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同窓会 編

雑魚

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 そのあとも残り二人を瞬殺した。

 信じられない……という顔で私を見る四人の前で、私はパンパンッと掌を払い、ジージャンを着る。
そして腕を組んで目を細め、告げた。

「雑魚」

 七センチヒールを履いた、でっかい筋肉女にコケにされ、彼らはこの上ない屈辱を得たのだろう。顔を真っ赤にしている。

「謝って」

 私が床を示すと、周囲が「しゃーざーい! しゃーざーい!」と手拍子をする。

 ……いやぁ、ここまでやると、強要罪になりかねないけど……。

 でも、先に侮辱してきたのはあっちだ。
 勝負に負けたら謝ってほしいと伝えたから、一応セーフだと思っておこう。

 私の目の前で、四人は床の上に正座をして、「さーせんでした!」と頭を下げる。

「優美、カッコイイ!」

 友達が褒めてくれたけれど、私は勝って嬉しい訳じゃない。
 しょせん、こんな見世物をしなければ自分の尊厳を守れない、元いじめられっこだ。

「……気は済んだ?」

 慎也が私の頭を撫でてくる。

「……うん」

「行こう。ここにいても嫌な同窓会になる。彼らの事は、担任の先生と友達にでも怒ってもらえばいい」

 慎也は私の手を握り、困ったように笑いかけてくる。

「……ん」

 私は頷き、バッグから財布を出すと会費をテーブルに置いた。
 そして親友たちに謝った。

「ごめんね。今日は帰る。今度きちんと謝るね」

 けれど彼女たちは、ニカッと笑ってサムズアップしてくれた。

「ハイスペック彼氏を見られただけでも目福なのに、どん底ヒロインが筋肉で解決してのし上がる物語をありがとう! めっちゃ創作はかどる!」

 あ……、そうっすか。ネタになったなら光栄です。

「悪く言われてたのに守れなくてごめんね。でもかっこよかった! さすが優美!」

「来月の結婚式、楽しみにしてるよ!」

「婚約者さんもすっごい体、仕上がってるっぽいし、お似合いじゃん! やっぱいざという時は筋肉がモノを言うのかね~?」

 温かな言葉を掛けられ、私は泣き笑いの表情になる。

 それから、他の皆に「空気悪くしてごめんなさい!」と謝って先に帰る事にした。

 その後ろで、正樹が明るく言う。

「僕は久賀城ホールディングスの副社長、久賀城正樹って言います。埼玉県立××高校の同窓生、顔は覚えたからね。どこかで商談相手にならなかったらいいねー」

 さらに文香さまが手痛い言葉を口にした。

「四人とも出世しなさそうな顔。似たもん同士いつまでもつるんでたら? 私たちは数ランク上の場所で、優美と一緒に優雅に見下ろしてるわ」

 氷の女王が踵を返したあとは、和人くんが一礼して続く。

 店を出る前、彼らが隅っこのテーブルで食事をしていたのだとようやく分かった。
 いつのまに来てたんだろう。

 そんな事を考えながら、私は店の外に出る。

 それを裕吾が追いかけてきた。

「折原! ごめん! ずっと前の事だし、こんな事になると思ってなかった」

 彼は本当に申し訳なさそうで、今にも泣きそうな顔をしている。

「……いいよ。裕吾に悪意がなかったのは分かるし」

 精神的に疲弊した私は、かろうじてそう答える。

「……きっかけは、確かに〝そう〟だったかもしれない。でも、あの時俺は本当に優美を『いいな』って思ったんだ。付き合いたいとも思った。……でもあいつらに何を言われるか分からなくて……」

「……うん、分かった。分かったから。……もう、いいよ」

 切なく笑った私は、ポンポンと彼の肩を叩いた。

 そのあと近くの駐車場で車に乗り、正樹が運転する車で、どこに向かうか分からないドライブに連れて行かれた。





 何を話したらいいのか、分からない。

 あんな情けないところを見られていたと思うと、胸の奥がキューッとなってしんどくなる。

 二人や文香の前では格好いい、理想の自分でいたい。

 二人は「完璧じゃなくていい。弱さを見せて」と言ってくれたけれど、コレは違う。
 人生の黒歴史をリアルタイムで知られてしまった気分だ。

 黙り込んでいる私の手を、慎也が握ってくる。

「つらかったな」

 後部座席に座った彼は、体ごと私のほうを向いて抱き締めてくる。

「あんな風に言われていたなら、優美でなくてもきつい」

「……情けない姿、……見せちゃって……」

 私はズッと洟を啜る。
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