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第1章

第5話 ナリカケ 後半⑤

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 よし。逃げよう。
 レオンは森の中を走っていた。
 ジャンヌから言われたことはやった。タンガはおそらくアキセが殺した。さっきの爆発が証拠だ。決して裏切っていない。やることはやったから裏切ってはいない。ジャンヌはムカデの魔女と戦っている。あの戦いではセイラムと呼ばれる魔女もジャンヌを無視できない。
 レオンはこのチャンスを逃さなかった。
 あとはジャンヌに任せて逃げるだけ。
その時だった。


 膝をついたジャンヌは、白い波によって広げた景色を見つめていた。
 木をなぎ倒し、大きい道が開いていた。まるで竜巻が木の道を切り開くように。
 今回のナリカケは、元の魔女が弱かったのもあったのか、聖女一人でどうにか退治できた。
それでも体力、『光』もかなり消耗していた。おまけに腹の傷口が広がり、深手を負う。
乱れた呼吸を落ち着こうと一息をついた時だった。
 バン!
 銃声が響いた。
 肩に衝撃がする。弾が肩に的中し、そのまま倒れてしまう。
 肩から血が流れる。これ以上出血しないために肩を押さえるが、生暖かい血は止まらない。
 後ろへ振り向けば、右腕を失ったセイラムが怒りを露わにし、銃を向けていた。
「よくも計画を潰しやがったな!」
 セイラムは顔を崩れるほど怒声を上げる。
「私に人間の武器を使わせたな!聖女が!」
 プライドの高い魔女は、下等な人間の武器を使ったことに許さないのだろう。
 セイラムが引き金を引くが、ガチっと音がして弾が出で来ない。弾切れだ。
「クソ!これだから人間の道具は嫌いだ!」
 セイラムは銃を捨てる。ジャンヌに近づき、肩の傷口に踏みつける。
「ぐ!」
 声を出せない呻き声を出す。
抵抗する力も出せない。セイラムはジャンヌが動かないことをいいことに踏みつける。
 このアマ。
血が止まらない。
空を見上げれば、風で吹き飛んだ雲が月を覆っている。運はこちらに向いていないらしい。
 その時、セイラムが急にジャンヌを飛び越えた。
 それは、地面から伸びた土の槍を避けるためだった。
 おしい。
「おいおい、八つ当たりとは見苦しいねえ。おばさん」
 声をした方へ向けば、アキセが銃を構えていた。
「たく。あの中性子。逃げ出したな」
 アキセは呟いた。おそらくレオンのことだろう。
「リリム風情が!私を見下すな!」
 セイラムが叫ぶ。
 計画が潰され、右腕を切られた。相当頭にきている。
「そんだけ傷負ったんだ・・・俺でも殺せるか試してみるか」
 セイラムは、ジャンヌから右腕を切られ、白い炎で浄化も進んでいる。それなりに重症はしている。あと一発『光』を与えば、浄化できるほどだった。
 見下したアキセが引き金を引こうとした時だった。
 アキセの背後から何かが横を通り、木にぶつかった。
 その正体はレオンだった。体中が傷だらけ、左腕と右足が折られている。
「これって…」
 アキセが振り返れば、あの時、毒の塊で死んだはずのサイクロプスが睨んでいた。
「げ!生きていたのか。あれ、猛毒なんだけど・・・」
 サイクロプスは、目が血走っており、口から泡を吹いている。
「ラギャム!この場にいる敵を殺せ!」
 セイラムはラギャムと呼ばれるサイクロプスに命令を下す。
「殺せえええええええええええええええええええええええええええ!」
 セイラムは声が枯れるほど叫ぶ。
 ラギャムはアキセと目が合う。
「イタクシタヤツダナ…」
さらに目を血走りする。
「ヤバ…」
 アキセは冷や汗をかく。
 ラギャムは拳を作り、アキセに向かってハンマーのように地面に叩きつける。
 アキセは、後ろへ避ける。
「クソ!死に損ないが!」
 アキセが銃を打ち出す前にラギャムが素早く手を伸ばし、アキセを体ごと握る。
大きく腕を上げ、アキセを地面に向かって投げる。地面にヒビが割れるほどの強打し、血反吐をはいた。
 彼の体は人間だ。あの強打で無事ではいられない。骨は確実に折っている。
「オマエナンカ!キライダ!」
 ラギャムが地面に向かって、拳を落とすも拳が止まった。
 陣が光っていた。一瞬で陣を書き、アキセの魔術の結界で拳を防ぐ。
「ムカツク!」
 逆鱗に触れたのか、ラギャムが拳で何度も殴りにかかる。爆発したように怒り狂う。
アキセは魔術で防いでいるが、あの攻撃では長くは持たないと予想が的中した。
 バリンとガラスが割れる音がした。結界が力まかせで壊された。
「オレガイチバン!ママニアイサレテイルンダアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 ラギャムが渾身の拳をアキセに向かうが、ぴたっと止まる。
 なぜ止まった。
「ママ・・・」
 ラギャムの視線がアキセではなく、視線を変える。
 怒り狂っていたセイラムが豹変した。怯えるような目だった。
 ジャンヌは、セイラムの向いた先へ視線を向く。
その先には女が優雅に歩いていた。
腰までに長い金髪。胸が黒いコルセットのようなもので留められている。腰に生えた黒い翼は黒く輝いている。腰に長いドレスのような黄色の布を巻き、左足に黒い紐が結んでいた。女は明らかに人間ではなかった。
「ママ…」
 ママ?セイラムのことではなかったのか。
 ラギャムが女に手を伸ばすが、女が目と合った瞬間、ラギャムが吹き飛んだ。あの巨大な生き物を目と合っただけで飛ばした。
 女は、地面に倒れているアキセへと近づく。
「あら、元気そうね。ガルム」
 女は、負傷しているアキセを気にせず、冷たく言う。
「お久しぶりです・・・お母様・・・」
 アキセは、冷や汗をかきながら言う。
 リリムであるアキセがお母さまと言った。

 つまり彼女は、よきの魔女リリス・ライラ・ウィッチャーだということだった。

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