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浜崎&五十嵐トラブル 編
とぐろを巻く化け物
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五十嵐は、自分の中にあるヘドロのような汚さを認めていない。
自分は生まれながらの綺麗な人間、何も悪くない、絶対なる被害者、自分のする事はすべて正しいと思い込んでいるから、あんな歪んだ化け物ができあがったのだろう。
「……人の事、言えないなぁ」
僕は目を閉じて、自分の中でとぐろを巻く化け物の気配に耳を済ます。
〝それ〟を自覚したのは、いつからなのか分からない。
いつしか僕は、女性と一対一で付き合っても「つまらないな」と感じてしまう自分に気づいてしまった。
付き合っているのに、目の前の彼女を信じられない。
気が付けばそんな感覚が、いつも僕を苦しめていた。
今の家族は父と血の繋がらない母親と、その子供たちによって構成されている。
彼らの事は好きだし、母も弟妹も僕を慕って優しくしてくれる。
けれど勝手に疎外感を感じた僕は心に壁を作り、「愛されない」という思い込みを作り上げてしまった。
だから女性と付き合っても「どうせこの子も僕を愛してくれないだろう」と憎しみの混じった感情を抱き、すべてを諦めていた。
元カノは好きだったけど、他の男に汚されたらいいのに……と、昏い願望を抱くようになっていた。
僕の目の前で一番汚い姿を見せてくれるのが、僕への信頼の証だと思っていた。
転機があったのは、悪友に誘われて大学生時代に乱交パーティーに参加した時だ。
その時、不特定多数が雑多に求め合っている姿を見て「これだ!」と思った。
常に側に誰かがいて、僕を求めてくれている。
質より量なんだと思って、しばらくそれ系のイベントに嵌まっていた。
でも徐々に、あの子たちはセックスとスリルが目的で、僕を見ていないのが分かった。
結局僕は、心を満たしてくれて、僕を求めてくれる女の子が欲しかった。
当時の彼女は、スワッピングや複数プレイに応じてくれて、とてもいい付き合いができていた。
けれど僕が結婚しようと言ったら、「結婚してまでそんな事したくない」と拒否された。
その後社会人になり、仕事で多忙になって彼女とは疎遠になった。
近付いてくる女性は久賀城の副社長という地位目的だと分かっているし、政財界の客を招いてのパーティーで紹介される女性も、政略結婚目的だ。
見合いで結婚した元妻も、最初は僕の外的要素に目をハートにしていた。
でも僕が料理が不得意で、性的嗜好についても常軌を逸している〝最低な駄目男〟だと分かると、顔を醜く歪めて毎日罵ってきた。
『カレーも作れないの!? 私の友達の旦那さんは、手料理でもてなしてくれてるけど! 小学生以下ね!』
そんな事を言われても、興味が湧かなかったので学ぶ機会がなく、忙しかったんだからしょうがない。
実家でも家政婦さんが食事を作ってくれていたし、それが当たり前だと思っていた。
元妻には家政婦さんを雇う事を提案したけれど、〝何でもできるスパダリ夫〟じゃないと駄目なんだそうだ。
彼女の話を聞いていると、毎日「○○さんがね」と他人と比べるのに必死だ。
小さな世界の中で、他の人より〝上〟でなければ気が済まないんだろう。
元妻に怒鳴られ続けていると「僕が稼いだ金で友達と毎日豪華なランチ、ショッピングに明け暮れているのに、君は僕に何をしてくれてるの?」と怒鳴り返したくなる。
「騙された」と言われると、こっちだって騙された気持ちになる。
見合い当初は頬を染めて「あなたが運命の人です」っていう顔をしていたのに、その豹変ぶりはなんだよ、って言いたくなる。
一年経つか経たないかで、僕は結婚指輪を外した。
幸いだったのは、元妻もプライドの高い人だから綺麗に別れられた事だ。
これから僕は、一生一人なんだろうな。
自分が抱えている渇きの化け物は、ずっと疼いたまま収まってくれないだろうと諦めていた。
この世界のどこに、僕と〝他の誰か〟を平等に好きになって、僕の目の前で〝誰か〟に犯されて汚されるのをよしとする女性がいるのか。
そう思っていたけれど……。
『……じゃあ……、仕方ないですね』
呆れたような表情で笑った、あの時の優美ちゃんの顔が忘れられない。
彼女から、すべてを包み込む母性を感じた。
人を素直に愛せない僕を、彼女が受け入れ、許してくれたように思えた。
せっかく巡り会えたなら大切にしたいし、僕のために苦しんだ慎也の幸せを祈りたい。
これから先、僕たち三人がどうなるかは分からないけれど、今は目の前の幸せを感じて日々を大切にするしかできない。
未来なんて、誰にも分からないんだから。
**
自分は生まれながらの綺麗な人間、何も悪くない、絶対なる被害者、自分のする事はすべて正しいと思い込んでいるから、あんな歪んだ化け物ができあがったのだろう。
「……人の事、言えないなぁ」
僕は目を閉じて、自分の中でとぐろを巻く化け物の気配に耳を済ます。
〝それ〟を自覚したのは、いつからなのか分からない。
いつしか僕は、女性と一対一で付き合っても「つまらないな」と感じてしまう自分に気づいてしまった。
付き合っているのに、目の前の彼女を信じられない。
気が付けばそんな感覚が、いつも僕を苦しめていた。
今の家族は父と血の繋がらない母親と、その子供たちによって構成されている。
彼らの事は好きだし、母も弟妹も僕を慕って優しくしてくれる。
けれど勝手に疎外感を感じた僕は心に壁を作り、「愛されない」という思い込みを作り上げてしまった。
だから女性と付き合っても「どうせこの子も僕を愛してくれないだろう」と憎しみの混じった感情を抱き、すべてを諦めていた。
元カノは好きだったけど、他の男に汚されたらいいのに……と、昏い願望を抱くようになっていた。
僕の目の前で一番汚い姿を見せてくれるのが、僕への信頼の証だと思っていた。
転機があったのは、悪友に誘われて大学生時代に乱交パーティーに参加した時だ。
その時、不特定多数が雑多に求め合っている姿を見て「これだ!」と思った。
常に側に誰かがいて、僕を求めてくれている。
質より量なんだと思って、しばらくそれ系のイベントに嵌まっていた。
でも徐々に、あの子たちはセックスとスリルが目的で、僕を見ていないのが分かった。
結局僕は、心を満たしてくれて、僕を求めてくれる女の子が欲しかった。
当時の彼女は、スワッピングや複数プレイに応じてくれて、とてもいい付き合いができていた。
けれど僕が結婚しようと言ったら、「結婚してまでそんな事したくない」と拒否された。
その後社会人になり、仕事で多忙になって彼女とは疎遠になった。
近付いてくる女性は久賀城の副社長という地位目的だと分かっているし、政財界の客を招いてのパーティーで紹介される女性も、政略結婚目的だ。
見合いで結婚した元妻も、最初は僕の外的要素に目をハートにしていた。
でも僕が料理が不得意で、性的嗜好についても常軌を逸している〝最低な駄目男〟だと分かると、顔を醜く歪めて毎日罵ってきた。
『カレーも作れないの!? 私の友達の旦那さんは、手料理でもてなしてくれてるけど! 小学生以下ね!』
そんな事を言われても、興味が湧かなかったので学ぶ機会がなく、忙しかったんだからしょうがない。
実家でも家政婦さんが食事を作ってくれていたし、それが当たり前だと思っていた。
元妻には家政婦さんを雇う事を提案したけれど、〝何でもできるスパダリ夫〟じゃないと駄目なんだそうだ。
彼女の話を聞いていると、毎日「○○さんがね」と他人と比べるのに必死だ。
小さな世界の中で、他の人より〝上〟でなければ気が済まないんだろう。
元妻に怒鳴られ続けていると「僕が稼いだ金で友達と毎日豪華なランチ、ショッピングに明け暮れているのに、君は僕に何をしてくれてるの?」と怒鳴り返したくなる。
「騙された」と言われると、こっちだって騙された気持ちになる。
見合い当初は頬を染めて「あなたが運命の人です」っていう顔をしていたのに、その豹変ぶりはなんだよ、って言いたくなる。
一年経つか経たないかで、僕は結婚指輪を外した。
幸いだったのは、元妻もプライドの高い人だから綺麗に別れられた事だ。
これから僕は、一生一人なんだろうな。
自分が抱えている渇きの化け物は、ずっと疼いたまま収まってくれないだろうと諦めていた。
この世界のどこに、僕と〝他の誰か〟を平等に好きになって、僕の目の前で〝誰か〟に犯されて汚されるのをよしとする女性がいるのか。
そう思っていたけれど……。
『……じゃあ……、仕方ないですね』
呆れたような表情で笑った、あの時の優美ちゃんの顔が忘れられない。
彼女から、すべてを包み込む母性を感じた。
人を素直に愛せない僕を、彼女が受け入れ、許してくれたように思えた。
せっかく巡り会えたなら大切にしたいし、僕のために苦しんだ慎也の幸せを祈りたい。
これから先、僕たち三人がどうなるかは分からないけれど、今は目の前の幸せを感じて日々を大切にするしかできない。
未来なんて、誰にも分からないんだから。
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