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浜崎&五十嵐トラブル 編

ありがとね!

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「どうせなら重いペナルティ出してやれよ。俺はまだムカついてるんだから」

「……もぉ……。最近は特に気にしてないんだけど……」

 確かに当時はとても嫌だったしムカついた。
 けど、四年経った今も、怒りのエネルギーを抱いているかと言われたら勿論ノーだ。

 恨む気持ちはあれど、そこまで浜崎くんに強いエネルギーを割き続けるほど私は暇じゃない。
 彼を恨み続けるよりもっと楽しい事がこの世の中には沢山あるし、そちらに目を向けないと勿体ない。

 四年間も彼だけを憎み続けて、他のものを犠牲にする価値があるかと言われれば、まったくない。
 一時は付き合っていた相手だけど、今の私にとって浜崎くんは無価値に等しい。

「優美には悪いんだけど、俺は婚約者を侮辱されたっていう事で、弁護士には相談してるからね?」

「えぇっ!? そんな大げさな!」

 慎也の言葉に私はギョッとして声を上げたけれど、二人はひどく真剣な顔をしている。

「……そこまでしなくたっていいじゃん」

「世の中には、けじめをつけないといけない事があるんだよ。見る人が見たら、法を冒す事をしておいて、何くわぬ顔をして平然と生きて、被害者だけが泣き寝入りするなんて駄目だ」

 ソファの手すりに軽く腰掛け、正樹が言う。

「俺は気が向かないけど、哀れだと思うならあいつの謝罪を受け入れて、示談に向けるのもありだと思う。ほんっとうに気が向かないけど」

「そこまで力んで言わなくても……」

 二階の柵にもたれ掛かった慎也は、本当に不機嫌そうだ。

「ありがとね!」

 二人に向けてお礼を言うと、「ん?」と不思議そうな顔をする。

「私の代わりに怒ってくれてありがとう。文香や友達には、愚痴を聞いてもらってスッキリした。女同士の共感力MAXで、ボロクソに言ってもらえてスカッとしたんだ。けど二人も自分の事のように怒ってくれた。それがまた、女友達とは違う意味で嬉しい。……だから、ありがとう」

「そーやってさぁ、すぐお礼言う素直なところが好きなんだよ!」

「わっ!」

 正樹が抱き締めてきて、不意を突かれた私はソファの上に転がってしまう。

「正樹! 抜け駆け!」

 慎也が慌てて服を着て、二階から階段を下りてくる。

「んー……」

 私を押し倒した正樹が、チュッチュッと顔中にキスをしてきた。

「ふふっ、くすぐったい。ステイ!」

 冗談で「待て」を言うと、正樹は破顔して「ワン!」と吠えて私の胸元に頭をすりよせる。
 すると二階から下りてきた慎也が、「ワンワン!」と悪ノリして、私にキスをしてきた。

「よしよしよしよし」

 おかしくなった私はケラケラ笑いながら、大型犬でも撫でるように二人をもみくちゃにした。



**



 クリスマス旅行前の退勤後、気が重たいけれど、私は浜崎くんと話すための時間をとった。

 彼は「場所をとってあるから」と言って、完全個室の居酒屋までつれて行った。

 うええ……。
 浜崎くんと話すだけでも嫌なのに、なんで個室に入らないといけないの。
 これ、フラグでしょ。

 店の入り口で私がげんなりして立ち止まっているからか、彼はハッとして愛想笑いを浮かべた。

「いや、違うんだって。お前の彼氏……正樹、……さんと、岬……じゃなくて、久賀城さんもこの店で待ってるから」

「へっ?」

 なんだ、あの二人がいるのか。
 それを知ると安心して、少し肩の力が抜ける。

 けれど念には念を入れて、三人のトークルームにメッセージを入れた。

『私いま八重洲口近くの個室居酒屋に、浜崎くんといるんだけど、二人もいるって本当?』

 すると『いるよー!』『今行く!』と同時に返事があった。
 すぐに店の奥から、私服姿の慎也が姿を現した。

「折原さん、言ってなくてすみません。不安にさせましたね」

「ううん、大丈夫。ありがとうね、岬くん」

 彼が〝私と正樹が付き合っている前提〟で話しかけたのに気づき、私は彼の設定に合わせて呼び方を変える。
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