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五十嵐と再会 編
全部、自分の気持ち次第だよ
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「二つ目。今は若さでカバーできてるかもだけど、健康的な生活を送らないと、あとから病気になった時、後悔するよ。泥酔するまで飲んだり、暴飲暴食はやめたほうがいいんじゃないかな。悪いけど肌荒れ起こしてるし、内蔵も心配」
そう言うと、彼女は気にしていたのか頬に手をやった。
「正樹を見てみなよ。あの人ああ見えて三十歳だよ? 最近は『徹夜するのしんどい』とか『揚げ物つらい』って言ってる。気をつけてもそうなるんだから、自分を痛めつけてたら三十歳になったらどうなる事か……」
「副社長、おっさんじゃん」
「そうだよ。私たちだって、すぐおばさんになるよ」
現実を突きつけると、彼女は真顔になった。
「三つ目。余計なお世話だけど、貯蓄に目を向けたほうがいいと思う。ブランド物で全身固めてるの、好きならそれでいいと思う。けど、そのお金はどうやって得たのかな? って思うと、ちょっと色々想像しちゃう」
彼女が男性と誠実ではない関係を持っていたと知っているだけに、援助交際とか色んな単語がチラついてしまう。
人様の生活や懐事情を想像するなんて下品だけど、コテコテのブランド物で全身を固めた、不健康そうな彼女を見ていると、生活が何となく分かってしまう。
イメージだけど、金遣いの荒さみたいなものも感じてしまう。
「どういう生活をしていても自由だけど、目先のものばかり追っていたら、将来困るかもしれない。一人暮らししていて体調を崩したら、頼れるのはお金だよ。突然入院して、手術するかもしれない。その貯蓄はある?」
彼女は答えない。
多分、沈黙が返事だ。
「まず百万貯めよう。それから、老後のお金を貯めるためにお金の勉強をしていこう。年金だけじゃやっていけないし、若いうちに働きながら老後の資金を貯めておくの。定年退職したあと、悠々自適に海外旅行とか憧れるでしょう? お金のない老後は、健康面でも不安だよ。だから投資の勉強とか勧める」
「……難しそう。私、数学の成績悪かったし」
「理解すれば大して難しくないよ。勿論、奥の深いところはとても難しい。でも私みたいに放ったらかしのやり方なら、方法さえ理解すれば大丈夫。その辺りは、文香に聞いたら教えてくれるよ。勿論、投資のスタイルはひとそれぞれで、正解なんてないけどね」
私はもう一本指を立てる。
「四つ目。結婚したい?」
「……したい」
「これも余計なお世話だけど、それなら昨日一緒にいたような人たちとは、縁を切ったほうがいいと思う。どんな人と結婚したい?」
「……高収入で、優しくてイケメン」
うーん、模範的なアレだな。
「そういう人って、もう売約済みだと思う。きつい事を言うけど、仮にそういう人が結婚市場に残っているとしても、今の五十嵐さんの男性関係を知ったら、まず選ばないと思う」
彼女は視線を伏せ、溜め息をつく。
「……いや、事実だからいい」
大分考え方が変わってきたな。いい事だ。
少なくとも、以前みたいに触れたら爆発するみたいな雰囲気がなくなった。
「あの人たちの事、好きなの?」
尋ねると、彼女は微妙な顔をして黙った。
やがて、呟く。
「……褒めてくれる。笑わせてくれて、自己肯定感が上がる」
「それってさ、自分でもできるよ?」
彼女は思ってもみなかった、という顔でこちらを見る。
「自分の事、『可愛い』って思って、メイクしたら『女神じゃん!』って自画自賛すればいいよ。ハッピーになれるし、心に余裕ができると他人に優しくなれる。〝与え〟られる人って、幸せな人なんだよ。不幸せな人はもらって、奪ってばっかり。どっちになりたいかはすぐ分かるよね?」
五十嵐さんは頷く。
「人生、持ちつ持たれつだけど、一方的にもらってばかりじゃなくて、人に何か与えられる存在を目指そうよ。『自分、いいじゃん』って思えたら自己肯定感が上がるし、他人からの評価も上がる。全部、自分の気持ち次第だよ。日々の積み重ねで自分の気持ちを上げられる。嫌な事があっても他人のせいにしないで、自分で制御できる。それが大人だよ」
彼女は小さく頷く。
「人から褒められると嬉しいし、もっと頑張ろうって思えるよね。でもそれだけを自分の軸にしてしまったら〝褒めてくれる観客〟がいなくなった時にどうしたらいいか分からなくなる。他人からの賞賛に依存して生きるのはしんどいよ。『褒められたい自分になりたい』のは分かるけど、まず第一に自分で自分を褒めて、満足できるようにならないと。人から褒められるのは、おまけぐらいに考えていいの」
彼女はまたしばらく黙る。
やがて唇を震わせて言った。
「……整形しても、自分の事をブスだって思ってしまう。……だから、人に褒められないと不安になる。綺麗になって自信をつけたいから整形したのに、今はバレないかビクビクしてる。でも褒めてもらいたくて、けど、結婚したら遺伝するんじゃとか心配で……」
うん。やっぱりそこだよね。
五十嵐さんの根本的な問題はそこにある。
「整形した事実は変えられないよ。元の顔に戻るよう手術し直す事もできるかもしれないけど、今の顔を気に入ってる?」
彼女は一つしっかり頷く。
「じゃあ、現状をよしとしよう。その上で、整形した事を『恥じゃない』って思えるようにメンタルトレーニングしていこう」
「どうやって……」
「ていうかさ、理想のためにお金掛けるの、そんなに悪い事かな?」
彼女はジッとこちらを見る。
そう言うと、彼女は気にしていたのか頬に手をやった。
「正樹を見てみなよ。あの人ああ見えて三十歳だよ? 最近は『徹夜するのしんどい』とか『揚げ物つらい』って言ってる。気をつけてもそうなるんだから、自分を痛めつけてたら三十歳になったらどうなる事か……」
「副社長、おっさんじゃん」
「そうだよ。私たちだって、すぐおばさんになるよ」
現実を突きつけると、彼女は真顔になった。
「三つ目。余計なお世話だけど、貯蓄に目を向けたほうがいいと思う。ブランド物で全身固めてるの、好きならそれでいいと思う。けど、そのお金はどうやって得たのかな? って思うと、ちょっと色々想像しちゃう」
彼女が男性と誠実ではない関係を持っていたと知っているだけに、援助交際とか色んな単語がチラついてしまう。
人様の生活や懐事情を想像するなんて下品だけど、コテコテのブランド物で全身を固めた、不健康そうな彼女を見ていると、生活が何となく分かってしまう。
イメージだけど、金遣いの荒さみたいなものも感じてしまう。
「どういう生活をしていても自由だけど、目先のものばかり追っていたら、将来困るかもしれない。一人暮らししていて体調を崩したら、頼れるのはお金だよ。突然入院して、手術するかもしれない。その貯蓄はある?」
彼女は答えない。
多分、沈黙が返事だ。
「まず百万貯めよう。それから、老後のお金を貯めるためにお金の勉強をしていこう。年金だけじゃやっていけないし、若いうちに働きながら老後の資金を貯めておくの。定年退職したあと、悠々自適に海外旅行とか憧れるでしょう? お金のない老後は、健康面でも不安だよ。だから投資の勉強とか勧める」
「……難しそう。私、数学の成績悪かったし」
「理解すれば大して難しくないよ。勿論、奥の深いところはとても難しい。でも私みたいに放ったらかしのやり方なら、方法さえ理解すれば大丈夫。その辺りは、文香に聞いたら教えてくれるよ。勿論、投資のスタイルはひとそれぞれで、正解なんてないけどね」
私はもう一本指を立てる。
「四つ目。結婚したい?」
「……したい」
「これも余計なお世話だけど、それなら昨日一緒にいたような人たちとは、縁を切ったほうがいいと思う。どんな人と結婚したい?」
「……高収入で、優しくてイケメン」
うーん、模範的なアレだな。
「そういう人って、もう売約済みだと思う。きつい事を言うけど、仮にそういう人が結婚市場に残っているとしても、今の五十嵐さんの男性関係を知ったら、まず選ばないと思う」
彼女は視線を伏せ、溜め息をつく。
「……いや、事実だからいい」
大分考え方が変わってきたな。いい事だ。
少なくとも、以前みたいに触れたら爆発するみたいな雰囲気がなくなった。
「あの人たちの事、好きなの?」
尋ねると、彼女は微妙な顔をして黙った。
やがて、呟く。
「……褒めてくれる。笑わせてくれて、自己肯定感が上がる」
「それってさ、自分でもできるよ?」
彼女は思ってもみなかった、という顔でこちらを見る。
「自分の事、『可愛い』って思って、メイクしたら『女神じゃん!』って自画自賛すればいいよ。ハッピーになれるし、心に余裕ができると他人に優しくなれる。〝与え〟られる人って、幸せな人なんだよ。不幸せな人はもらって、奪ってばっかり。どっちになりたいかはすぐ分かるよね?」
五十嵐さんは頷く。
「人生、持ちつ持たれつだけど、一方的にもらってばかりじゃなくて、人に何か与えられる存在を目指そうよ。『自分、いいじゃん』って思えたら自己肯定感が上がるし、他人からの評価も上がる。全部、自分の気持ち次第だよ。日々の積み重ねで自分の気持ちを上げられる。嫌な事があっても他人のせいにしないで、自分で制御できる。それが大人だよ」
彼女は小さく頷く。
「人から褒められると嬉しいし、もっと頑張ろうって思えるよね。でもそれだけを自分の軸にしてしまったら〝褒めてくれる観客〟がいなくなった時にどうしたらいいか分からなくなる。他人からの賞賛に依存して生きるのはしんどいよ。『褒められたい自分になりたい』のは分かるけど、まず第一に自分で自分を褒めて、満足できるようにならないと。人から褒められるのは、おまけぐらいに考えていいの」
彼女はまたしばらく黙る。
やがて唇を震わせて言った。
「……整形しても、自分の事をブスだって思ってしまう。……だから、人に褒められないと不安になる。綺麗になって自信をつけたいから整形したのに、今はバレないかビクビクしてる。でも褒めてもらいたくて、けど、結婚したら遺伝するんじゃとか心配で……」
うん。やっぱりそこだよね。
五十嵐さんの根本的な問題はそこにある。
「整形した事実は変えられないよ。元の顔に戻るよう手術し直す事もできるかもしれないけど、今の顔を気に入ってる?」
彼女は一つしっかり頷く。
「じゃあ、現状をよしとしよう。その上で、整形した事を『恥じゃない』って思えるようにメンタルトレーニングしていこう」
「どうやって……」
「ていうかさ、理想のためにお金掛けるの、そんなに悪い事かな?」
彼女はジッとこちらを見る。
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