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イギリス 編

アボット家の別荘

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「さすが湖水地方っていうだけあって、湖があるんだね。言葉の通りなんだけど」

「マップアプリで見るとかなり小さく見えるけど、クルーズしたら凄く広いよ」

 正樹がそう教えてくれる。

「そうなんだ」

「ビルが自分の所有してるボートでクルーズを、って考えてくれてるみたいだから、楽しみにしてて、優美ちゃん」

「うん」

 やがて森に囲まれた道路を進んで突き当たりに、豪邸があった。

「でっか……。これ、別荘? でっか……」

 別荘地と聞いて、なんとなく軽井沢とかみたいに周囲に他の人の家が見える、敷地の広い住宅地みたいなのを想像していた。

 けれど目の前には、公園のように整えられた庭園、そしてその奥にまさに……城。城そのものがある。
 私の実家は表札から玄関ドアまで数歩だけど、ここは自動で開く門を通ってから城まで、車でゆうに十分ほどかかった。

 ……なんなんだ、このべらぼうな広さは。

 呆けていると護衛さんたちがスーツケースを出してくれたので、ハッとなって「自分で持ちます!」と動く。

『いらっしゃい』

 人の声がして振り向くと、カジュアルな格好のビルさんたちが屋敷から出てくるところだ。
 車は玄関前のロータリーみたいな所に止められていて、彼らも荷物を持つのを手伝ってくれる。

『ビル、お招きありがとう』

 正樹はビルさんと握手をし、肩をトントンとたたき合っている。
 ご夫妻やエディさん、クリスさん、シャーロットさんたちとも挨拶をし、歓迎ムードで城の中に通された。

「すごぉい……」

 玄関ホールというのか、市松模様に似た白黒の床はピカピカに磨かれ、玄関なのに暖炉やソファセットまである。
 高そうな絵画や、綺麗な花を生けた花瓶があって、用途の分からない調度品も高級そうでうかつに触れない。

『君たちの部屋にまず案内しよう』

 ビルさんが言い、私たちは二階にあるゲストルームに案内された。

 そこもホテルの客室と遜色ない。
 私の部屋には、アンティークベージュのベッドカバーが掛かったダブルベッドがある。
 壁は白で、天井からはシャンデリアが下がっている。
 ソファとかも猫足の、背もたれの縁にも金色の飾りがついているアレ……。
 お金持ちの奥様とかが好んで座っているようなアレなので、ちょっと緊張する。
 続き部屋にはバストイレがあり、きちんと掃除が行き届いていて清潔だ。
 昔ながらのお城を使っている感じだけど、部屋には大きな液晶テレビや電子ケトルとかがある。
 その横にはさすが紅茶の国らしく、ティーバッグやお菓子とかも置いてあって、至れり尽くせりだ。ミニバーには水やコーラなどもあり、きちんと冷やされている。

「少し休んだらお茶しようだって」

 自分の部屋に荷物を置いた慎也が、私の部屋を訪れる。
 すぐに正樹も来て、私たちはソファに座って人心地ついた。

「ビルさんって何者なの? ただのホテル経営者とは思えないけど」

「んー、貴族ではあるみたいだね? 本人も色んな肩書きがあるから、『光栄には思っているけれど、初対面の人にいちいち話すのが面倒だ』と言ってて、一般的にはホテル経営者で通してるみたいだよ。必要があったらその都度話すとか、名刺に全部書いて渡すとか。っていうか、社交界では自己紹介する間でもなく、皆彼を知ってるけどね」

「おおお……」

「凄い所に来ちゃったね」

 二人は自分の部屋にあったミニバーから、水を出して飲んでいる。
 私もご厚意に甘えて水を飲む事にした。

 立ち上がると、「ねぇ」と慎也が話しかけてくる。

「ん?」

「エディとクリスに、変な目を向けられなかった?」

「なんで?」

「いや……その。生脚綺麗だから」

 言われて自分の格好を見ると、Tシャツにデニムのショートパンツ、靴はスニーカーだ。
 まぁ、確かに脚は出してるけど、暑いし……と思っての普通の格好だ。

「えっ? 変!?」

「変じゃない! きっと俺の感性が変なんだ。ごめん」

 慎也はすぐに謝る。

「いやー、仕方ないよ。日本人の女の子って、若い子は脚を出すけどそれもごく一部じゃん。ロンスカとかパンツスタイルみたいに、隠す傾向が多いのは確かで、僕らもそれが〝普通〟だって思っちゃってる」

 それでようやく、私は慎也が心配した理由を察した。
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