上 下
231 / 539
五十嵐と再会 編

そういうのから、解放されたらいいね

しおりを挟む
「友達に言った時も、私が被害者であなたが加害者前提で話した。……だから友達が私の味方になってくれるのは、当然の流れだった。……いま思えば、卑怯な事をしたって思う。ごめんなさい」

「終わった事だし、いいよ」

 私はポンポンと彼女の背中を叩く。

「あの時は動機がどうであれ、五十嵐さんは浜崎くんを好きで婚約してた。私が現れて面白くなく思ったのは分かるし、いまだに関係があるんじゃないかって疑う気持ちも理解できる。不安な事がある時、悪者を作ってその人のせいにしちゃうのが、一番手っ取り早く安心できるからね」

 彼女は小さく頷いた。

「……でも、幾ら自分に自信がなくて不安だったからって、攻撃していい理由にはならない」

「ん」

 分かってくれている彼女に、私は頷いてポンポンとさらに彼女の背中を叩く。
 彼女は深い溜め息をついた。

「あの二人の事も、ずっと私が支配していたかもしれない。いけてる女のフリをしていて、私と仲良くしていれば色んな事がうまくいくって思わせてた。好かれてるから側にいてくれるんだって思っていたけど、私は社内で気に入らない人がいたら、裏でめちゃくちゃ悪口を言っていた。……だから、私を敵に回したら自分も悪く言われると思って、離れられなかったのかもしれない」

 私は頷く。

 そういう繋がりでの〝友情〟があるのも確かだ。

 断ち切ったら自由が待っているけれど、嫌われてもいいから一人で歩いていくと決意するには、勇気が必要になるだろう。

 女性は学生時代からグループに所属しがちだ。
「皆に嫌われたら終わり」という考えが根付いていて、大人になってもその考えから脱せずにいる人もいる。
 会社のお局様とかもそうで、お局様と彼女に従う人たちに逆らったら、働くのはかなりキツいだろう。

 そういう風潮がある以上、五十嵐さんのようにトラウマのある人は、自分を強く見せるため、攻撃されないように、虚勢を張ってしまったのかもしれない。
「彼女に逆らったら怖い」と思い込んだ友達は、五十嵐さんの機嫌を損ねないような関係を続けていたんだろう。

 彼女はさらに言葉を続ける。

「学生時代は『ブス』っていじめられていた。攻撃されるのが怖かったから、必死に自分と付き合う事のメリットをアピールしてたと思う。会社の給料以外の収入で得たお金で、ブランドバッグを買って流行の物があったら何でも飛びついて、友達に『凄い』って言われて満足してた。……だから余計に、一人でも大丈夫な強さのあるあなたを見て、羨ましくて、怖くて、『潰さなきゃ』って思った」

「うん」

 佐藤さんたちも似た感じなんだろうな、と思った。

 あの人たちはいつも群れて行動しているけど、私は一匹狼だ。

 彼女たちは自分と〝違う〟私を快く思っていないんだろう。

 もし〝彼女たちのルール〟に従ったなら、もっと優しくされていたかもしれない。

 でも陰で何を言われるか分からないのに、表面上ニコニコして仲良くするフリをする関係なんて嫌だ。
 心にもないお世辞を言うのも、興味がないのに乗り気になっているふりをするのも苦痛だ。

 会社の人は友達じゃない。
 友達になれる人もできるだろうけど、全員じゃない。

 だから仕事さえ円滑に進められるなら、人間関係は無理しなくていいと思っている。

「そういうのから、解放されたらいいね」

 優しく言うと、五十嵐さんはポトリと涙を零した。

「……うん。あなたみたいに強くなりたい」

 私は彼女に頷いてせる。

「ちょっとずつでいいよ。まず、少しずつ自分を好きになっていく事から始めよう。自分の駄目な部分が目立つかもしれないけど、『もう十分苦しんだから、いいよ』っていたわってあげよう。飾ってない、無理をしてない素の自分を一旦受け入れるの」

「……努力してみる」

 彼女は涙を拭い、しっかり頷く。

「自分を肯定する言葉を口に出して言ってみて。思うだけじゃなくて言葉にするの。同じように、つらい時は言葉にして『つらい』って言っていいんだよ。自分自身には『偉い』『凄い』『可愛い』って、どんどんポジティブな言葉を掛けてあげて。最初は独り言でもいい。そのうち、『よし天才じゃん!』って自然に言えるから。言葉にして言う事そのものが目的じゃなくて、自分を肯定するために手段なの。ポジティブな言葉って、皆に連鎖していくから、きっと周りの人も明るくなるよ。いい言葉には力があるって、私は信じてる」

「分かった」

 頷いた彼女は、とても穏やかな顔をしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

【R18】こんな産婦人科のお医者さんがいたら♡妄想エロシチュエーション短編作品♡

雪村 里帆
恋愛
ある日、産婦人科に訪れるとそこには顔を見たら赤面してしまう程のイケメン先生がいて…!?何故か看護師もいないし2人きり…エコー検査なのに触診されてしまい…?雪村里帆の妄想エロシチュエーション短編。完全フィクションでお送り致します!

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...