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【R-15】稀子編 第2章

第382話 学科試験発表 その1

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 ……

 しばらく時が過ぎて……

 季節も梅雨の季節に入り、蒸し暑い日々を過ごしている中、一通の郵便はがきが俺の部屋郵便受けに投函される。
 そう……ついに保育士学科試験の合否発表が、分かる時が来たのだ……
 その日のアルバイトを終えて帰路に着き、郵便物を確認した時にそれを見付けた。

(ついに来たか……合否のはがきが!)

 今直ぐに封をされている部分をめくって、結果を確認したい所だが、これは俺1人の力で行った物では無い……
 山本さんや鈴音さん…。特に稀子の協力が有ったからこそ今が有る。

(落ちている可能性も有るが、これはみんなの前で見せるべきだよな…)

 今回の学科試験に落ちたからと言って『この町から出てけ!』とかの恐ろしい言葉を山本さんは言わないだろう!?
 保育士養成学校の入学選考に落ちた時は、俺が落ちた時の対策を怠った所為で山本さん(孝明)を激怒させたが、この試験はまた10月に学科試験を受けられる。

 それに合格した科目は次回に持ち越せるシステムに成っているから、今回落ちても落ちた科目を勉強して、再挑戦をすれば良いだけで有る。
 その辺りは山本さん達も理解しているはずだろう……
 落ちていたら、嫌みは絶対に言われるだろうけど、最悪の事態は訪れない筈だ!?

(これは……今晩の団らん時間に発表しよう!)
(合格していれば、みんなが祝福してくれるし、不合格だった場合は、どうして不合格に成ったかの『勉強会』をみんなですれば良いだけだ!)

 俺にとって、おばさんまりえを含む山本さん。天使の鈴音さん。
 そして、最愛の稀子は本当に家族の様な存在でも有った。

 山本さんは“おっかない”人では有るが、無闇に怒鳴る人や怒る人では無い。
 本当にヤ○ザや極道の世界の様に筋を通す人だ。
 その代わり本気で怒らすと、この世から消される可能性も高いが!?

(この事は、実の両親には何も言っていないけど、向こうからも連絡は全く来ないしな…)

 俺は今、両親とは完全に仲違なかたがいしている。
 この町(波津音市はずねし)に俺が引っ越すことを反対したし、俺もあの両親とは関わりを持ちたくは無かった……

(しかし…、稀子とは将来をほぼ誓い合う関係に進展しているし、一度は報告をしないと世間的には不味いよな…)

 俺の両親は、俺が今何をやっているかを知らない。
 父親は俺のことに無関心だし、母親も毒舌を吐くか、母親の理想通りに俺が動かないと直ぐに怒る始末だ……

(ある年代が来るまでは、母親が一から十まで指図していたのが、俺が社会人に成った途端、何も言わなく成ったからな……)
(まぁ、そのお陰で今の生活が有る訳だが…)

 俺がこの町に来る決断をする前に、両親に金銭面の支援を求めた事が有った。
 けど、交渉は物別れに終わり、俺は稀子にすがってこの町に来る決意をした。

(そんな事を思い出しても仕方ないか…。俺の取った選択肢は間違っていない筈だ!!)

(……手早くシャワーを浴びて、山本さんの家に向かうか!)
(彼奴ら(両親)より、俺はこっち(山本一家・鈴音・稀子)の方が本当の家族だ!!)

 俺ははがきをテーブルの上に一旦置いて、シャワーを浴びるために浴室に向かった……

 ……

 シャワーを浴びた後は、先ほどのはがきを持って山本さんの家に向かう。
 何時も通り玄関から入り、リビングに入ると今晩は、鈴音さんが料理担当の日で有った。

 ダイニングテーブル近くに鈴音さんの姿が見えて、ダイニングテーブルには冷やし中華のお皿が並べられていた!
 鈴音さんに挨拶をするために、俺は声を掛ける。

「こんばんは。鈴音さん!」

「はい。こんばんは、比叡さん!」

 俺が鈴音さんに声を掛けると、鈴音さんは微笑みながら挨拶を返してくれる。
 今日も可愛い天使の笑顔だ!!

「今晩は冷やし中華ですか♪」
「これを見ますと『夏が来た~~♪』と感じますね!」

 俺は冷やし中華を見ながら嬉しそうに言う。
 インスタント系を好まない鈴音さんは、冷やし中華のスープも自ら作る。
 流石に麺は市販品を使っているが……

「はい。そうです!」
「今日は蒸し暑さを特に感じましたから、食欲がそそる物が良いかと思い、冷やし中華にしました!」

 穏やかな表情で言う、鈴音さん。

 料理はほぼ完成している様なので、俺は鈴音さんとの会話後。みんなが揃うまでの間はリビングのソファーに座り、ソファーで待たせて貰う。
 今晩……大きなイベントが有る事は、まだ俺以外知らない……
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