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ハプバー~同居開始 編

どうして強い女になりたかったんです?

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「私、帰っていい? 二人で話したほうがよくない? かなりプライベートな話だし」

「そっ、そんなぁ! 文香さま……!」

 私は情けない顔で文香の腕にしがみつく。

「ええい、しゃきっとしろ! ジムで追い込んでる時はそんな弱気にならないでしょ!」

 言われて、私はハッと追い込みの日々を思い出す。

 ……確かに、異性絡みになって弱気になっていたようだ。

 深呼吸をした私は、向かいに座っている岬くんをまっすぐ見る。
 彼はいつものようにニコニコしているだけだ。けれど何を考えているか分からない。

 これは商談と同じ。
 いかに自分にとって良い条件で相手から答えを引き出すか。

 やってやろうじゃない。

「あ、目が真剣になりましたね。いい感じです」

「よし、じゃあ頑張れ! あとから話は聞いてあげる。骨は拾うから安心しろ!」

 席を立った文香は、ポンと私の肩に手を置いて会計伝票に手を伸ばす。

「あ、文香さん。俺が払うのでいいですよ」

 軽く手を上げて岬くんが彼女を制する。

「そう? じゃあご馳走になっておく。ありがとね」

 文香は岬くんにニッコリ笑いかけ、私にサムズアップする。

「じゃ、しっかり話し合ってね」

 ……なんだろう。
 付き合いが長いからよく分かってしまう。

 会計を持つと言った時点で、文香が岬くんの事を「なんだ、いい男じゃん」と思ってしまった事。
 そして「しっかり話し合ってね」の裏に「あとで報告よろ!」という強い圧がある事を……。

 文香が個室を出て行ったあと、私は何とはなしに水を飲む。

「体はつらくありませんか?」

「だ、大丈夫。丈夫にできてるから」

 彼の顔を見ていると、昨晩の濃厚な一時を思いだして顔が熱を持ってしまう。

「嫌じゃなかったです? レイプになっていなかった?」

「そ、そんな事ないよ!」

 レイプと言われ、私はギョッとして落としていた視線を上げ、彼を見る。

「……私が〝ハプニング〟を望んで行った訳だし」

 恥ずかしいけれど、それは事実だ。

「あの店に行った理由は、やっぱり浜崎さんの結婚が原因ですか?」

「うん……」

 岬くんは昨晩はとてもオラオラな感じだったのに、今は普段通りの部下の態度に戻っている。

「そんなに浜崎さんの事が好きだったんですか?」

「彼とは同期で、向こうから告白されたのが始まりだった。その頃の私は、恋愛を重視するよりトレーニングや仕事に打ち込んで、強い女になりたかった。浜崎くんは、そればっかりの私が嫌だったんだと思う」

「浜崎さんは可愛い系の女性に『すごーい』って褒められるのを好むタイプですからね。折原さんみたいに自立した女性には、引け目を感じるんでしょう。あの人、仕事ができると言いがたいですし」

 笑顔のまま、岬くんは毒を吐く。

「どうして強い女になりたかったんです?」

 これは別に隠す事ではないので、白状する。

「高校生時代まで、凄く太ってたの。気は弱かったし、コンプレックスの塊だった。そのくせ少女漫画みたいな恋愛に憧れていて、憧れの人もいた。痩せて綺麗になったら自分も周りのいけてる女の子みたいに、素敵な恋愛ができると思ってた」

「それで……、ここまで仕上がったですか?」

 彼の「やりすぎでは」という視線を受け、私はテーブルに突っ伏した。

「分かってる! 筋肉と対話するぐらい自分を追い込んだのは、やり過ぎだって分かってる! プロテイン手放せないし、毎日全身鏡の前で全裸になってポーズ取ってる! そんな女に男が群がらないのも知ってる!」

 嘆き始めた私をみて、岬くんは「ぶふっ……」と噴き出したあと、横を向いてしばらーく笑っていた。

「浜崎さんの事は、吹っ切れました?」

「まぁ、ずっと前に別れてるし、凄く好きだった訳じゃないの。エッチできなかったのを、私がヤリマンだったからっていう事にした挙げ句、謝らずに自分だけゴールインしようってのがムカついただけ」

「それって、相当のクズだと思いますけど」
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