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イギリス 編

ほんっとうにすんません

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「えいやっ!」

 ――とっさに、です。

 体が条件反射で動いたんです。

 他意はありません。悪意も何もありません。

 痩せてから変な人に声を掛けられる事が多くなり、和人くんにも勧められて、文香と一緒に護身術を習った。
 それがつい……でてしまった。

「What happend!?」

 私に片手をひねりあげられ、頭を大きく下げた状態で、首の後ろを腕で押さえられたエディさんが、驚愕の声を上げる。

 …………すんません。
 ほんっとうに……すんません。

『あぁ……えっと……。女性に気安く触ろうとしたら駄目ですよ?』

 彼を解放したあと、長居は無用だと思ってここを去る事にした。

『すみません! おやすみなさい!』

 私はペコッとお辞儀をしたあと、お城までダッシュした。

 後ろは振り返らない。

 振り返ったら終わり、なんて神話があったような気がする。

「はぁ……っ、はぁっ……」

 ドアを閉じ、私はしばらく玄関ホールにあるソファに座って呼吸を整えていた。

 ――と、

「優美?」

 顔を上げると慎也が階段から下りてくるところで、ゼーゼーいっている私を心配して階段を駆け下り、走って近づいてきた。

「どうした?」

「ううん。ちょっと……、ジョ、ジョギング?」

 誤魔化した私を、慎也は疑いの目で見てくる。

「優美」

 私の前に膝をつき、慎也は真剣な声、表情で本当の事を尋ねようとする。

 まさかエディさんに迫られたなんて言えない。

 しかもあれは、恋心があっての迫り方じゃなく、他の思惑があっての言動だった。
 だからこそ、余計にこじれそうで嫌だった。

「外に出ていた間に起こった事を、全部教えて。一人でいたなら、考えていた事でもいい。何でもいいから教えて」

 真摯に語りかけ、慎也は私の頬に手を滑らせ、親指で唇をなぞる。

 その手のぬくもりに、私は安堵を得ていた。

 やっぱりどんなイケメンでも、慎也と正樹じゃない人に触られたら拒否感しかない。

 なんだかとても安心してしまって、ほんの少しだけ目が潤んだ。

「……慎也、ちょっと充電」

 私が両手を差し出すと、彼は「ん」と応じて抱きしめさせてくれる。
 彼は私の背中をトントンと叩き、気持ちが落ち着くようあやしてきた。

「何があった? 話してみ」

 優しい声で尋ねられるけれど、さっきまでの出来事を上手に説明できる自信はない。

 自分の身可愛さにすべてを話せば、せっかくの滞在が台無しになる。
 慎也だってエディさんが私に手を出そうとしたと知ったら、いい気がしないだろう。

 私か、友達か、という話じゃない。

 一番大切にすべきなのは、正樹が〝恩人〟であるビルさんに「幸せになれる道を見つけた」と報告に来た和やかなムードだ。

 だから、絶対に〝和〟を乱したくなかった。

「何でもないの。ちょっとホームシック気味になったというか……」

 適当に誤魔化すと、慎也が何でもないように言う。

「じゃあ、帰るか? チケット取れるか見てみる」

 そう言ってポケットからスマホを取り出したので、私は「わぁおぅ!」と言って彼の手にしがみついた。

「…………なに」

「い、いや……その……」

 不審な目で見られ、冷や汗を掻きながらどう誤魔化そうかと思っていた時、玄関のドアが開いてエディさんが姿を現した。

「あっ……」

 まさか避けに避けていた当人のご登場と思わず、私は思わず声を出して立ち上がる。

 それだけで、慎也はすべてを察したようだった。

 彼は立ち上がり、エディさんに向き直る。

「ちょ、ちょちょちょ、慎也、ストップ」

『こんばんは、エディ』

『ああ、いい夜だな』

 ただ挨拶を交わしているだけなのに、こんなに空気が殺伐としているのはどうしてだろう。

 二人とも身長があるし、お互い笑顔……になる雰囲気じゃないからなぁ……。
 うわぁ……、責任を感じる。

 っていうか、エディさんの事を思い切りねじ伏せたの忘れてた! やっば!

「…………」

 私は冷や汗をタラタラ流し、エディさんの顔を盗み見する。
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