本当に最低だ。
「だから慎也に言われたのもあったけど、もともと『いつかやめたい』って思っていたから、イベントに行くのをやめた。卒業すれば入社するし、いつまでもああいうイベントに行けないとは思ってたからね。それぐらいの分別はあったんだ」
静かに笑い、正樹はポンと俺の腕を叩いてきた。
「だから、慎也のせいじゃないよ」
「……ん、分かった」
正樹が抱いていた当時のドロドロした気持ちは置いておき、「俺のせいかどうか」という件については、これで解決としよう。
「まぁ、会社については久賀城家に生まれた以上仕方ないし、普通に社畜になるよね。そんで、利佳との事も結婚しなきゃ良かったって思うけど、あの時は流れ上仕方なかった」
自殺しようと思うまで追い込まれたのに、今「仕方ない」って言えているのは、正樹が執着しない男だからだ。
普通ならいつまでも恨んで当たり前なのに、「終わった事だからもういいか」と興味を失っている。
先日利佳さんに会った時は、ツンツンした態度を取られた上、優美まで馬鹿にされたからキレたんだろう。
しばらく黙ったあと、俺はさらに切り込む。
「正樹はどれぐらい、優美を独占したい?」
その問いは、お互いが最も避けていた話題だ。
正樹はまた、しばらく黙った。
首都高を走る車の走行音だけが耳に入り、俺も正樹が答えるまで黙る。
10
お気に入りに追加
1,840
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~
けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。
秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。
グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。
初恋こじらせオフィスラブ
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる