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これからの事 編

とても幸いな事

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 恐らくだけど、彼女たちは自分より〝下〟の人にあまり興味を持っていないのだろう。

 興味を持つのとすれば、自分が「~してあげる」側に立って満足感を得るため。

 それに対し、私は佐藤さんたちの助けを必要としていない。

 目立っていたとしても、佐藤さんたちにおもねっていれば、〝仲間〟とされていたかもしれない。

 でも、中心人物である佐藤さんでさえ、本人のいない場所で悪口を言われていた。
 私がどうなるかは自明だ。

 それなら最初から近づかないほうがいい。

 入社して割と初期の段階から、そういう判断をした。

 だから彼女たちも私を〝敵〟と見なしたんだろう。

 そしてトイレの個室にいる時、悪口を聞かされる羽目になる。
 そんなネチャネチャした陰湿ないじめは、入社してから今までずーっと続いている。

 浜崎くんが広めた〝淫乱疑惑〟が本人によって撤回されたあとも、「あんな風に皆の前で謝罪させられて、辞めさせられて可哀想だよね」と言っている。

 彼女たちの中では、四年前の事を私がずっと根に持っていて(多少は根に持っていたけど)、今になって浜崎くんを追い詰め、辞めさせた……となっているらしい。

 加えて慎也が辞めたのも、私が無理に迫って彼にセクハラをし、彼が逃げていった……という事になっているようだ。

 慎也にセクハラって、奴が喜ぶだけじゃないか。

 というのは置いておいて。

 彼女たちの話を聞いていると、私の発言、行動のすべて、それ以上のモノから〝妄想〟を膨らませているのがよく分かる。

 私は彼女たちをガン無視してるのに、「バカにされている」と勝手に被害妄想を感じているので、打つ手がない。

 彼女たちを見ていて感じるのは、怒りより呆れだ。

「生きづらそうだなぁ……」と、ただそれだけ。

 自分への同情アピールをして、嫌いな相手の悪口を言って足を引っ張る事しかしない。
 随分後ろ向きで可哀想な生き方だな、と思う。

 彼女たちにも長所や、正々堂々戦う武器があるはずなのに、それをきちんと使いこなせていない。

 我慢強く努力して自分を磨き続け、コツコツ道を切り開いていく。
 私はそうしてきたのに、彼女たちはそれができない。

 うまくいかない事があるのは分かるし、他人を見ていると自分より幸せそうで妬ましくなる気持ちも分かる。

 けど、自分から見えている部分しか見ようとせず、相手が見せていない大変な面を無視するのは、単なる想像力の欠如だ。

 同時に感じるのは、彼女たちはネガティブな感情の、いい発散方法を知らないんだろうな、と思う。

 より良い人間になるために、嫉妬は必要だ。
 向上心に繋がっているとも言える。

 誰にも何も嫉妬しないっていうマイペースな人はたまにいて、それはそれで平和でいいと思う。

 ただほとんどの人は、自分と他人を比べて苦しむ事が多いんじゃないかな、と感じている。

 その嫉妬心という強いエネルギーを、ネガティブな方向にしか使えないのは勿体ない。

 かつて私も痩せている人を羨んで、苦しんでいた。
 隣の芝生が青くて青くて、羨ましくて堪らなかった。

 でも私は変わるきっかけを慎也と正樹に与えてもらえて、そこから一歩踏み出せた。
 今でもほんの少し、隣の芝生の青さは気になるけど、自分の芝生、庭を立派に綺麗にする事になるべく集中している。

 そうなれたのは、とても幸いな事だと思っている。

 ただ全員がそうではなくて、環境的に変われない人もいるかもしれない。

 私も仏ではないから、全員の悩みを真剣に聞いて一緒に解決する……なんて不可能だ。
 そうしてあげたい気持ちはやまやまだけど、私は慈善活動家ではないし、精神科医でも教祖様でもない。
 たまに愚痴を聞いてあげる程度ならできるけど、結局は自分が自分を救うしかない。

 周りがどれだけ助け船を用意しても、船を見つけられない人もいるし、手を伸ばしたくても方法が分からない人も、手が動かない人もいる。
 プライドの高い人は、助けを「侮辱された」と感じるかもしれない。

 だから私はなるべく、自分の両手の中にいる人しか大切にしない。
 冷たいかもしれないけど、自分の両手が届く範囲外までお節介をしないと決めている。

 もし佐藤さんたちに、営業成績を伸ばすためのアドバイスをしてほしいと言われたら、彼女たちから守備範囲に入ってきたので、助言をするだろう。
 勿論、彼女たちなりの仕事の流儀もあるので、それを尊重した上でだけど。

 でも求められていない場合は、ただのお節介だ。
 自分が気持ち良くなりたいだけの行為と成り果てる。

 だから基本的に、私は「生きづらそうだな」と思う人を見ても、自分から声を掛けて「こうしたらいいよ」なんて言わないのだ。

 毎日の営業でも、色んな人と接していて「あぁ、この人はここがウィークポイントなんだな」とうっすら分かってしまう。

 仕事だから、取引先相手のツボにスルッと入り込んで、契約を勝ち取る事は多々ある。

 事前に入手した情報と、あとは文香から教えてもらったセンスのいいお店や手土産、または和人くんから聞いた、経営者やエリートの考え方、ウケる話題。
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