261 / 539
同窓会 編
雑魚
しおりを挟む
そのあとも残り二人を瞬殺した。
信じられない……という顔で私を見る四人の前で、私はパンパンッと掌を払い、ジージャンを着る。
そして腕を組んで目を細め、告げた。
「雑魚」
七センチヒールを履いた、でっかい筋肉女にコケにされ、彼らはこの上ない屈辱を得たのだろう。顔を真っ赤にしている。
「謝って」
私が床を示すと、周囲が「しゃーざーい! しゃーざーい!」と手拍子をする。
……いやぁ、ここまでやると、強要罪になりかねないけど……。
でも、先に侮辱してきたのはあっちだ。
勝負に負けたら謝ってほしいと伝えたから、一応セーフだと思っておこう。
私の目の前で、四人は床の上に正座をして、「さーせんでした!」と頭を下げる。
「優美、カッコイイ!」
友達が褒めてくれたけれど、私は勝って嬉しい訳じゃない。
しょせん、こんな見世物をしなければ自分の尊厳を守れない、元いじめられっこだ。
「……気は済んだ?」
慎也が私の頭を撫でてくる。
「……うん」
「行こう。ここにいても嫌な同窓会になる。彼らの事は、担任の先生と友達にでも怒ってもらえばいい」
慎也は私の手を握り、困ったように笑いかけてくる。
「……ん」
私は頷き、バッグから財布を出すと会費をテーブルに置いた。
そして親友たちに謝った。
「ごめんね。今日は帰る。今度きちんと謝るね」
けれど彼女たちは、ニカッと笑ってサムズアップしてくれた。
「ハイスペック彼氏を見られただけでも目福なのに、どん底ヒロインが筋肉で解決してのし上がる物語をありがとう! めっちゃ創作はかどる!」
あ……、そうっすか。ネタになったなら光栄です。
「悪く言われてたのに守れなくてごめんね。でもかっこよかった! さすが優美!」
「来月の結婚式、楽しみにしてるよ!」
「婚約者さんもすっごい体、仕上がってるっぽいし、お似合いじゃん! やっぱいざという時は筋肉がモノを言うのかね~?」
温かな言葉を掛けられ、私は泣き笑いの表情になる。
それから、他の皆に「空気悪くしてごめんなさい!」と謝って先に帰る事にした。
その後ろで、正樹が明るく言う。
「僕は久賀城ホールディングスの副社長、久賀城正樹って言います。埼玉県立××高校の同窓生、顔は覚えたからね。どこかで商談相手にならなかったらいいねー」
さらに文香さまが手痛い言葉を口にした。
「四人とも出世しなさそうな顔。似たもん同士いつまでもつるんでたら? 私たちは数ランク上の場所で、優美と一緒に優雅に見下ろしてるわ」
氷の女王が踵を返したあとは、和人くんが一礼して続く。
店を出る前、彼らが隅っこのテーブルで食事をしていたのだとようやく分かった。
いつのまに来てたんだろう。
そんな事を考えながら、私は店の外に出る。
それを裕吾が追いかけてきた。
「折原! ごめん! ずっと前の事だし、こんな事になると思ってなかった」
彼は本当に申し訳なさそうで、今にも泣きそうな顔をしている。
「……いいよ。裕吾に悪意がなかったのは分かるし」
精神的に疲弊した私は、かろうじてそう答える。
「……きっかけは、確かに〝そう〟だったかもしれない。でも、あの時俺は本当に優美を『いいな』って思ったんだ。付き合いたいとも思った。……でもあいつらに何を言われるか分からなくて……」
「……うん、分かった。分かったから。……もう、いいよ」
切なく笑った私は、ポンポンと彼の肩を叩いた。
そのあと近くの駐車場で車に乗り、正樹が運転する車で、どこに向かうか分からないドライブに連れて行かれた。
何を話したらいいのか、分からない。
あんな情けないところを見られていたと思うと、胸の奥がキューッとなってしんどくなる。
二人や文香の前では格好いい、理想の自分でいたい。
二人は「完璧じゃなくていい。弱さを見せて」と言ってくれたけれど、コレは違う。
人生の黒歴史をリアルタイムで知られてしまった気分だ。
黙り込んでいる私の手を、慎也が握ってくる。
「つらかったな」
後部座席に座った彼は、体ごと私のほうを向いて抱き締めてくる。
「あんな風に言われていたなら、優美でなくてもきつい」
「……情けない姿、……見せちゃって……」
私はズッと洟を啜る。
信じられない……という顔で私を見る四人の前で、私はパンパンッと掌を払い、ジージャンを着る。
そして腕を組んで目を細め、告げた。
「雑魚」
七センチヒールを履いた、でっかい筋肉女にコケにされ、彼らはこの上ない屈辱を得たのだろう。顔を真っ赤にしている。
「謝って」
私が床を示すと、周囲が「しゃーざーい! しゃーざーい!」と手拍子をする。
……いやぁ、ここまでやると、強要罪になりかねないけど……。
でも、先に侮辱してきたのはあっちだ。
勝負に負けたら謝ってほしいと伝えたから、一応セーフだと思っておこう。
私の目の前で、四人は床の上に正座をして、「さーせんでした!」と頭を下げる。
「優美、カッコイイ!」
友達が褒めてくれたけれど、私は勝って嬉しい訳じゃない。
しょせん、こんな見世物をしなければ自分の尊厳を守れない、元いじめられっこだ。
「……気は済んだ?」
慎也が私の頭を撫でてくる。
「……うん」
「行こう。ここにいても嫌な同窓会になる。彼らの事は、担任の先生と友達にでも怒ってもらえばいい」
慎也は私の手を握り、困ったように笑いかけてくる。
「……ん」
私は頷き、バッグから財布を出すと会費をテーブルに置いた。
そして親友たちに謝った。
「ごめんね。今日は帰る。今度きちんと謝るね」
けれど彼女たちは、ニカッと笑ってサムズアップしてくれた。
「ハイスペック彼氏を見られただけでも目福なのに、どん底ヒロインが筋肉で解決してのし上がる物語をありがとう! めっちゃ創作はかどる!」
あ……、そうっすか。ネタになったなら光栄です。
「悪く言われてたのに守れなくてごめんね。でもかっこよかった! さすが優美!」
「来月の結婚式、楽しみにしてるよ!」
「婚約者さんもすっごい体、仕上がってるっぽいし、お似合いじゃん! やっぱいざという時は筋肉がモノを言うのかね~?」
温かな言葉を掛けられ、私は泣き笑いの表情になる。
それから、他の皆に「空気悪くしてごめんなさい!」と謝って先に帰る事にした。
その後ろで、正樹が明るく言う。
「僕は久賀城ホールディングスの副社長、久賀城正樹って言います。埼玉県立××高校の同窓生、顔は覚えたからね。どこかで商談相手にならなかったらいいねー」
さらに文香さまが手痛い言葉を口にした。
「四人とも出世しなさそうな顔。似たもん同士いつまでもつるんでたら? 私たちは数ランク上の場所で、優美と一緒に優雅に見下ろしてるわ」
氷の女王が踵を返したあとは、和人くんが一礼して続く。
店を出る前、彼らが隅っこのテーブルで食事をしていたのだとようやく分かった。
いつのまに来てたんだろう。
そんな事を考えながら、私は店の外に出る。
それを裕吾が追いかけてきた。
「折原! ごめん! ずっと前の事だし、こんな事になると思ってなかった」
彼は本当に申し訳なさそうで、今にも泣きそうな顔をしている。
「……いいよ。裕吾に悪意がなかったのは分かるし」
精神的に疲弊した私は、かろうじてそう答える。
「……きっかけは、確かに〝そう〟だったかもしれない。でも、あの時俺は本当に優美を『いいな』って思ったんだ。付き合いたいとも思った。……でもあいつらに何を言われるか分からなくて……」
「……うん、分かった。分かったから。……もう、いいよ」
切なく笑った私は、ポンポンと彼の肩を叩いた。
そのあと近くの駐車場で車に乗り、正樹が運転する車で、どこに向かうか分からないドライブに連れて行かれた。
何を話したらいいのか、分からない。
あんな情けないところを見られていたと思うと、胸の奥がキューッとなってしんどくなる。
二人や文香の前では格好いい、理想の自分でいたい。
二人は「完璧じゃなくていい。弱さを見せて」と言ってくれたけれど、コレは違う。
人生の黒歴史をリアルタイムで知られてしまった気分だ。
黙り込んでいる私の手を、慎也が握ってくる。
「つらかったな」
後部座席に座った彼は、体ごと私のほうを向いて抱き締めてくる。
「あんな風に言われていたなら、優美でなくてもきつい」
「……情けない姿、……見せちゃって……」
私はズッと洟を啜る。
10
お気に入りに追加
1,817
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
【R18】こんな産婦人科のお医者さんがいたら♡妄想エロシチュエーション短編作品♡
雪村 里帆
恋愛
ある日、産婦人科に訪れるとそこには顔を見たら赤面してしまう程のイケメン先生がいて…!?何故か看護師もいないし2人きり…エコー検査なのに触診されてしまい…?雪村里帆の妄想エロシチュエーション短編。完全フィクションでお送り致します!
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる