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五十嵐と再会 編
そういうのから、解放されたらいいね
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「友達に言った時も、私が被害者であなたが加害者前提で話した。……だから友達が私の味方になってくれるのは、当然の流れだった。……いま思えば、卑怯な事をしたって思う。ごめんなさい」
「終わった事だし、いいよ」
私はポンポンと彼女の背中を叩く。
「あの時は動機がどうであれ、五十嵐さんは浜崎くんを好きで婚約してた。私が現れて面白くなく思ったのは分かるし、いまだに関係があるんじゃないかって疑う気持ちも理解できる。不安な事がある時、悪者を作ってその人のせいにしちゃうのが、一番手っ取り早く安心できるからね」
彼女は小さく頷いた。
「……でも、幾ら自分に自信がなくて不安だったからって、攻撃していい理由にはならない」
「ん」
分かってくれている彼女に、私は頷いてポンポンとさらに彼女の背中を叩く。
彼女は深い溜め息をついた。
「あの二人の事も、ずっと私が支配していたかもしれない。いけてる女のフリをしていて、私と仲良くしていれば色んな事がうまくいくって思わせてた。好かれてるから側にいてくれるんだって思っていたけど、私は社内で気に入らない人がいたら、裏でめちゃくちゃ悪口を言っていた。……だから、私を敵に回したら自分も悪く言われると思って、離れられなかったのかもしれない」
私は頷く。
そういう繋がりでの〝友情〟があるのも確かだ。
断ち切ったら自由が待っているけれど、嫌われてもいいから一人で歩いていくと決意するには、勇気が必要になるだろう。
女性は学生時代からグループに所属しがちだ。
「皆に嫌われたら終わり」という考えが根付いていて、大人になってもその考えから脱せずにいる人もいる。
会社のお局様とかもそうで、お局様と彼女に従う人たちに逆らったら、働くのはかなりキツいだろう。
そういう風潮がある以上、五十嵐さんのようにトラウマのある人は、自分を強く見せるため、攻撃されないように、虚勢を張ってしまったのかもしれない。
「彼女に逆らったら怖い」と思い込んだ友達は、五十嵐さんの機嫌を損ねないような関係を続けていたんだろう。
彼女はさらに言葉を続ける。
「学生時代は『ブス』っていじめられていた。攻撃されるのが怖かったから、必死に自分と付き合う事のメリットをアピールしてたと思う。会社の給料以外の収入で得たお金で、ブランドバッグを買って流行の物があったら何でも飛びついて、友達に『凄い』って言われて満足してた。……だから余計に、一人でも大丈夫な強さのあるあなたを見て、羨ましくて、怖くて、『潰さなきゃ』って思った」
「うん」
佐藤さんたちも似た感じなんだろうな、と思った。
あの人たちはいつも群れて行動しているけど、私は一匹狼だ。
彼女たちは自分と〝違う〟私を快く思っていないんだろう。
もし〝彼女たちのルール〟に従ったなら、もっと優しくされていたかもしれない。
でも陰で何を言われるか分からないのに、表面上ニコニコして仲良くするフリをする関係なんて嫌だ。
心にもないお世辞を言うのも、興味がないのに乗り気になっているふりをするのも苦痛だ。
会社の人は友達じゃない。
友達になれる人もできるだろうけど、全員じゃない。
だから仕事さえ円滑に進められるなら、人間関係は無理しなくていいと思っている。
「そういうのから、解放されたらいいね」
優しく言うと、五十嵐さんはポトリと涙を零した。
「……うん。あなたみたいに強くなりたい」
私は彼女に頷いてせる。
「ちょっとずつでいいよ。まず、少しずつ自分を好きになっていく事から始めよう。自分の駄目な部分が目立つかもしれないけど、『もう十分苦しんだから、いいよ』っていたわってあげよう。飾ってない、無理をしてない素の自分を一旦受け入れるの」
「……努力してみる」
彼女は涙を拭い、しっかり頷く。
「自分を肯定する言葉を口に出して言ってみて。思うだけじゃなくて言葉にするの。同じように、つらい時は言葉にして『つらい』って言っていいんだよ。自分自身には『偉い』『凄い』『可愛い』って、どんどんポジティブな言葉を掛けてあげて。最初は独り言でもいい。そのうち、『よし天才じゃん!』って自然に言えるから。言葉にして言う事そのものが目的じゃなくて、自分を肯定するために手段なの。ポジティブな言葉って、皆に連鎖していくから、きっと周りの人も明るくなるよ。いい言葉には力があるって、私は信じてる」
「分かった」
頷いた彼女は、とても穏やかな顔をしていた。
「終わった事だし、いいよ」
私はポンポンと彼女の背中を叩く。
「あの時は動機がどうであれ、五十嵐さんは浜崎くんを好きで婚約してた。私が現れて面白くなく思ったのは分かるし、いまだに関係があるんじゃないかって疑う気持ちも理解できる。不安な事がある時、悪者を作ってその人のせいにしちゃうのが、一番手っ取り早く安心できるからね」
彼女は小さく頷いた。
「……でも、幾ら自分に自信がなくて不安だったからって、攻撃していい理由にはならない」
「ん」
分かってくれている彼女に、私は頷いてポンポンとさらに彼女の背中を叩く。
彼女は深い溜め息をついた。
「あの二人の事も、ずっと私が支配していたかもしれない。いけてる女のフリをしていて、私と仲良くしていれば色んな事がうまくいくって思わせてた。好かれてるから側にいてくれるんだって思っていたけど、私は社内で気に入らない人がいたら、裏でめちゃくちゃ悪口を言っていた。……だから、私を敵に回したら自分も悪く言われると思って、離れられなかったのかもしれない」
私は頷く。
そういう繋がりでの〝友情〟があるのも確かだ。
断ち切ったら自由が待っているけれど、嫌われてもいいから一人で歩いていくと決意するには、勇気が必要になるだろう。
女性は学生時代からグループに所属しがちだ。
「皆に嫌われたら終わり」という考えが根付いていて、大人になってもその考えから脱せずにいる人もいる。
会社のお局様とかもそうで、お局様と彼女に従う人たちに逆らったら、働くのはかなりキツいだろう。
そういう風潮がある以上、五十嵐さんのようにトラウマのある人は、自分を強く見せるため、攻撃されないように、虚勢を張ってしまったのかもしれない。
「彼女に逆らったら怖い」と思い込んだ友達は、五十嵐さんの機嫌を損ねないような関係を続けていたんだろう。
彼女はさらに言葉を続ける。
「学生時代は『ブス』っていじめられていた。攻撃されるのが怖かったから、必死に自分と付き合う事のメリットをアピールしてたと思う。会社の給料以外の収入で得たお金で、ブランドバッグを買って流行の物があったら何でも飛びついて、友達に『凄い』って言われて満足してた。……だから余計に、一人でも大丈夫な強さのあるあなたを見て、羨ましくて、怖くて、『潰さなきゃ』って思った」
「うん」
佐藤さんたちも似た感じなんだろうな、と思った。
あの人たちはいつも群れて行動しているけど、私は一匹狼だ。
彼女たちは自分と〝違う〟私を快く思っていないんだろう。
もし〝彼女たちのルール〟に従ったなら、もっと優しくされていたかもしれない。
でも陰で何を言われるか分からないのに、表面上ニコニコして仲良くするフリをする関係なんて嫌だ。
心にもないお世辞を言うのも、興味がないのに乗り気になっているふりをするのも苦痛だ。
会社の人は友達じゃない。
友達になれる人もできるだろうけど、全員じゃない。
だから仕事さえ円滑に進められるなら、人間関係は無理しなくていいと思っている。
「そういうのから、解放されたらいいね」
優しく言うと、五十嵐さんはポトリと涙を零した。
「……うん。あなたみたいに強くなりたい」
私は彼女に頷いてせる。
「ちょっとずつでいいよ。まず、少しずつ自分を好きになっていく事から始めよう。自分の駄目な部分が目立つかもしれないけど、『もう十分苦しんだから、いいよ』っていたわってあげよう。飾ってない、無理をしてない素の自分を一旦受け入れるの」
「……努力してみる」
彼女は涙を拭い、しっかり頷く。
「自分を肯定する言葉を口に出して言ってみて。思うだけじゃなくて言葉にするの。同じように、つらい時は言葉にして『つらい』って言っていいんだよ。自分自身には『偉い』『凄い』『可愛い』って、どんどんポジティブな言葉を掛けてあげて。最初は独り言でもいい。そのうち、『よし天才じゃん!』って自然に言えるから。言葉にして言う事そのものが目的じゃなくて、自分を肯定するために手段なの。ポジティブな言葉って、皆に連鎖していくから、きっと周りの人も明るくなるよ。いい言葉には力があるって、私は信じてる」
「分かった」
頷いた彼女は、とても穏やかな顔をしていた。
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