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折原家への挨拶 編

愛しているんです

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「それに、私さっき正樹さんと少し話したけれど、とてもいい方よ。複雑な事情を持っていて少しひねくれているけれど、優美を大切に想ってくれている気持ちは本物。それは私が保証する」

「ありがとう」

 私がお礼を言うと、お祖母ちゃんは微笑む。
 お父さんが息をついたあと、尋ねてくる。

「優美は今、幸せか?」

「とっても!」

 その問いに、私は即答する。

「……なら、父さんはいいかな」

 少し軽い感じで言い、お父さんはこじれた話題から「一抜けた」をする。

「父さんは優美がダイエットを凄く頑張ったのを知ってる。性格まで変わったけど、根っこの優しさ、誠実さは変わっていない。優美は父さんの自慢の娘だし、優美があとから後悔するような男を選ぶ子でもないと思っている。だから、信じるよ」

 それに、お祖父ちゃんが頷いた。

「そうだなぁ。優美は勢いで物事を決めない子だ。流される時はあるが、本当に大切な決め事の時は、よく考えてから決断する。二人とも遊びとか、軽い気持ちではないんだろう。何より、最近の優美はとても幸せそうだ。俺は今この状況でも、二人を見て不安を感じない。それが自分の答えだと思っている」

「お祖父ちゃん、……ありがとう」

 安堵して、私は思わず涙目になる。

 まだ賛成していないのはお母さんだけになるけど、賛同していないから悪者とか思いたくない。

 母親だから色んな事を確認しておきたいとか、私のために考えてくれているのは分かっている。
 だから、三人でお母さんが納得いくまで話すつもりだ。

「……納得いかないのは……」

 お母さんが口を開き、正樹を見る。

「正樹さんはどうして一歩引いた所にいるの? そりゃあ、三人で結婚できないのは分かっているけど、こんなコソコソ隠れるような真似をしなくたっていいじゃない。優美を愛していると言っておきながら、家族は信じられなかったの?」

 あ。そちらにご立腹ですか。

「……すみません。お詫びのしようもありません」

「謝ってほしい訳じゃないの。私は優美が選んだ人が二人なら、最初から二人を紹介してほしかった。過ぎた事をどうこう言わない。でも今日だって、母さんに声を掛けられるまで、車で待機して顔を見せるつもりはなかったんでしょう?」

 これはもう、三人とも謝りようがない。
 でも正樹ばかりが責められているように思えて、私はつい言葉を挟む。

「三人でそういう事にしようって決めた結果だった。確かに、挨拶をしないでとても不誠実だった。ごめんなさい」

 私が謝ったあと、正樹が軽く挙手してから諦めたように微笑み、口を開く。

「僕は、好きな女性が他の男に愛される事を望む、歪んだ性癖を持っています」

「…………っ」

 正樹が、一番誰にも見せたくないと思っている心の傷を、私の家族にさらけだした。

 それがどれだけ傷付く覚悟をしてなのか、私と慎也が一番分かっている。

 本当は、正樹にこんな事を言わせたくない。
 へたをすれば、正樹が責められる。

 彼は何も悪くないのに……。

「だから言いたくなかったのに」と言おうとしても、お母さんたちは何も知らない。
 知らないからこそ、知りたがった。

 避けようのない事実なのに、正樹が請け負った役目があまりに残酷で、私は膝の上で拳を握って唇を引き結んだ。

「それは、僕の生まれた環境に起因しています」

 そして正樹は、自分の実母が目の前で亡くなった事、そして父親が再婚しての新しい家庭で、自分が浮いていると感じた事を話した。
 最初はギョッとするような切り口に動揺した家族も、真剣に正樹の話を聞いていた。

「女性を愛そうと思っても、心の底から信じられず、愛せない自分がいました。どうせ皆、母のように死んでしまうか、急にいなくなってしまう。そう思って、どこか女性を憎んでいたところもあったと思います」

 彼は穏やかに笑い、言葉を続ける。

「女性を信じるために、僕は一番汚い姿を見せるよう望みました。それが最終的に、僕の目の前で別の男性に抱かれる事に落ち着いたんです。……自分でも、異常な、恥ずべき性癖だと思っています。……ですが、そうでもしなければ僕は女性を信じられませんでした。僕の周りには〝ルックスのいい金持ちの男〟と付き合い、結婚したがっている女性しかいませんでした。その中から、本当に僕を愛してくれる人を見つけるのは、困難を極めました」

 彼は小さく息をつき、それでも微笑みを絶やさないで続ける。

「元妻は、そういう条件の男を求めていました。結果、関係は破綻しました。本当の姿を知った彼女は、僕を異常者と罵り、自分を愛そうとしない夫をひどく憎むようになりました」

 そして、私を見て笑いかける。
 とても脆い、今にも泣いてしまいそうな表情だった。

「そこで、優美さんに出会いました。彼女は僕が何者かなんて知らず、知った後も態度を変えませんでした。それどころか、僕の異常さを知っても『仕方ないな』って笑って受け入れてくれたんです。その、懐の広さにとても救われ、心底惚れました」

 彼の声が、震える。

「愛しているんです」

 微笑み、瞬きをした正樹の目から、涙がこぼれ落ちた。
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