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浜崎&五十嵐トラブル 編
迷惑なんです!
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それから数日後、私はいつもの帰り道を歩いていた。
前日は文香に付き合ってもらって、クリスマス用のちょっとお高くてセクシーな下着を買った。
当日二人がどんな反応をするかワクワクしながら、私は色んな想像をして一人顔を赤らめていた。
――と。
「あの、すみません」
女性に声を掛けられ、私は「はい?」と立ち止まる。
振り向くと、小柄でゆるふわな女性と、その友人らしい女性が二人、少し離れた所に立っている。
あー、なんかこれ……。
小学生、中学生によくある構図を思いだし、私は嫌な予感を抱く。
「私、五十嵐美奈代って言います。浜崎慶吾くんの婚約者です」
んー! 嫌な予感大当たり!
私は笑顔のまま、遠い目をする。
「折原優美さんで合っていますよね? 慶吾くんの元カノの……」
「あー、はい。元カノって言っても、付き合っていたのは四年前なので、今では赤の他人でただの同僚ですが」
私は敵意を見せないように、努めて穏やかに対応する。
「その言葉を信じたいんですが、私の友達が数日前にあなたが慶吾くんにつきまとっていたのを見たって言っているんです」
あれかな? 私が浜崎くんにつきまとわれていたやつかな?
けれどこの手の子は、現実を知らせても逆上しそうな気がする。
恋をしているからこそ、自分や味方である友人の言葉が、盲目的に正しいって思い込むから。
「迷惑なんです! 私、妊娠しています。これから結婚する元彼に手を出して、恥ずかしくないんですか? 昔逃した魚が大きいって思っています?」
あれ、どこかで聞いた言葉……。
「あの、五十嵐さん。とても大きな誤解をされているように思えるので、どこかに入ってゆっくり話せませんか?」
慎也が「今日は親子丼だよ」って言ってたけど、少し遅くなるって伝えないと。
私の提案を聞いて、五十嵐さんとそのオトモダチも、路上で言い合いするのは良くないと気付いたようだ。
そのあと、私達は近くのカフェに入った。
「私の話を聞いてくれますか? 一方的に言われるのはフェアでないので」
コーヒーを頼んだあとにそう切り出すと、少し冷静になったらしい五十嵐さんは頷いた。
お友達二人は隣に座り、私たちの会話を見守っている。
「分かりました。お聞きします」
とりあえず聞いてくれるようで、私は内心安堵の息をつく。
「えぇとですね、四年前に私は浜崎くんにフラれた形で別れています。それも社内で彼に不名誉な噂を流され、最悪な形での最後でした。私は彼にこれ以上なく悪い印象を持っているので、私からよりを戻そうと働きかけるなんて不可能なんです」
以上だ。
それ以上でも以下でもなく、私の説明が終わってしまう。
でもあまりに短すぎるので、誤解されただろうシーンについて補足しておいた。
「先日の、東京駅近くの路上での事なら、立場が逆でした。送別会兼忘年会の帰りで、浜崎くんは酔っていました。正常な判断をくだせず、昔の愚痴もあり私に絡んできました。なので私から彼に下心を持ってどうこう……っていうのは、絶対にあり得ません」
本当は浜崎くんが言っていた事をぶちまけてやりたいけど、これで彼と五十嵐さんの結婚が破談になったら寝覚めが悪い。
だから武士の情けとして、適当に誤魔化しておいた。
浜崎、一個貸しな。
その時にコーヒーが運ばれてきて、五十嵐さんはミルクと砂糖をたっぷり入れてスプーンで掻き混ぜる。
私はブラックのまま一口飲み、「正樹のコーヒーのが美味しいかなー?」とぼんやり考えた。
正樹は料理はできないけど、お茶類を淹れるのは上手だったりする。
言うべき事を言って満足していた私を、五十嵐さんはしばらく凝視していた。
そして呟く。
「……嘘つきなんですね」
五十嵐さんはポツンと言ったあと、カフェオレと化したコーヒーを飲む。
…………は?
嘘つき?
私は頭の中を「?」で一杯にして目をまん丸にする。
「慶吾くんが言っていた事に反します。四年前に別れたというのは事実でしょう。けれどあなたは当時遊びまくっていて、慶吾くんの事も……、セ……っ、セフレ、の一人にしか考えていなかった。彼は当時、折原さんが好きだったけれど、他にも大勢の男性と関係していたから、つらくなって別れると決めたと言っていました」
………………。
何だろう、その設定。
いやぁ、ここまで事実に反した設定を捏造できるって、なんか別の才能を感じるなぁ。
まるっきり別人じゃん。
前日は文香に付き合ってもらって、クリスマス用のちょっとお高くてセクシーな下着を買った。
当日二人がどんな反応をするかワクワクしながら、私は色んな想像をして一人顔を赤らめていた。
――と。
「あの、すみません」
女性に声を掛けられ、私は「はい?」と立ち止まる。
振り向くと、小柄でゆるふわな女性と、その友人らしい女性が二人、少し離れた所に立っている。
あー、なんかこれ……。
小学生、中学生によくある構図を思いだし、私は嫌な予感を抱く。
「私、五十嵐美奈代って言います。浜崎慶吾くんの婚約者です」
んー! 嫌な予感大当たり!
私は笑顔のまま、遠い目をする。
「折原優美さんで合っていますよね? 慶吾くんの元カノの……」
「あー、はい。元カノって言っても、付き合っていたのは四年前なので、今では赤の他人でただの同僚ですが」
私は敵意を見せないように、努めて穏やかに対応する。
「その言葉を信じたいんですが、私の友達が数日前にあなたが慶吾くんにつきまとっていたのを見たって言っているんです」
あれかな? 私が浜崎くんにつきまとわれていたやつかな?
けれどこの手の子は、現実を知らせても逆上しそうな気がする。
恋をしているからこそ、自分や味方である友人の言葉が、盲目的に正しいって思い込むから。
「迷惑なんです! 私、妊娠しています。これから結婚する元彼に手を出して、恥ずかしくないんですか? 昔逃した魚が大きいって思っています?」
あれ、どこかで聞いた言葉……。
「あの、五十嵐さん。とても大きな誤解をされているように思えるので、どこかに入ってゆっくり話せませんか?」
慎也が「今日は親子丼だよ」って言ってたけど、少し遅くなるって伝えないと。
私の提案を聞いて、五十嵐さんとそのオトモダチも、路上で言い合いするのは良くないと気付いたようだ。
そのあと、私達は近くのカフェに入った。
「私の話を聞いてくれますか? 一方的に言われるのはフェアでないので」
コーヒーを頼んだあとにそう切り出すと、少し冷静になったらしい五十嵐さんは頷いた。
お友達二人は隣に座り、私たちの会話を見守っている。
「分かりました。お聞きします」
とりあえず聞いてくれるようで、私は内心安堵の息をつく。
「えぇとですね、四年前に私は浜崎くんにフラれた形で別れています。それも社内で彼に不名誉な噂を流され、最悪な形での最後でした。私は彼にこれ以上なく悪い印象を持っているので、私からよりを戻そうと働きかけるなんて不可能なんです」
以上だ。
それ以上でも以下でもなく、私の説明が終わってしまう。
でもあまりに短すぎるので、誤解されただろうシーンについて補足しておいた。
「先日の、東京駅近くの路上での事なら、立場が逆でした。送別会兼忘年会の帰りで、浜崎くんは酔っていました。正常な判断をくだせず、昔の愚痴もあり私に絡んできました。なので私から彼に下心を持ってどうこう……っていうのは、絶対にあり得ません」
本当は浜崎くんが言っていた事をぶちまけてやりたいけど、これで彼と五十嵐さんの結婚が破談になったら寝覚めが悪い。
だから武士の情けとして、適当に誤魔化しておいた。
浜崎、一個貸しな。
その時にコーヒーが運ばれてきて、五十嵐さんはミルクと砂糖をたっぷり入れてスプーンで掻き混ぜる。
私はブラックのまま一口飲み、「正樹のコーヒーのが美味しいかなー?」とぼんやり考えた。
正樹は料理はできないけど、お茶類を淹れるのは上手だったりする。
言うべき事を言って満足していた私を、五十嵐さんはしばらく凝視していた。
そして呟く。
「……嘘つきなんですね」
五十嵐さんはポツンと言ったあと、カフェオレと化したコーヒーを飲む。
…………は?
嘘つき?
私は頭の中を「?」で一杯にして目をまん丸にする。
「慶吾くんが言っていた事に反します。四年前に別れたというのは事実でしょう。けれどあなたは当時遊びまくっていて、慶吾くんの事も……、セ……っ、セフレ、の一人にしか考えていなかった。彼は当時、折原さんが好きだったけれど、他にも大勢の男性と関係していたから、つらくなって別れると決めたと言っていました」
………………。
何だろう、その設定。
いやぁ、ここまで事実に反した設定を捏造できるって、なんか別の才能を感じるなぁ。
まるっきり別人じゃん。
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