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バレンタイン 編

バレンタインデート

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「お待たせ! 二人もばっちり決まっててカッコイイよ」

 私は照れながらサムズアップする。

 いつもはビジネススーツ姿が多いけれど、今日はお洒落してのディナーなので、今日は二人とも示し合わせたのか黒シャツスーツだ。

 慎也は黒シャツに黒スーツ、グレーのネクタイ。
 正樹はグレーのシャツに黒シャツ、光沢のあるブルーのネクタイだ。

 ……うん。周りの女性が皆見てますね。
 格好いいですね。分かります。

 無駄に顔のいい男たちなので、こういう時、一緒に歩いていると嬉しくなってしまう。

「あの人美人だね。やっぱりイケメンの側には美女がいるんだね」

 そんな声が聞こえてきた。

 二人のイケメン度は規格外なので、自分が釣り合っているかは不安しかない。
 けど、努力した自覚はあるので、そう言ってもらえると嬉しいな。

 素直に言葉を受け取っておこう。

 そのまま私たちは、エレベーターに向かってレストランへ行った。
 高層階にあるフレンチレストランは、カップルで一杯だ。

「本当は個室がいいかなって思ったけど、ピアノの生演奏があるからホールにしたんだ」

「うん、どこでも嬉しいよ。生演奏って素敵だね」

 バーではピアノやジャズの生演奏はあるかもだけど、フレンチレストランでは珍しい。

 コートを預けたあと、夜景を一望できる窓際の席に座った。

 バレンタインを意識したからか、卓上花は真っ赤な薔薇があって思わず笑顔になる。
 一分の隙もなく整えられたテーブルセットを見ると、きちんとした場にきたと思って身が引き締まる。

 最初から置いてある絵付けのされた綺麗なお皿は、ショープレートと言って見せるためのお皿なんだそうだ。
 文香と一緒にこういうお店に来るようになってから、彼女が教えてくれた。
 他にも呼び方は色々あるらしいけれど。

 丸められたナプキンは銀色のリングで留められ、その上に乗っているメニューを取って「なになに……」と見てみる。
 今日のメニューはバレンタインを意識した、チョコレートを使った料理と、季節柄、黒トリュフを使った料理が中心になっているみたいだ。

 レストラン内は黒い壁にワインレッドのカーテンなどシックな色調で、クリスタルのついたシャンデリアが金色の光を放っている。

 落ち着いた大人の空間でのバレンタインデートに、思わず顔がにやつく。

「素敵なレストランに連れて来てくれて、ありがとう」

「どういたしまして」

「やっぱりたまにとっておきの場所で、プロが作った美味い飯を食いたいよな」

 二人はこういうレストランに来ても浮いていなくて、場慣れしているんだなと思った。

 私はソワソワしないように気をつけているけれど、初めてのお店だと色々見てしまいたくなる。

 高級店だからこそ、思いも寄らないところに気遣いがある。

 以前行ったお店は、お手洗いに綺麗に丸められたおしぼりが籠に入っていて、それで手を拭くようになっていた。
 外でお手洗いに入ったら、ハンドペーパーやハンドドライヤーが当たり前だけれど、一人ずつおしぼりが用意されてある事に特別感を得た。

 本当に何でもない事だけれど、些細なところまで気を配ってるから、サービス料をとるのが理解できる。

 ギャルソンさんだって、舌を噛みそうな料理名をつっかえずに言い、料理について疑問に思った事にもスラスラと答えてくれる。
 ソムリエさんだって同じだ。

 専門の知識を持つ人を雇い、教育する費用もサービス料のうちだと思っている。
 綺麗に整えられた店内で、夜景を眺めながら美味しい料理とお酒を飲める。
 だから私たちも、着飾って入店する必要がある訳で。

 ドリンクメニューを渡され、私はそれを開く。

 最初はジュース一杯にしても千円近くして「うっ……」と思っていたけれど、相応にお金がかかるものだと理解してからは、受け入れた。

「優美ちゃんはどうする?」

「お酒は二人のほうが詳しいから、同じのを飲む」

「ん、分かった」

 そのあと、二人はソムリエさんと相談しつつ、料理のコースに合わせて出してもらうワインを決めていった。

 まず最初はシャンパンを頼んだので、それが出てくるのを待つ。
 最初の飲み物が運ばれる前に、ナプキンを膝に置いた。

 高級店に来ている緊張もあるんだけど、あのきわどい下着を思いだして、なんだか変な汗を掻く。

「……なんか、優美、緊張してる?」

「えっ?」

 慎也に言われ、私はうわずった声を上げる。

「夜の事考えてる?」

 正樹にいい笑顔を向けられ、さらに居心地が悪くなった。
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