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イギリス 編

搭乗

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 ちなみに、ビジネスクラスは大体窓二つぐらいの広さ。
 けれどファーストクラスは一席に対して窓が三つの広さなので、さすがだな……と思う。

 席に座って正面には液晶画面があり、その下に足置きのオットマンがあるので、その下にバッグを置いた。

 横には操作ボタンがあって、リクライニングシートがどう倒れるかの説明が、イラストで描かれているので分かりやすい。
 座っている状態、リクライニング、フルフラットの三段階ある。
 他にも角度を微調整するための矢印ボタンがあった。

 サイドテーブルには小物入れがあり、電話、ゲームのコントローラーがある。
 スリッパはパイル地の物が用意され、ヘッドフォンは有名メーカーの物だ。

 液晶の手前はちょっとしたテーブルのようになっていて、そこに食事のメニューが挟まっている焦げ茶色のバインダーがあった。
 中にはメニューの他、色んな機器の説明書などが入っている。

 おまけにアメニティが凄くて、国内で最も有名な化粧品メーカーの最高峰ブランドの化粧水や乳液、果てはフェイスパックまである。
 私のは女性用で、男性用はまた違うようだ。
 他にも海外のラグジュアリーブランドのポーチに入った、リップクリームやハンドクリーム、ミニサイズのコロン、歯ブラシまである。

 ひぃ……。至れり尽くせり……。

 と、その時、客室乗務員さんがやって来て挨拶をしてくれる。

「本日はご搭乗ありがとうございます」

 彼女が名乗って一通りの挨拶が終わったあと、ウェルカムドリンクのオーダーを頼まれた。

 さっきラウンジでジュースを飲んだばかりだけど、またジュースを頼む。
 普段はお茶とか水ばっかりなので、こういう時はちょっと楽しみたい。
 慎也と正樹はシャンパンを頼んでいた。

 ウェルカムドリンクも、きちんとしたグラスで出るから凄いな……と思う。
 やがてグラスがしまわれたあと、離陸時間が迫って飛行機が動きだす。

 なるほど。ファーストクラスの人が優先的に搭乗して、飲み物を飲んでいる間、他のクラスの人たちが乗り込む……と。

 私はエコノミーによくお世話になっているので、どこに乗っても何の文句はない。
 けどやっぱりどこの世界にも、お金を払ったら相応のサービスがあるんだなぁ、とよく分かった。

 飛行機が滑走路に着いてエンジン音が大きくなると、ドキドキが増してくる。
 窓の外は暗く、飛行機がぶつからないための誘導灯が並んでいるのが幻想的だ。

 そして飛行機が滑走路を進み、グイーンと後ろにGが掛かる。

 あー、この感じ好きだなぁ。旅行に出るっていう感じ。

 胸を高鳴らせて窓の外を見ていると、旋回した下に東京のネオンが見える。
 ぽっかりと黒くなっているのは東京湾で……。

「いってきます」

 小さく呟き、私はしばらく遠くなる街並みを見下ろしていた。





 やがて高度が安定して周囲を見ると、慎也も正樹も眠ろうとしていた。

 私はせっかくだから最新の映画を見たいなと思ったけれど、日本時間ではもう深夜零時前で、眠いっちゃ眠い。しかも働いたあとだ。
 運転手さんとかも寝る体勢に入っていて、私はせっかくなので温かいスープを飲んでから寝る事にした。

 寝る準備をしている人たちには、パジャマへの着替えを勧められている。
 文香パイセンの話だと、洗面所では着替えのための台が出てくるので、床に足を着けなくていいそうだ。

 私ももう少ししたら、着替えよう。

 これからは就寝時間なので、あえて私側からパーティションを上げて、夜タイムの意思表示をした。
 こうしておけば何かあっても諦めるだろうし、大人しく寝てくれるだろう。

 構ってくれるのは嬉しいけど、二人は私以上に責任のある仕事をしていて、疲れている。

 我慢できる、できないのキャパシティは、人それぞれだ。
 同じつらさでも、Aさんが耐えられる半分で、Bさんはキャパシティ一杯になってしまう事だってある。

 それを「弱い」とか「情けない」と言ってはいけない。

 二人は私よりずっとタフそうに見えるけど、それを過信して際限なく甘えてしまうのは良くない。

 相手を大切にするからこそ、休む時にはちゃんと休んでほしい。
 そんなスタンスで、人付き合いをしていきたい。

 勿論、とてもつらくなって、どうしても話を聞いてほしいという時もある。

 幸い頼る先は二人以外に、文香や学生時代の友達、会社で好意的に接してくれた人など、そこそこいる。
 その辺りを上手に利用して、自分が他者にかける負担を分散させていけたらいいなと思う。

 そういう意味で、友達や頼れる人は多いほうがいいのでは……とも思う。

 友達を増やすのに、無理に明るく振る舞って、ウェーイとかしなくていい。

 もう私も、そういうのしんどくなった……。
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