190 / 539
イギリス 編
ほんっとうにすんません
しおりを挟む
「えいやっ!」
――とっさに、です。
体が条件反射で動いたんです。
他意はありません。悪意も何もありません。
痩せてから変な人に声を掛けられる事が多くなり、和人くんにも勧められて、文香と一緒に護身術を習った。
それがつい……でてしまった。
「What happend!?」
私に片手をひねりあげられ、頭を大きく下げた状態で、首の後ろを腕で押さえられたエディさんが、驚愕の声を上げる。
…………すんません。
ほんっとうに……すんません。
『あぁ……えっと……。女性に気安く触ろうとしたら駄目ですよ?』
彼を解放したあと、長居は無用だと思ってここを去る事にした。
『すみません! おやすみなさい!』
私はペコッとお辞儀をしたあと、お城までダッシュした。
後ろは振り返らない。
振り返ったら終わり、なんて神話があったような気がする。
「はぁ……っ、はぁっ……」
ドアを閉じ、私はしばらく玄関ホールにあるソファに座って呼吸を整えていた。
――と、
「優美?」
顔を上げると慎也が階段から下りてくるところで、ゼーゼーいっている私を心配して階段を駆け下り、走って近づいてきた。
「どうした?」
「ううん。ちょっと……、ジョ、ジョギング?」
誤魔化した私を、慎也は疑いの目で見てくる。
「優美」
私の前に膝をつき、慎也は真剣な声、表情で本当の事を尋ねようとする。
まさかエディさんに迫られたなんて言えない。
しかもあれは、恋心があっての迫り方じゃなく、他の思惑があっての言動だった。
だからこそ、余計にこじれそうで嫌だった。
「外に出ていた間に起こった事を、全部教えて。一人でいたなら、考えていた事でもいい。何でもいいから教えて」
真摯に語りかけ、慎也は私の頬に手を滑らせ、親指で唇をなぞる。
その手のぬくもりに、私は安堵を得ていた。
やっぱりどんなイケメンでも、慎也と正樹じゃない人に触られたら拒否感しかない。
なんだかとても安心してしまって、ほんの少しだけ目が潤んだ。
「……慎也、ちょっと充電」
私が両手を差し出すと、彼は「ん」と応じて抱きしめさせてくれる。
彼は私の背中をトントンと叩き、気持ちが落ち着くようあやしてきた。
「何があった? 話してみ」
優しい声で尋ねられるけれど、さっきまでの出来事を上手に説明できる自信はない。
自分の身可愛さにすべてを話せば、せっかくの滞在が台無しになる。
慎也だってエディさんが私に手を出そうとしたと知ったら、いい気がしないだろう。
私か、友達か、という話じゃない。
一番大切にすべきなのは、正樹が〝恩人〟であるビルさんに「幸せになれる道を見つけた」と報告に来た和やかなムードだ。
だから、絶対に〝和〟を乱したくなかった。
「何でもないの。ちょっとホームシック気味になったというか……」
適当に誤魔化すと、慎也が何でもないように言う。
「じゃあ、帰るか? チケット取れるか見てみる」
そう言ってポケットからスマホを取り出したので、私は「わぁおぅ!」と言って彼の手にしがみついた。
「…………なに」
「い、いや……その……」
不審な目で見られ、冷や汗を掻きながらどう誤魔化そうかと思っていた時、玄関のドアが開いてエディさんが姿を現した。
「あっ……」
まさか避けに避けていた当人のご登場と思わず、私は思わず声を出して立ち上がる。
それだけで、慎也はすべてを察したようだった。
彼は立ち上がり、エディさんに向き直る。
「ちょ、ちょちょちょ、慎也、ストップ」
『こんばんは、エディ』
『ああ、いい夜だな』
ただ挨拶を交わしているだけなのに、こんなに空気が殺伐としているのはどうしてだろう。
二人とも身長があるし、お互い笑顔……になる雰囲気じゃないからなぁ……。
うわぁ……、責任を感じる。
っていうか、エディさんの事を思い切りねじ伏せたの忘れてた! やっば!
「…………」
私は冷や汗をタラタラ流し、エディさんの顔を盗み見する。
――とっさに、です。
体が条件反射で動いたんです。
他意はありません。悪意も何もありません。
痩せてから変な人に声を掛けられる事が多くなり、和人くんにも勧められて、文香と一緒に護身術を習った。
それがつい……でてしまった。
「What happend!?」
私に片手をひねりあげられ、頭を大きく下げた状態で、首の後ろを腕で押さえられたエディさんが、驚愕の声を上げる。
…………すんません。
ほんっとうに……すんません。
『あぁ……えっと……。女性に気安く触ろうとしたら駄目ですよ?』
彼を解放したあと、長居は無用だと思ってここを去る事にした。
『すみません! おやすみなさい!』
私はペコッとお辞儀をしたあと、お城までダッシュした。
後ろは振り返らない。
振り返ったら終わり、なんて神話があったような気がする。
「はぁ……っ、はぁっ……」
ドアを閉じ、私はしばらく玄関ホールにあるソファに座って呼吸を整えていた。
――と、
「優美?」
顔を上げると慎也が階段から下りてくるところで、ゼーゼーいっている私を心配して階段を駆け下り、走って近づいてきた。
「どうした?」
「ううん。ちょっと……、ジョ、ジョギング?」
誤魔化した私を、慎也は疑いの目で見てくる。
「優美」
私の前に膝をつき、慎也は真剣な声、表情で本当の事を尋ねようとする。
まさかエディさんに迫られたなんて言えない。
しかもあれは、恋心があっての迫り方じゃなく、他の思惑があっての言動だった。
だからこそ、余計にこじれそうで嫌だった。
「外に出ていた間に起こった事を、全部教えて。一人でいたなら、考えていた事でもいい。何でもいいから教えて」
真摯に語りかけ、慎也は私の頬に手を滑らせ、親指で唇をなぞる。
その手のぬくもりに、私は安堵を得ていた。
やっぱりどんなイケメンでも、慎也と正樹じゃない人に触られたら拒否感しかない。
なんだかとても安心してしまって、ほんの少しだけ目が潤んだ。
「……慎也、ちょっと充電」
私が両手を差し出すと、彼は「ん」と応じて抱きしめさせてくれる。
彼は私の背中をトントンと叩き、気持ちが落ち着くようあやしてきた。
「何があった? 話してみ」
優しい声で尋ねられるけれど、さっきまでの出来事を上手に説明できる自信はない。
自分の身可愛さにすべてを話せば、せっかくの滞在が台無しになる。
慎也だってエディさんが私に手を出そうとしたと知ったら、いい気がしないだろう。
私か、友達か、という話じゃない。
一番大切にすべきなのは、正樹が〝恩人〟であるビルさんに「幸せになれる道を見つけた」と報告に来た和やかなムードだ。
だから、絶対に〝和〟を乱したくなかった。
「何でもないの。ちょっとホームシック気味になったというか……」
適当に誤魔化すと、慎也が何でもないように言う。
「じゃあ、帰るか? チケット取れるか見てみる」
そう言ってポケットからスマホを取り出したので、私は「わぁおぅ!」と言って彼の手にしがみついた。
「…………なに」
「い、いや……その……」
不審な目で見られ、冷や汗を掻きながらどう誤魔化そうかと思っていた時、玄関のドアが開いてエディさんが姿を現した。
「あっ……」
まさか避けに避けていた当人のご登場と思わず、私は思わず声を出して立ち上がる。
それだけで、慎也はすべてを察したようだった。
彼は立ち上がり、エディさんに向き直る。
「ちょ、ちょちょちょ、慎也、ストップ」
『こんばんは、エディ』
『ああ、いい夜だな』
ただ挨拶を交わしているだけなのに、こんなに空気が殺伐としているのはどうしてだろう。
二人とも身長があるし、お互い笑顔……になる雰囲気じゃないからなぁ……。
うわぁ……、責任を感じる。
っていうか、エディさんの事を思い切りねじ伏せたの忘れてた! やっば!
「…………」
私は冷や汗をタラタラ流し、エディさんの顔を盗み見する。
10
お気に入りに追加
1,840
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~
けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。
秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。
グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。
初恋こじらせオフィスラブ
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる