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第65話 我が家の長女 その7

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 俺は部屋に入ると、宮子はテレビのニュースを見ていた。
 座卓近くにみんなのクッションが置いて有るので、俺は座卓近くに座って宮子に声を掛ける。

「宮子。久しぶりだな…」

「こんにちは…」

 宮子はぼそっと挨拶する。

「初めてだな。宮子が父さんの所に来るなんて!」

「お母さんが行けと命令したから…」

「そっ、そうか……。迷わず来られたか?」

 そうすると、宮子は不満げな口調で返してくる。

「子供じゃ無いから当たり前でしょ!」
「私を何歳だと思っているの!?」

「あっ、あぁ……まぁ、そうだな」
「見た感じ、元気そうで良かったよ!」

「……」

(参ったな……、相変わらずのパターンだ)

 宮子とは基本的に会話が成立しない。
 話し掛けても会話をぶった切るか、無視するか、逆ギレするかの大体この3パターンで有る。

(これでは、咲子に昔の事を話したかどうかの確認は、取れそうでも無いな)

「宮子にとっては慣れない家だと思うが、普段の家みたいにゆっくりして行ってくれ」

 俺がそう言うと、宮子はぶっきらぼうに答える。

「ゆっくりも何も、私は明日の昼前には戻るから!」
「夕方からバイトも入っているし…」

「あぁ、そうか…」

「……」

 俺との会話を打ち切るように、宮子は再びテレビの方に視線を戻す。

(咲子は早くすき焼きを持って来ないか……。全然、場が繋げない…)

 宮子にとって人生の大事な部分は、全部母さんに相談して、俺は母さん経由で宮子の話を聞く。
 俺はそれに対して、ケチを付ける事は無く殆どの件を容認してきた。欲しい物や進路等の全ての行いを、宮子の場合のみ母さん経由で有る。俺に相談を求めて来た事は1度も無い。
 そもそも、家計を握っている母さんだから、金銭に関する問題は九分九厘、母さんだけで解決してしまう。

 宮子は、咲子見たいに何処かに連れていけとは言わないし、真央見たいにスポーツクラブに入会したいとか、ペットを飼いたいとかも全く言わない。
 家族では繋がっている宮子だが、俺と宮子を繋ぐ線は、途中で完全に分断されている。
 結局、宮子が大人に成っても父と娘の関係は成立しなかった。

 俺が母さんに全て任してしまったのも原因だが、宮子の中では本来のお父さんがそれだけ好きだったのだろう……。その問題を放棄してしまった俺にも問題が有る。

 陰険なムードでは無いが、この居心地の悪さはヒシヒシと何時もだが感じる。
 普段の宮子なら別の部屋に行くか、誰かに話し掛けて場を逃げ出したりするが、逃げる場所が無いのか無言でテレビを見ている。
 咲子が完成したすき焼きを持ってくるまで、無言の関係が続いてしまう。

「お父さん。お姉ちゃん。準備出来たよ♪」

 すき焼きの入ったフライパンを鍋敷きに置きながら、咲子は陽気な声で俺と宮子に声を掛ける。鍋敷きは、咲子が何時の間にか買って来ていた。

「今日もありがとうな。晩ご飯の準備をして貰って」

「私は全然平気だよ!」
「お姉ちゃんも、こっちに来て!」

 咲子はそう言うと、宮子は渋々クッションを床に引きずりながら、座卓付近に移動してくる。

「宮子。ビールが冷えているけど飲むか?」

「いらない…!」

「そうか…」

「お姉ちゃん! ジュースは飲むよね!!」

「そうね……。すき焼きだからね。ジュースは欲しいわ!」

「じゃあ、ジュースの用意をしてくるね!」

 咲子はそう言いながら台所に向かうので、俺も缶ビールを取りに行くために一緒に向かう。
 今日は宮子が来ているので、威厳を保つために缶ビールにした。
 俺は冷蔵庫から缶ビールを取り出して、咲子がジュースを取り出すと咲子が聞いてくる。
 
「どう?」
「仲良く出来ている?」

「見ての通りさ……」
「咲子には普通に話すが、俺に対しては、つんけんの態度だよ」

「まぁ、お父さん!」
「お姉ちゃんも、ご飯を食べれば少しは気分が変わるはずだよ!」

「だと、良いがな…」

 普段の場合なら母さんが居るため、宮子も余り攻撃的には成らないが、ここには母さんが居ない。これも、母さんが仕組んだ試練の1つなのだろうか?
 宮子を含めた3人での晩ご飯が始まろうとしていた……

 3人で、いただきますをして晩ご飯が始まる。
 今の家には卓上コンロは無いので、すき焼きだが余熱で味わう。
 俺はバランス良く、すき焼きを小鉢に入れていると、何だか何時もすき焼きと違う気がする。

「咲子」
「今日のすき焼きは、何時ものじゃないよね?」

「うん。そうなんだ……」
「この時期だから、材料が上手に揃わなくて、お肉も何時ものとは違うけど、少し味見してみたら美味しかったよ!」

「夏のこの時期だから、贅沢は言ってられないな」

 すき焼きの入ったフライパンには、春菊の変わりだろうか?
 ピーマンとナスが入っている。濃いめの味付けで煮ればどれも美味しい食材だ。俺は溶き卵に付けた肉を頬張る。

「うん!」
「少しさっぱりしているけど、美味しいよ!」
「本当。咲子は何でも作れるな!」

「ありがとう、お父さん!」
「お姉ちゃんはどう? 私の味付けは?」

 黙って食べている宮子に声を掛ける。

「……私的には、もう少し脂身が有った肉の方が良かったけど。美味しいよ…!」

「お父さん! お姉ちゃん!」
「お代わりは沢山有るからね! 一杯食べてね!!」

「あぁ…」

「……」

 宮子は無言だったが、顔は少し笑った様に見えた。
 咲子の料理のおかげか、宮子に少しの変化が現れたような気がした。 
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