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第2章

第13話 再出発 ④

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 夜、キアラの部屋の扉にノックする。
「ジャンヌよ。入っていいかしら」
「はい」
 扉を開ければ、キアラはベッドの上に座っていた。
 キアラの元へ歩く。
「ジャンヌさん・・・」
「隣いい?」
 キアラは小さく頷いたので、キアラの隣に座る。
「なぜ・・・私が聖女に選ばれたんでしょうか」
 キアラが尋ねる。
「力も使えなくて、イヴ様やジャンヌさんに迷惑をかけて・・・本当に聖女になれるのでしょうか。こんな私でも・・・」
 キアラは強く握る。
「知らない。なぜ選んだかなんて考えたら、疲れるだけ」
 キアラは思わず目を見開いた。
「だって、白女神が気まぐれに選んでいるだけなのよ。もしその答えが見つけたとしても理由が大したことなかったら、それはそれで嫌でしょ」
「うん・・・」
 戸惑った様子でキアラは返す。
「私ね。一時期、力が使えなかった時もあったの」
「ジャンヌさんも?」
「ええ。その時は宝石心臓を食べたことで取り戻した。けど、暴走しちゃって取返しのつかないことをしたの」
「それって・・・」
「聖女を殺したの」
「え?」
「私にとっては恩師になるかな。あんまり何も教えてくれなかったけどね」
 苦笑する。
「教えてくれなかった?」
「そう。本格的に知ったのは、アガタさんに保護してもらってからね。当時は反抗的なこともしたから、しつけも兼ねてイヴ様からの修行はきつかったな」
――まあ、他にもあるけどね
「なんでその聖女様は、何も教えてくれなかったんですか?」
「それは訊けなかったな。訊く前に殺しちゃったから。当時の私は周りが見えなくて、自分のことしか考えられなかったの。だからあの結果を招いたの」
――多分だけど、教えられなかったと思えたい
「そうだったんですね」
 少し暗い話になっちゃったかな。
「今のあなたに足りないのは、自信と認めることよ」
「認める・・・」
「この力は生きている限り一生付き合うことになるのよ。いつまでも嫌がってちゃだめ」
「嫌に決まっているじゃないですか!」
 キアラが感情的になった。
「この力でカリーナを殺したことも、何もできなかった自分も・・・」
「だったらそんな自分を変えなさい」
 強めに言う。
 キアラ自身が分かっていることだから言いたくはなかったが。
「そのためにここにいるんだからさ」
 柔らかく言う。
「私だって何もかも嫌いになっていた時はあったよ。自分にもね。でも、結局はね。そんな嫌な自分と一生付き合うことになるんだから、受け入れないと先は進めないって気付いたの」
「・・・」
「あなたの力をあなたが一番に認めなきゃいけないのよ」
「でも、どうすれば・・・」
 キアラは目を背ける。
「だったら、手伝ってあげる」
 キアラの前に手を伸ばす。
「私の手を握って、手の中に銀の血を出してみて」
「え?」
「私の手から『光』を注ぐから、その『光』を乱さないように調整してみて」
「でも・・・」
「なんでも挑戦よ。自分を変えたいなら」
 キアラが手を握る。
 キアラに『光』を注ぐ。
 キアラの『光』も感じた。暖かい。暖かさの中に不安や変えたい自分の想いも感じる。
 そういえば、あの時もルチアの『光』は暖かったなと思い出す。
 『光』が乱れることもなく、一つに固まっていくのか感じる。
「もういいよ」
 キアラの手の中に小さな銀の球ができた。
「できた・・・」
 キアラが一番に驚いている。
「今の感覚を忘れないでね」
「はい!」
 ここにきて初めて、嬉しそうな顔をしてくれた。
 自信一つつければ、もっと自身の力と向き合うだろう。
 これで。
「ごめんね。キアラ」
「え?」
「本当はもう少しキアラを見たかったけど。もう行くね」
「行かれるんですか?」
「私の用事を終わらせるために」
「それは・・・ジャンヌさんじゃないとダメなんですか」
「そうね」
 キアラはジャンヌに抱きつく。
「行かないで・・・」
 涙目になりながら言う。
「本当にごめんね。自分勝手だとは思う」
連れてきて不安な中置いていくことになるからだ。
「けど、人に依存しちゃいけない。どんなになっても一人で考えて決めて戦うことになるの。いつまでもずっといられるわけないから」
 聖女はいつ死んでもおかしくない。過去にもその人を追って自殺した聖女もいる。だから人に依存してほしくない。
それにジャンヌ自身にもルチアに依存し、何もできなかったこともあった。
「ここは聖女にとって安全な場所だから、あなたを聖女として生きるために修行されてくれるから」
 キアラはジャンヌから胸から離れる。
「帰ってくれるんですよね・・・」
「約束はしない。けど・・・死ぬ気はないから」
 約束は人を縛ることにもなるから、ジャンヌはしない。けど、死ぬ気は全くない。
 ジャンヌは部屋から出る。



 地上から聖女の地に戻る時は、日差しや月明かりの『光』が充満し、意思を通してイヴやマリアに許可した時に『光』が結晶化し、光の鏡を生み出す。
 そして、聖女の地から地上に出る時は、1か所だけ。
 5本の結晶の柱が等間隔で円周に立っている。その中央には地面に虹色の結晶が散らばっている場所『ラスターゲート』だった。
 この結晶はイヴやマリアが作った特別製で、行きたい場所を思い浮かびながら結晶に『光』を注ぐことで、人も通れるほどの大きい鏡に結合し、鏡の中へと飛び込めば、地上に降りれる。
 ジャンヌは鏡に入り、地上へと降りた。鏡は割れ、地面に落ちる。
「ちょっと大人しくなるかと思ったけど、やはり行きましたね」
 高台から行ってしまったジャンヌを眺めていたアガタが言う。
「ジャンヌが抜ける前に終わらせたかったけどね」
「ヴァルキリーは見つかりませんか」
 ジルの近くにはヴァルキリーがいる。ヴァルキリーを見つけるのは手っ取り早いが。
「それが感じないのよ。誰かが行方をくらませているのは確実だけどね」
 これは人間にはできない技術ではない。
「アタランテと合流してからね。お願いね」
 アガタに指令を与える。
「はい。イヴ様」
 アガタもジャンヌを追いかける。
「アガタに行かせるのか」
 声をかけられたのは、もう一人の古の聖女。
 銀色の髪の中にかすかに金色が混ざった髪。青い瞳。八枚の羽。頭に白いロープ。白いドレスに足を見せている。古の聖女の1人。月を司る月光の聖女マリアだった。



「アガタも顔を見たいってね」
「アガタは、ルチアの後輩だからね。思うところはあるでしょ」
「そうね」
 アガタも感情的にはならないが、我慢はしてきたと思う。だから今回は行かせた。
「ジャンヌもすぐに逃げると思っていたけど、やはり後輩には甘いのね」
「そう思ってキアラの面倒を見てくれるかと思ったけど、結局は行ってしまったわ」
 肩を竦める。
「力づくでも抑えつけられるでしょ」
「できなくはないけど、諦め悪いの。ジャンヌは。あまり大人げないことはしたくない」
「散々力づくで教育したあなたが言うことなの」
 マリアが呆れたように言う。
「どっちにしても早く解決するといいけど」
 マリアは去る。
 イヴは、夜に輝く月を見つめる。
「少しくらい未来を変わってほしいものだけど」

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