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第34話 夫婦の会話 その1

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「母さん、2回目だけど、乾杯!」

「はい! 乾杯!!」

 改めて母さんと乾杯をして、3次会(夫婦の時間)が始まる。
 ワイングラスは当然無いので、代わりにガラスコップで乾杯する。ワインは赤ワインで有る。
 俺は“ちびり”とワインを口付けるが、母さんは結構コップを傾けていた。

「ふぅ~」
「ワインは良いね♪」
「手頃のお値段のでも、私は十分美味しいわ♪」

 ワイン飲みながら、時々おつまみを摘まんで、夫婦で3次会が進んでいく……
 咲子達の前には言えない大人の会話(家庭状況)をしながら、少しずつ時間が過ぎて行く。

 新品だったワインボトルも、時が経つに連れて減って行き、それに比例して、お互い大分出来上がって来たようだ。(酔っ払ってきた)
 おつまみと言ってもチーズとか、ナッツ類とかの乾き物が中心で有る。本来はこれ位が良いのだが、どっしりした物が有ると嬉しい。
 一番ボリュームの有る、唐揚げも中盤付近で終わってしまった。何か一品欲しい気分で有る。

「何か、母さんの作った回鍋肉ホイコーローが食べたくなってきたな…」

「回鍋肉? 私の何か、水っぽくて美味しくないでしょ!」
「私自身でも知っているのに……嫌み~?」

 母さんは眉をひそめながら言う。

「違うよ! 本当に母さんの回鍋肉が食べたいんだよ!!」

「それにしても、何で急に?」

「何でだろう?」
「何となく?」

「私としては、回鍋肉は作るより、お店に食べに行く方が良いな!」
「今度、お父さんが帰ってきた時は、中華料理屋さんに行こうか!」
「……家で作るのは、ほぼ1品で済むのとキャベツの整理を兼ねているだけだし!!」

 母さんは最後の方で爆弾発言する。

「俺が母さんの味を求めているのかも知れないな……」
「咲子の料理も美味しいが、やはり母さんの味が良いんだよな…」

「あは! 嬉しい事言ってくれるね!!」
「はい! ワイン注いで上げる!!」

 そう言いながら、俺のコップにワインを並々注ぐ母さん。
 母さんは自分のコップにもワインを注ぎ、一口付けると軽く息をつく。

「……お父さんと咲子が、上手に遣っているようで安心したわ」

「俺も本当に、最初はどうなるかと思ったが、無事に終わりそうだよ」
「咲子は連れて一緒に帰るんでしょ?」

 そうすると母さんは『どうだろう?』の顔をする。

「咲子が帰るというなら一緒に連れて帰るけど、まだ居たいと言ったら居るんじゃない?」
「うん、明日にでも聞いてみるよ!」

 何だか掴み所が無い事を言う母さん。

「えっ、そんな感じで良いの?」

「んっ、あの子の予定は、あの子の予定なんだから!!」

 母さんはケラっと言いながら、ワインの入ったコップをグッと空ける。
 空に成ったコップを静かに置くと、急に母さんは、にやつきながら話し掛けて来る。

「でも、楽しかったでしょ~~。若い女の子との2人暮らし~~!」
「私(母さん)よりも、咲子が良いと思ったでしょ~~」

「いやっ、そんな事ないよ!」
「俺は母さん一筋だよ!!」

「あれま! 普通の人なら絶対若い子選ぶよ♪」
「お父さんは変わっているね~~」

「それは、母さんの魅力を知らないからだよ!」

「私の魅力♪」
「それはどんなの? 教えて欲しいな~~♪」

 今日の母さんは、大分出来上がっているようだ。

「そっ、それは……」

 母さんを前にして、母さんの魅力的な部分を話すのは、この年でも恥ずかしい。
 話すべきかと、少し悩んでいる間に母さんが話し出す。

「宮子、咲子共に、大きな事が起きずに育ってくれて本当に良かったわ♪」
「本当、お父さんのおかげでね♪」

「俺は特に何もしていないよ。母さんの教育のたまものだよ!」

「でも、私一人じゃ、ここまで上手く行かなかったかも~~」

 母さんは愚痴る感じで喋る。

「……そんな事、無いと思うがな」

 俺は初婚だが、母さんは再婚で有る。
 そして、宮子と咲子は母さんの連れ子で有る。俺が母さんと結婚する時、子持ちで有る事を含めて、周りからは猛反対されたが、俺はそれを押し切った。

 母さんと結婚した時、宮子はもう状況を理解出来る年齢に成っていたので、宮子は俺に対しては、付かず離れずの選択を取った。
 咲子の方も有る程度は理解していたと思うが、父親が欲しい頃だったのだろうか、すんなりと受け入れた。

「でも、母さん。まだ、真央がこれからだから!」

「真央も元気で何よりだわ。ちょっと、引っ込み思案が気になるけど、貴方に似たのかしらね?」
「宮子達にも馴染んでいるし、真央自身も、実の姉妹と思っているんじゃ無いのかしら……」

「そうだな……」

 俺と母さんの本当の子供は真央だけで有る。
 宮子や咲子の手前場、自分の子供を授かるのは躊躇ためらった。異父姉妹は何が起こるかが読めないのと、他人の子供と自分の子供を同等に愛する自身が無かった。
 しかし、母さんは『そんなの平気よ。何せ私の血だから!! そんな悪い子は居ないよ!!』とあっけらかんと言い、結婚して間もなくして真央を授かった。

 まあ、たしかに俺は内気な性格だ。良く母さんと出会えて、ここまで来れたと何時も思う。
 心の中で今までの事を思い出していると、母さんが尋ねてくる。

「それでお父さんは、咲子の事どうするつもり?」
「咲子があなたに、父親以上に懐いているのは知っているよね…」

「……やっぱりと言うか、まあ、誰もが見ても感づくよね」
「それより、咲子が事情を全て知っているような感じだが、母さんが話した?」

「私? 話してないよ」
「あの子が20歳に成ったら、話すつもりで居るから…」

「じゃあ、何で咲子は知っているんだろう……」

 俺は咲子が発した言葉を思い出す。

『お父さん……私、全て知っているんだからね』

 咲子のあの口ぶりはどう見ても、実の子じゃ無い事を知っている様だ。
 母さんはしばらく考えた後、ゆっくりと口を開いた……
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