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箱根クリスマス旅行 編

まるっと幸せになっちゃいますか!

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「……良かった」

「いやぁ、こういう時の優美ちゃんっていいよね。なんか、一本芯の通った武家の娘みたい」

「これ以上特殊な属性を増やさないで」

 正樹の言葉に、私は思わず笑ってつっこみを入れる。

「ねぇ、優美ちゃん。……僕の子供を産むのは嫌?」

 微妙な表情で笑った正樹に尋ねられ、私は目を瞬かせる。
 彼は遠慮がちに微笑んでいて、私の回答次第では自分の希望をすべて引っ込める雰囲気を発していた。

 ――それは違う。

 何も言われていないけれど、私は先に心の中で否定した。

 私は二人との生活を選んだ。

 なら、私が二人を幸せにしないと。

「いいよ!」

 スパッと、迷いを見せず答えたからか、逆に正樹と慎也がポカンとした顔になった。

「結婚するのは慎也とだけど、私が幸せにするのは二人だから。勿論、それぞれの家族も、生まれてくる子供も!」

 私ならできる。

 体重九十キロから、ナイスバディと言われるまでダイエットした根性はあるつもりだ。
 普通の人なら、病んで立ち直れなかったかもしれない嫌がらせも乗り越えた。

 今までは文香や地元の友達が応援してくれていて、これからは慎也と正樹もいる。
 味方が多くなるなら、どんな事があっても負けない自信がある。

 悩んでどうにもならなくなったら、筋トレして追い込んで、スッキリすればいい。
 大体の悩みなんて、筋トレしたら飛んでいくもの。

 ニカッと笑うと、二人ともクシャリと相好を崩し、肩を揺すって笑い始めた。

「っあー、最高! やっぱ優美ちゃんだわ」

「だろ。俺の奥さんになる人だもん」

「ねぇ、私は全然いいんだけど、具体的にはどうしたいの? プランがあるなら教えて?」

 尋ねると、二人は顔を見合わせてから微笑む。

「表向き、俺の子扱いになる」

 慎也の言葉を聞き、私は正樹に尋ねる。

「正樹はそれでいいの?」

「構わないよ。僕がその子の親で、僕も優美ちゃんも、慎也も親としてその子を愛せるのなら、何だって構わない」

 ――あぁ。

 私は不意に理解した。

 今さらだけど、この二人は〝親がどんな事情を抱えていても、きちんと子を愛する事のできる家庭を作りたい〟のだと気付いた。

 ある意味、人生のやり直しをしたいのかもしれない。

 子供からすれば、父親と母親が一人ずつのほうが〝普通〟に幸せなんだろう。

 けれど家族は、子供の幸せだけじゃなく親も幸せになるためにある。
 子供が生まれたら子供が中心の生活になると言っても、親が人間としての幸せ、愛、自由、夢を失い諦める事はないんだ。

 慎也は正樹が幸せになる事を願っている。
 正樹は私たちと一緒にいて、愛される事を望んでいる。

「……そっか」

 私は一つ頷き、心の底からの笑みを浮かべる。

「まるっと幸せになっちゃいますか! 外野の言う事なんてどうでもいい! 私たちは私たちの家庭を大切にする。それだけ!」

「よし! じゃあ、指輪を受け取って」

 正樹がリングケースから大粒のダイヤモンドの嵌まった指輪を取りだし、私に向けて掌を差し出す。
 慎也を見ると、彼はこっくりと頷いた。

「俺は優美に結婚指輪を贈るから、今は正樹から婚約指輪を受け取って?」

「ん」

 ドキドキして正樹の手に手を重ねると、左手の薬指に指輪を嵌められる。

「……凄いな。こんなにでっかいの……」

「優美ちゃんの一生をもらう事を考えれば、全然金額が足りないよ」

「あははっ、それならもっともっと、これから生まれてくる子供に投資して」

 私の言葉に、正樹は幸せそうに頷き笑った。

「優美ちゃん、ハグ」

 正樹が私をぎゅーっと抱き締めてくる。

「ん……。宜しくね」

 ポンポンと正樹の背中を叩き、私は慎也を手招きした。

「慎也もおいで」

 遠慮した表情で座っていた彼は、パァッと表情を輝かせて私と正樹を抱き締めてきた。

「ワンワンッ!」

 また犬の真似を始めた彼に、私は思わず笑う。
 私はドサッと後ろ向きに倒れ、上になった二人が左右の頬にキスをしてくる。

「っはー、……がんばろ」

 手を天井にかざすと、大きなダイヤモンドがキラキラと光っている。

 夢に見た婚約指輪。

 けれどその婚約は、想像していたものとはまったく違っていて……。
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