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浜崎&五十嵐トラブル 編
信じてもらえなくて悲しかった
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世間的には、私と慎也が付き合う事になる。
けれど浜崎くんだけが相手なら、正樹と付き合っている体でも構わないだろう。
浜崎くんの性格を考えると、私と二人が付き合っているなんて知ったら、また「折原は淫乱だ」と言いかねない。
二人もその辺を心配してくれているんだろう。
「こっちです」
慎也が先導して個室に案内してくれる。
彼が引き戸を開いた瞬間、私は「ウッ!」とうめいた。
八人は座れるテーブル席に、片側に正樹、反対側には五十嵐さんとあの時の女性二人が座っている。
女性たちは揃いも揃ってふくれっ面、泣きそうな顔、不安な顔をしていた。
こんなにも「個室に入りたくない!」と思ったのは初めてだ。
「優美、入っておいで」
正樹がいつもよりよそ行きの雰囲気で、手招きする。
私は正樹の隣――中央の席に座り、反対側に慎也が座る。
向かいは壁側から浜崎くん、五十嵐さん、女性、女性という並びだ。
「さて、分かっていると思うけど、ここに集まってもらったのは、飯を美味しく食べる目的ではない」
正樹が切り出す。
チラッと彼を見ると、いつもの軽い様子からは信じられないほどの威厳を発している。
彼の別の顔を見た気がして、少しだけドキッとしてしまった。
こんな状況でなかったら、「仕事中の正樹を見たらもっと惚れるかも」なんて浮ついた事を考えていたかもしれない。
正樹は続ける。
「この五十嵐美奈代さんは、うちの社員だ。先日、彼女は君にとても無礼な真似をした。私的な事情については社内で説明を聞いたが、改めて彼女と友人にも、謝罪してもらうために来てもらった」
ビシッとした正樹を見ていると、「そんなのいいのに」と言いたくなる気持ちも引っ込む。
二人が言っていた通り、けじめはけじめだ。
どれだけ気まずくても、今を耐えれば、今日という最悪の日を抜け出せるだろう。
店員さんがお冷やとお通しを置きに来たけれど、慎也が「呼ぶまで入らないでいてくれますか?」とお願いすると、空気を察して出ていった。
「お膳立てしなくても、自分で言えるな?」
素っ気ない正樹の言葉を聞き、浜崎くんがスッと息を吸い、額がテーブルにつきそうなぐらい頭を下げた。
「優美、すまなかった!」
私は何とも言えない気持ちで、浜崎くんのつむじを見る。
「四年前は俺の身勝手な都合で、事実にない噂を社内に立てて嫌な思いをさせた。そのあとも、ムシャクシャして掲示板に優美の事を書いた」
「えぇっ!?」
それは初耳だったので、私は思わず声を上げた。
「掲示板って……」
私はまったく興味がないからどんな場所か知らないけど、時々ニュースで出てくる印象では、匿名で人の悪口を書くイメージだ。
「ネットの不特定多数の奴らにも聞いてほしくて、優美の悪口を書いた。……どうしても、あの時できなかった情けなさを…………認めたくなかった、……俺の弱さにある」
私は大きな溜め息をつく。
「男の人って性的な事に関して、女性が思っている以上にプライドが高いとか、想像するしかできない。私は女性で、あの時に浜崎くんがどんな思いをしたのか分かってあげられなかった。それはごめん。浜崎くんがプライドの高い人っていうのも知ってるし、相当傷付いたんだなっていうのは分かる」
私が同意を示したからか、彼は気まずそうに唇を歪めた。
「でもね、あの時『具合悪くないかな?』って心配はしたけど、できなかったからってバカにする気持ちなんて、これっぽっちもなかったよ。そんなの、最低な人の考えでしょう。自分が善人とは言わないけど、まったく考えなかった」
私もずっと溜めていた思いはあるので、彼に対して言いたい事は言う。
そのあともう一度息をつき、気持ちを落ち着かせる。
「仮にも付き合っていたのに、信じてもらえなかったのが一番キツかった。〝そういう人〟って思われたくなかった。今でこそ、私は浜崎くんの事を何とも思ってない。でもあの時は〝彼女〟だったんだよ? 加害者になると思われるのはキツかった」
表面上のトゲトゲした文句の奥には、傷ついた心がある。
四年経ったからこそ、激しい怒りも収まり、自分の心と対話できている。
そう。あの時私は、信じてもらえなくて悲しかったのだ。
「…………すまない」
浜崎くんは、心から反省した様子で頭を下げる。
けれど浜崎くんだけが相手なら、正樹と付き合っている体でも構わないだろう。
浜崎くんの性格を考えると、私と二人が付き合っているなんて知ったら、また「折原は淫乱だ」と言いかねない。
二人もその辺を心配してくれているんだろう。
「こっちです」
慎也が先導して個室に案内してくれる。
彼が引き戸を開いた瞬間、私は「ウッ!」とうめいた。
八人は座れるテーブル席に、片側に正樹、反対側には五十嵐さんとあの時の女性二人が座っている。
女性たちは揃いも揃ってふくれっ面、泣きそうな顔、不安な顔をしていた。
こんなにも「個室に入りたくない!」と思ったのは初めてだ。
「優美、入っておいで」
正樹がいつもよりよそ行きの雰囲気で、手招きする。
私は正樹の隣――中央の席に座り、反対側に慎也が座る。
向かいは壁側から浜崎くん、五十嵐さん、女性、女性という並びだ。
「さて、分かっていると思うけど、ここに集まってもらったのは、飯を美味しく食べる目的ではない」
正樹が切り出す。
チラッと彼を見ると、いつもの軽い様子からは信じられないほどの威厳を発している。
彼の別の顔を見た気がして、少しだけドキッとしてしまった。
こんな状況でなかったら、「仕事中の正樹を見たらもっと惚れるかも」なんて浮ついた事を考えていたかもしれない。
正樹は続ける。
「この五十嵐美奈代さんは、うちの社員だ。先日、彼女は君にとても無礼な真似をした。私的な事情については社内で説明を聞いたが、改めて彼女と友人にも、謝罪してもらうために来てもらった」
ビシッとした正樹を見ていると、「そんなのいいのに」と言いたくなる気持ちも引っ込む。
二人が言っていた通り、けじめはけじめだ。
どれだけ気まずくても、今を耐えれば、今日という最悪の日を抜け出せるだろう。
店員さんがお冷やとお通しを置きに来たけれど、慎也が「呼ぶまで入らないでいてくれますか?」とお願いすると、空気を察して出ていった。
「お膳立てしなくても、自分で言えるな?」
素っ気ない正樹の言葉を聞き、浜崎くんがスッと息を吸い、額がテーブルにつきそうなぐらい頭を下げた。
「優美、すまなかった!」
私は何とも言えない気持ちで、浜崎くんのつむじを見る。
「四年前は俺の身勝手な都合で、事実にない噂を社内に立てて嫌な思いをさせた。そのあとも、ムシャクシャして掲示板に優美の事を書いた」
「えぇっ!?」
それは初耳だったので、私は思わず声を上げた。
「掲示板って……」
私はまったく興味がないからどんな場所か知らないけど、時々ニュースで出てくる印象では、匿名で人の悪口を書くイメージだ。
「ネットの不特定多数の奴らにも聞いてほしくて、優美の悪口を書いた。……どうしても、あの時できなかった情けなさを…………認めたくなかった、……俺の弱さにある」
私は大きな溜め息をつく。
「男の人って性的な事に関して、女性が思っている以上にプライドが高いとか、想像するしかできない。私は女性で、あの時に浜崎くんがどんな思いをしたのか分かってあげられなかった。それはごめん。浜崎くんがプライドの高い人っていうのも知ってるし、相当傷付いたんだなっていうのは分かる」
私が同意を示したからか、彼は気まずそうに唇を歪めた。
「でもね、あの時『具合悪くないかな?』って心配はしたけど、できなかったからってバカにする気持ちなんて、これっぽっちもなかったよ。そんなの、最低な人の考えでしょう。自分が善人とは言わないけど、まったく考えなかった」
私もずっと溜めていた思いはあるので、彼に対して言いたい事は言う。
そのあともう一度息をつき、気持ちを落ち着かせる。
「仮にも付き合っていたのに、信じてもらえなかったのが一番キツかった。〝そういう人〟って思われたくなかった。今でこそ、私は浜崎くんの事を何とも思ってない。でもあの時は〝彼女〟だったんだよ? 加害者になると思われるのはキツかった」
表面上のトゲトゲした文句の奥には、傷ついた心がある。
四年経ったからこそ、激しい怒りも収まり、自分の心と対話できている。
そう。あの時私は、信じてもらえなくて悲しかったのだ。
「…………すまない」
浜崎くんは、心から反省した様子で頭を下げる。
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