2 / 7
甲冑の騎士の話
しおりを挟む
クレールは美しい令嬢だ。そのために異母妹に嫉妬されてきた。実母は卑しい生まれで、美しくあることにこだわった女だった。実母はクレールを美しく生むために、怪しい魔術師から「自分の命と引き換えに美しい娘を生む薬」をもらったという噂もある。実母はクレールが生まれた時に亡くなった。
クレールは継母と異母妹とは十四歳になるまで会うことはなかった。それまでは領地の屋敷で育てられた。父が継母や異母妹との無駄な軋轢を避けたかったのだろう。
領地には隠居した剣術の師匠がいて、クレールは秘密でその師匠に剣術を習いにいったものだった。
クレールは十四歳で都に連れて来られた。剣術の師匠は第三騎士隊に縁があり、クレールのことを密かに第三騎士隊に紹介していたため、クレールは今も剣術を続けられている。
「クレール嬢は甲冑の騎士を知っているかな?」
ベノワ王子が聞いてくる。
クレールが自分の屋敷に戻ると言うとベノワ王子が自身の馬車で送ると言ったのでありがたく送ってもらうことにしたのである。そして、そう聞かれてクレールはベノワ王子が送ってくれたのは「甲冑の騎士」の話を聞きたかったからだと分かった。
「よく存じておりますよ」
「練習でも甲冑を着けている騎士だ。小柄だが、身のこなしが素早くて、よく相手を負かしている。なんとか私も一戦したいものだ」
「まぁ、ありがたいお言葉ですわね。きっとベノワ王子がそうおっしゃったら喜んで引き受けると思いますわよ」
クレールはフフと笑った。ベノワ王子は言い募る。
「いや、きっと手加減されるな。私の身分を気に掛けると思う。どうにか本気の彼と戦いたいのだが」
「わりと現金な人だから「勝ったら一つ言うことを聞く」とでも言えば本気で戦ってくれるかも、しれませんわね」
クレールがニコニコと笑って言った。馬車が止まる。
「着いたようだ」
ベノワ王子は先に降りてクレールの手を取った。クレールは手を取られたまましずしずと降りる。
「ありがとうございました」
とクレールは微笑んだ。そこに
「クレール!!」
と大声で呼ばれる。声の方を向くと立っていたのは怒りに目をぎらつかせた婚約者の第五王子クリストフであった。
「これはクリストフ王子、君の恋人に失礼した」
ベノワ王子がすぐに謝る。クリストフは構わずクレールに詰問する。
「クレール、どこに行っていたんだ?俺が来る時にいないなんて」
「それは申し訳ございません。でも、先に教えて下されば待っておりましたのに」
クレールがクリストフに硬い表情で返す。それから手短にベノワ王子に
「送って下さりありがとうございます。では」
と言ってクリストフの腕を取った。クレールに腕を取られただけでクリストフは顔を真っ赤にして狼狽えた様子で、クレールに連れられて屋敷に消えていく。
ベノワは、クリストフ王子は嫉妬深いがクレール嬢のことは大切にしているようだと結論付けてその場を後にした。
クレールは継母と異母妹とは十四歳になるまで会うことはなかった。それまでは領地の屋敷で育てられた。父が継母や異母妹との無駄な軋轢を避けたかったのだろう。
領地には隠居した剣術の師匠がいて、クレールは秘密でその師匠に剣術を習いにいったものだった。
クレールは十四歳で都に連れて来られた。剣術の師匠は第三騎士隊に縁があり、クレールのことを密かに第三騎士隊に紹介していたため、クレールは今も剣術を続けられている。
「クレール嬢は甲冑の騎士を知っているかな?」
ベノワ王子が聞いてくる。
クレールが自分の屋敷に戻ると言うとベノワ王子が自身の馬車で送ると言ったのでありがたく送ってもらうことにしたのである。そして、そう聞かれてクレールはベノワ王子が送ってくれたのは「甲冑の騎士」の話を聞きたかったからだと分かった。
「よく存じておりますよ」
「練習でも甲冑を着けている騎士だ。小柄だが、身のこなしが素早くて、よく相手を負かしている。なんとか私も一戦したいものだ」
「まぁ、ありがたいお言葉ですわね。きっとベノワ王子がそうおっしゃったら喜んで引き受けると思いますわよ」
クレールはフフと笑った。ベノワ王子は言い募る。
「いや、きっと手加減されるな。私の身分を気に掛けると思う。どうにか本気の彼と戦いたいのだが」
「わりと現金な人だから「勝ったら一つ言うことを聞く」とでも言えば本気で戦ってくれるかも、しれませんわね」
クレールがニコニコと笑って言った。馬車が止まる。
「着いたようだ」
ベノワ王子は先に降りてクレールの手を取った。クレールは手を取られたまましずしずと降りる。
「ありがとうございました」
とクレールは微笑んだ。そこに
「クレール!!」
と大声で呼ばれる。声の方を向くと立っていたのは怒りに目をぎらつかせた婚約者の第五王子クリストフであった。
「これはクリストフ王子、君の恋人に失礼した」
ベノワ王子がすぐに謝る。クリストフは構わずクレールに詰問する。
「クレール、どこに行っていたんだ?俺が来る時にいないなんて」
「それは申し訳ございません。でも、先に教えて下されば待っておりましたのに」
クレールがクリストフに硬い表情で返す。それから手短にベノワ王子に
「送って下さりありがとうございます。では」
と言ってクリストフの腕を取った。クレールに腕を取られただけでクリストフは顔を真っ赤にして狼狽えた様子で、クレールに連れられて屋敷に消えていく。
ベノワは、クリストフ王子は嫉妬深いがクレール嬢のことは大切にしているようだと結論付けてその場を後にした。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
私は悪役令嬢……え、勇者ですの!?
葉月
ファンタジー
「カミラ。お前との婚約を破棄する!」
公爵令嬢でディラン王太子の婚約者であるカミラ。卒業パーティの最中に婚約破棄の上、その根拠として身に覚えのない罪を言い渡された。
そして、ディラン王太子の命令により強引に捕らえられそうになる。相手は学園の生徒全員と兵士。一方、カミラは武器も仲間もなし。多勢に無勢の状況でも彼女は諦めなかった。
追い詰められた時、彼女は覚醒したのだった。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップにも掲載しています。
短編です。3話で完結します。続編については未定です。書くかもしれません。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
悪役令嬢は倒れない!~はめられて婚約破棄された私は、最後の最後で復讐を完遂する~
D
ファンタジー
「エリザベス、俺はお前との婚約を破棄する」
卒業式の後の舞踏会で、公爵令嬢の私は、婚約者の王子様から婚約を破棄されてしまう。
王子様は、浮気相手と一緒に、身に覚えのない私の悪行を次々と披露して、私を追い詰めていく。
こんな屈辱、生まれてはじめてだわ。
調子に乗り過ぎよ、あのバカ王子。
もう、許さない。私が、ただ無抵抗で、こんな屈辱的なことをされるわけがないじゃない。
そして、私の復讐が幕を開ける。
これは、王子と浮気相手の破滅への舞踏会なのだから……
短編です。
※小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿しています。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
今、私は幸せなの。ほっといて
青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。
卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。
そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。
「今、私は幸せなの。ほっといて」
小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる