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イギリス 編
アボット家でアフターヌーンティー
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「結局、優美がどれだけ『私はこうやって頑張りました』って言っても、響かない人には響かないんだよ。優美は一生懸命自分をコントロールしてるけど、嫉妬した時ぐらいは俺たちに打ち明けてもいいからな?」
慎也にポンポンと肩を叩かれ、私は安心して微笑んだ。
「ありがとう。まだまだ未熟者だけど、宜しくお願いします」
「「こちらこそ」」
笑い合って話が落ち着いた頃、お茶の時間になっていたので階下に向かう事にした。
**
部屋を出て階段を下りると、執事(!)さんみたいなタキシード姿の男性が、私たちを案内してくれた。
貴族、半端ねぇ……。
お城だから、廊下でもどこでもアンティークなシャンデリアがあって、凄いの一言に尽きる。
一階まで来ると、焼き菓子の匂いがして食欲をそそる。
『ご案内しました』
執事さんがドアの前で告げ、私たちはサンルーム……というのか、温室みたいに天井も壁も一面のガラスになっている部屋に通された。
「わぁ……! 凄い!」
ガラスの向こうには、バラや季節の花が咲き乱れている庭園が見え、その向こうには芝生に噴水に……と、絶好のロケーションだ。
アボットさんたちは白いテーブルクロスが掛けられた長テーブルについている。
テーブルも、正式なアフターヌーンティーだからか、アンダープレートが置かれ、両側にはカトラリーが配されグラスも複数個ある。
テーブルの上には卓上花が飾られて、キャンドルもある。
文香が言うには、ここまでやるのが本当のアフターヌーンティーなんだとか。
都内のホテルのアフターヌーンティーに行ったけど、キャンドルはなかったかもしれない。
「……あれ? アフターヌーンティーって、結構きちんとした格好をしなきゃいけないんじゃなかった?」
思わず呟いたけれど、アボットさん一家は先ほどの服装のままだった。
それを耳にした正樹が、ビルさんに尋ねる。
『ビル、本当にこのままの格好で良かった? 何なら着替えてくるけど』
『いやいや、全然結構だよ。遠い場所、はるばる来てもらったんだから、肩肘張らないスタイルでいきたい。ここは我が家だからね。勿論、ホテルでならかしこまる必要があるかもしれないが』
その会話を耳にし、ビルさんが私たちを気遣ってくれたのだと知った。
日本からイギリスに来て、さらに遠方に移動して宿泊先でフォーマルな格好をして……って、やっぱり大変だからなぁ。
いわば、茶席に呼ばれて普段着でいいですよ、と言われたのも同義だ。
日本流なら着物を着て、懐紙やら色々用意しなければいけない。
けれど「ここは我が家だから気楽に楽しんでください」と言ってもらえているなら、ご厚意に甘えよう。
さすがというべきか、給仕の方もいて、私たちのグラスにシャンパンを注いでいく。
『では、長旅お疲れ様』
ビルさんがグラスを掲げ、乾杯する。
そのあと、ワゴンで運ばれてきた前菜がテーブルに置かれた。
次にスープ、そしてサンドウィッチやスコーンにあれこれ……を食べる流れになる。
よくある三段のティースタンドは、狭いテーブルでお茶を楽しむための物らしい。
スペースがあるなら、本来は直接テーブルに置いていいんだとか。
香りのいい紅茶を飲みながら、私たちは会話を楽しむ。
ある程度世間話をしたあと、観光した場所の感想を言う。
皆さん、自国を私たちが満喫していて実に嬉しそうだった。
『明日、もし良かったら近くをクルーズしないか? ウィンダミア湖の湖畔にボートをとめているんだ』
『ぜひ!』
ビルさんの提案に、正樹が笑う。
『正樹、慎也、その時にちょっと付き合ってもらいたい所があるんだけど、いい?』
その時、シャーロットさんが口を開いて、二人を誘った。
あー……。
生ぬるい笑いになった私の両側で、二人が微かに空気を緊張させたのが分かった。
いや、ホストのお嬢さんを不機嫌にさせちゃいけない。
『優美さん、二人を借りてもいい?』
シャーロットさんに尋ねられ、私は笑顔で頷いた。
『はい、ぜひ。荷物持ちでも何でも役立ててください』
『ありがとう』
彼女は品良く笑った時、二人が同じタイミングで私を見てくる。
……だって仕方ないじゃん。
鉄壁の営業スマイルを浮かべたまま、私は心の中で呟く。
『クルーズの折り返し地点の町で、少し歩きたいんです。優美さんには、荷物持ちに兄と弟をお貸ししますね』
妹に言われ、二人が眉を上げる。
慎也にポンポンと肩を叩かれ、私は安心して微笑んだ。
「ありがとう。まだまだ未熟者だけど、宜しくお願いします」
「「こちらこそ」」
笑い合って話が落ち着いた頃、お茶の時間になっていたので階下に向かう事にした。
**
部屋を出て階段を下りると、執事(!)さんみたいなタキシード姿の男性が、私たちを案内してくれた。
貴族、半端ねぇ……。
お城だから、廊下でもどこでもアンティークなシャンデリアがあって、凄いの一言に尽きる。
一階まで来ると、焼き菓子の匂いがして食欲をそそる。
『ご案内しました』
執事さんがドアの前で告げ、私たちはサンルーム……というのか、温室みたいに天井も壁も一面のガラスになっている部屋に通された。
「わぁ……! 凄い!」
ガラスの向こうには、バラや季節の花が咲き乱れている庭園が見え、その向こうには芝生に噴水に……と、絶好のロケーションだ。
アボットさんたちは白いテーブルクロスが掛けられた長テーブルについている。
テーブルも、正式なアフターヌーンティーだからか、アンダープレートが置かれ、両側にはカトラリーが配されグラスも複数個ある。
テーブルの上には卓上花が飾られて、キャンドルもある。
文香が言うには、ここまでやるのが本当のアフターヌーンティーなんだとか。
都内のホテルのアフターヌーンティーに行ったけど、キャンドルはなかったかもしれない。
「……あれ? アフターヌーンティーって、結構きちんとした格好をしなきゃいけないんじゃなかった?」
思わず呟いたけれど、アボットさん一家は先ほどの服装のままだった。
それを耳にした正樹が、ビルさんに尋ねる。
『ビル、本当にこのままの格好で良かった? 何なら着替えてくるけど』
『いやいや、全然結構だよ。遠い場所、はるばる来てもらったんだから、肩肘張らないスタイルでいきたい。ここは我が家だからね。勿論、ホテルでならかしこまる必要があるかもしれないが』
その会話を耳にし、ビルさんが私たちを気遣ってくれたのだと知った。
日本からイギリスに来て、さらに遠方に移動して宿泊先でフォーマルな格好をして……って、やっぱり大変だからなぁ。
いわば、茶席に呼ばれて普段着でいいですよ、と言われたのも同義だ。
日本流なら着物を着て、懐紙やら色々用意しなければいけない。
けれど「ここは我が家だから気楽に楽しんでください」と言ってもらえているなら、ご厚意に甘えよう。
さすがというべきか、給仕の方もいて、私たちのグラスにシャンパンを注いでいく。
『では、長旅お疲れ様』
ビルさんがグラスを掲げ、乾杯する。
そのあと、ワゴンで運ばれてきた前菜がテーブルに置かれた。
次にスープ、そしてサンドウィッチやスコーンにあれこれ……を食べる流れになる。
よくある三段のティースタンドは、狭いテーブルでお茶を楽しむための物らしい。
スペースがあるなら、本来は直接テーブルに置いていいんだとか。
香りのいい紅茶を飲みながら、私たちは会話を楽しむ。
ある程度世間話をしたあと、観光した場所の感想を言う。
皆さん、自国を私たちが満喫していて実に嬉しそうだった。
『明日、もし良かったら近くをクルーズしないか? ウィンダミア湖の湖畔にボートをとめているんだ』
『ぜひ!』
ビルさんの提案に、正樹が笑う。
『正樹、慎也、その時にちょっと付き合ってもらいたい所があるんだけど、いい?』
その時、シャーロットさんが口を開いて、二人を誘った。
あー……。
生ぬるい笑いになった私の両側で、二人が微かに空気を緊張させたのが分かった。
いや、ホストのお嬢さんを不機嫌にさせちゃいけない。
『優美さん、二人を借りてもいい?』
シャーロットさんに尋ねられ、私は笑顔で頷いた。
『はい、ぜひ。荷物持ちでも何でも役立ててください』
『ありがとう』
彼女は品良く笑った時、二人が同じタイミングで私を見てくる。
……だって仕方ないじゃん。
鉄壁の営業スマイルを浮かべたまま、私は心の中で呟く。
『クルーズの折り返し地点の町で、少し歩きたいんです。優美さんには、荷物持ちに兄と弟をお貸ししますね』
妹に言われ、二人が眉を上げる。
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