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折原家への挨拶 編

私は味方だから

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「安心して。私の自慢は孫だけじゃなくて、家族全員なの」

 日差しを浴びて、彼女は穏やかに笑う。
 そして助手席のドアを開け、僕をいざなかった。

「さあ、一緒に中に入りましょう。結婚前にきちんと話して、全員で幸せになるのよ」



**



「やっば……」

 私は二階にある自室から外を見て呟く。

 お祖母ちゃんが正樹に遭遇していないか不安だったけれど、わざとらしく呼びに行くのも不自然だ。

 お祖母ちゃんが外で作業しているのは当たり前だし、ちょっと外泊から戻って家の中にいないだけで、大騒ぎするほどの事じゃない。

 とりあえず着替えて窓の外を見たら、お祖母ちゃんが車の外に立って正樹と話しているのが見えた。
 そのあと車に乗って、エンジンが掛かる。

「どこかに行くのかな?」と思ったけれど、アイドリングしてしばらく経つ。
 何か話しているんだろうなと思うけれど、会話の内容を想像するだけで絶望的だ。

 正樹が自分の事をどう説明したのか分からないし、お祖母ちゃんが何かにピンと気付く可能性だってある。

 ドキドキして車を見守っていた私は、半分ぐらい慎也の事を忘れていた。

 そのあとエンジンが止まったかと思うと、お祖母ちゃんが正樹と一緒に玄関に向かってくる。

 えらいこっちゃ!

 私はうろたえ、とりあえず「行かなきゃ!」と覚悟すると、両手でパンッと頬を叩いて部屋を出た。



**



「あー……、と」

 階段を下りると、丁度玄関から入った正樹とお祖母ちゃんと出くわす。

 正樹は、そりゃあもう決まり悪い顔をしていた。
 そしてお祖母ちゃんの後ろで、両手を合わせてペコペコ頭を下げている。

 どういう事?

 固まっている私に、お祖母ちゃんが話しかけてきた。

「優美、正樹さんから〝すべて〟聞いたわ」

「………………え…………?」

 私はこれ以上ないぐらい目を見開いてから、ぎこちなく正樹を見る。

 変な汗が出て、心臓があり得ないぐらいバクバク鳴っている。

 正樹は、無言で平謝りしていた。

 強ばった顔をしている私の肩を、お祖母ちゃんがポンと叩いてきた。

「家族なんだから、隠し事をしたまま結婚しようとしないの」

 その一言で、私はすべてを察した。

 きっと、正樹はお祖母ちゃんに聞かれて事情を話さざるを得なかった。
 それでお祖母ちゃんは私たちの事を理解し、受け入れてくれたんだ。

 知らない間に目に涙が溜まり、私は呆けたままお祖母ちゃんを見つめる。

「何て顔してるの。今度こそきちんと、三人で挨拶なさい。私は味方だから」

「…………うん……っ」

 声が震える。

 鼻がツンとして、思わず洟を啜った。

「大きいんだから、泣かないの。さ、行くわよ」

 お祖母ちゃんはいつもとまったく変わらない様子で、リビングに向かった。



**



「えっ!?」

 慎也は私と一緒に入ってきた正樹の姿を見て、思わず大きな声を上げた。

 私がいない間、お茶とお茶菓子を出されて世間話をしていたようだけれど、まさかこうなるとは思うまい。

 私も思わなかった。

 お地蔵さんみたいになっている正樹もそうだろう。

恵美めぐみ、こちら正樹さん。慎也さんのお兄さんよ」

 お祖母ちゃんがお母さんに言い、客として扱うよう促す。
 呆気にとられていたお母さん以下二人は、慌てて正樹のために場所を空けた。

「す、すみません……」

 正樹はいまだどうしたらいいか分からない表情のまま、ペコペコとお辞儀をして慎也の隣に座る。

 お母さんは正樹の分もお茶を淹れ始め、残りは「ええと?」という顔をしていた。

 どうやって説明したもんかなぁ……。

 ストレートに言えば怒られそうだし……。
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