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イギリス 編

綺麗な名前やないかい

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 三人とも、ネット発のホラー話とかでよく盛り上がる。

 私はゾンビは駄目だけど、グロくないホラーなら割といけるクチである。
 正樹はふざけ癖があるから、和室の隅っこで下着一丁になって膝を抱えて座ってる事もあるし、全力でボケてくる。

 三十路になった御曹司が……。
 それに突っ込む私も、たまに髪の毛をバサッと全部前に下げて呻き声を上げるから、どっこいどっこいだ。

「ずるいなー。機上の優美ちゃんカウンセリング、ずるいなー」

 正樹はグチグチ言いながら、指でパーティションをグリグリ弄る。

「分かったよ。はい交代」

 笑った慎也は立ち上がり、私の頭をポンポンと撫でてから正樹とハイタッチした。

「おじゃましまーす」

 正樹は嬉しそうに私の向かいに座り、ニコニコ笑う。

「迷える子羊よ。御用はなんでしょう?」

 神父風に言うと、彼が「あはっ」と喜んだ。

「いいね。懺悔室プレイ。……っていうか、シスターコス……萌えるな……」

 不意に真顔になってそんな事を言うので、靴下を履いた足で彼を軽く蹴った。

「で? 正樹は何?」

「いやー……。慎也みたいな正式な理由はないんだけど……」

 改めて尋ねると、彼はスンッと大人しくなる。
 でも私を見つめて、ニコニコしているのは変わらない。

「好きな子って、いつまでも見てられるね」

「ちょ……っ」

 正面切って言われると、さすがに恥ずかしい。

「利佳にも誰にも、こんな感情を抱いた事がなかった」

「うーん……。あんがと」

 照れ笑いをすると、前屈みになった正樹が手を伸ばし、私の頭を撫でる。

「かーわいい」

 正樹が愛しげに、とろりと目を細める。
 頭を撫で、頬に手を滑らせ、顎の下をこちょこちょとしてくる。

「あー……。やっば。犯したい」

 彼が小さく呟いた言葉を、私は聞かなかった事にした。
 却下である。

「僕さぁ、今回のロンドン行き、仕事でもあるんだけど、恩人に挨拶しに行くんだよね」

「ほう」

「向こうでホテル一号を出すに当たって、同業でライバルなのに凄い世話をしてくれたんだ」

「それは懐が広いね」

「うん。で、第二の父さんとか、歳の離れた兄貴みたいな感じもあって、すっごい偉い人なのに、めちゃくちゃ気さくなんだ」

「あら素敵」

「それでさー。二十八歳の時に離婚したって報告したら、結婚の面倒をみてやるって言った人でもあって」

「あー」

 何となく、流れは分かるけど、ちょっと面白くない。

「いや、断ったけどね?」

「うん」

 何事もなかったように頷くけれど、私の脳内では正樹と金髪美女が腕を組んでイチャイチャしている。

 あー、お似合いだわ。

 正樹は背が高いし、向こうの女性が隣にいても迫力負けしなさそう。

 鉄壁の営業スマイルを浮かべ、私は脚を組んで窓際にある棚に肘を置く。

「その人に、『いい人が見つかったから結婚しない』報告をしたら、『なるほど、分からん。来い』って言われて」

「そりゃあ、分からないわ」

 私は思わず笑う。

「だから、ホテル視察と一緒にその人に会いに行く訳。その時は、優美ちゃんも一緒だよ」

「うん、光栄。どんな方?」

「じっさまだけど、カッコイイ人だよ」

「そうなんだ」

 ふーん、と頷いたあと、私は組んだ脚をユラユラ揺らす。
 そんな私の顔を、正樹が見つめてくる。

「……なに」

「……いや、妬いてるなーって思って」

「くっそ」

 ポーカーフェイスで騙しきれなかったのを、私は思わず毒づく。

「……妬いてないよ。会ってもいなかったんでしょ?」

「シャーロット」

「……………………綺麗な名前やないかい」

 正樹がますますニヤニヤするもんだから、私は腹が立って堪らない。

「嘘だよ! ごめん。可愛いから反応が見たかったんだ」

「……もー……」

 私は溜め息をつき、腕も組む。
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