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イギリス 編

あれってお世辞よ?

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『お、お部屋伺いますね』

『ええ』

 彼女はにっこり笑い、先に少し歩いてから私を振り向き、手を差しだす。

『一緒に行きましょう』

 どう見てもその手は〝手繋ぎ〟を求めていた。

 う、うーん……。

 若干迷いつつも、私はシャーロットさんのフワッとした、白魚のような手を握った。

『うふふ……』

 こちらに笑いかけてくる彼女が何を考えているのか分からず、私は泣きたくなる。
 チラッと慎也と正樹を見ると、彼らも困った顔をしてこちらを見ていた。

 た、助けてよぉ……。

 そんな願いも空しく、私は階段を上がってシャーロットさんの私室へ入った。

 さすがどでかいお城にある令嬢の部屋で、彼女の私室というのは一部屋だけではない。

 最初に入った部屋は居間のような感じで、ソファセットやテレビがある。

 やっぱり城だなーと思うのは、壁紙にやたらデコデコした模様があるところだ。
 シャンデリアはテンプレだし、天井にはフレスコ画、天井と壁の間には金色の飾りがある。

 私ならシンプルな部屋で生活したいけど、アボットさんはこういうのが当たり前なんだろう。
 ロンドンにあるお宅は、もうちょっと近代的なのかもしれないけれど。

『どうぞ、こちらに入って。私の特別室なの』

『特別……?』

 スペシャルな部屋と言われ、私は微笑を浮かべながら続き部屋を覗き、固まった。

 んん!?

『どう? 素敵でしょう?』

『え……えぇ、あぁ、……はい……』

 目の前には、トルソーに着せられた〝衣装〟がある。

 中世ヨーロッパの貴族が来ていたようなドレスから、ヴィクトリアンメイドに不思議の国のアリスっぽいエプロンスカート。

 ……その辺ならまだ分かるんだけど、…………ミニスカナースにミニスカポリス?

 秋葉原にいそうな短い丈のメイド服に、……えーと、やけに露出度の高いこれは……背中に羽があるから、悪魔?
 うわぁお、ちょっと前にネットで流行った童貞を○すニットまである……。

 えぇと……。

 困惑してシャーロットさんを見ると、彼女はキラッキラした目で私の両手を握りしめてきた。

『私、お洋服が大好きなの!』

 えぇっと、これは洋服っていうより衣装ですね!?

 心の中で突っ込みつつ、私は生ぬるく笑う。

『優美さんを見た時、〝何を着せても似合う!〟って見抜いたのよ! 私、凄くない!?』

『えぇと……?』

 つまり、すっごい見られていたのは、私自身……?

『あの、誤解を解くために質問したいのですが』

『なぁに?』

 彼女は青い目を瞬かせ、にっこり笑う。

『……違ってたらすっごい恥ずかしいんですが、正樹を挟んで私をライバル視していたとか……そういうのは……?』

 私の質問を聞いて、シャーロットさんはこれ以上ないほど目を大きく見開いてから、「あはははは!」と大きな声で笑い始めた。
 彼女は顔の前で片手をブンブンと振りつつ、おかしくて堪らないという様子でしばらく笑い続ける。

『もしかして、私が正樹を好きだと思ってた?』

 ようやく笑いが収まった頃、シャーロットさんは目に涙を溜めて尋ねてくる。

『えっと……、でもあの、正樹の事、〝今ならアリかもしれない〟って言いませんでした?』

『言ったけど……、あれってお世辞よ? 彼は本当に素敵な男性だし、〝諸々の事情〟さえなければ、ほんの少し考える余地はあったかもしれない。でもそれだけだわ。彼ってタイプじゃないし』

 ???

 目をまん丸にして「えええ……?」という顔をしていたからか、シャーロットさんは破顔して私を抱きしめてきた。

『やだぁ! 優美さん、妬いたの? 可愛い!』

 身長のあるシャーロットさんに抱きしめられ、私は混乱してされるがままだ。

『だって今回こちらに来る時、正樹は〝いい人を連れて行く〟って言ったのよ? それが優美さんだって分かってるのに、私が間に入るなんてあり得ないじゃない』

『で……、でも……?』

 色々、なんか匂わせありませんでした!?

 困惑していると、ココン、と開きっぱなしだった部屋の出入り口で、エディさん、クリスさん、正樹に慎也が顔を覗かせている。

『ロティー、お前が思わせぶりな事をするからだ』

『嫌だわ。そんな事してないわよお兄様』

『俺から見ると、優美がいるのに正樹と慎也を〝借りて〟買い物に連れ出すなんて、いじわるなお嬢様そのものだったぞ?』

 クリスさんに言われ、シャーロットさんは初めて気づいたというように目を見開いた。

『そう見えてた!?』

 また両手を握られ、青い目で見つめられる。
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