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【R-15】鈴音編 第2章

第254話 就農から結婚式までの行方 その9

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「店内の造りは『観光に来た!』と言う、感じがするお店ですね!」
おもむきが有りますわ♪」

 鈴音さんは店内を見渡しながら言う。
 地区交流センター自体がログハウスを意識した作りに成っているから、喫茶店の方もそれを意識した内装なのだろう。
 ちなみに、売店(直売所)の方は一般的な内装で有る。

 プレオープンとは言え、開店初日なのに座席は満席では無く、6割位しか席は埋まってなかった。
 営業時間も11時から16時までと5時間で有り、これでやっていけるのかと思った。
 この店はやはり、水とかもセルフサービスだ。
 店の奥側……偶々座った俺の目先に、給水機や使い捨てのおしぼりが見える。

「鈴音さん!」
「水とおしぼりを取ってきます」

 俺は席を立って、水とおしぼりを取り行って戻る。
 お互いが水を飲んで、おしぼりで手を拭く。

「比叡さん。お味はどうでしょうかね?」

 鈴音さんは和やかな表情で聞いてきた。

「オムライスとカレーライスですからね…!」
「地元の卵や野菜を使ったとは言え、頬が落ちる事は無いでしょうね…」

「う~ん。比叡さんはそう考えますか!」

 嬉しそうに言う鈴音さん。
 料理に期待している証拠だ。

「では、鈴音さんはどの様に期待しています?」

「まぁ、カレーライス関しましては色々なカレーが有りますので、コメントを控えます!」
「学校給食カレーを好む人や、サラリとしたカレー、ドロリとしたカレーを好む人と、カレーは奥深すぎます!!」

「うん。そうだね!」
「カレーは、どんなタイプでも食べるけど、やっぱり鈴音さんカレーが一番だしね!」

「ひっ、比叡さん///」
「ここで、そんな事言わないでください//////」
「恥ずかしいです//////」

「でも、今の鈴音さんの言葉で、鈴音さんの期待するオムライスが見えたよ!」

「じゃあ、私の期待するオムライスを教えてください♪」
「比叡さん!♪」

 鈴音さんは笑顔で言う。
 時々だが、鈴音さんもオムライスを作る。

「言うまでも無く、タマネギやニンジンの入ったチキンライスに、バターをたっぷり使った薄焼き卵でチキンライスを包んで、出来ればオリジナルのトマトケチャップをかけた、オムライスを期待しているのかと!」

「うん、うん。比叡さんの言う通りです!!」
「オムライスも色々な派生が有りますが、オーソドックスなオムライスが私は一番好きです♪」

 嬉しそうに言う鈴音さん!
 これで期待通りの物が出て味も良ければ、これから通う事に成るかも知れない。
 話の一段落が付いた所で丁度、俺達の番号札が呼ばれる。

「3番の方。お待ちどおさまでした!」

 先ほどのスタッフが、そう声を掛けた。
 俺と鈴音さんは出来上がった料理を取りに行き、席に座ってから料理を観察する。

「カレーライスはジャガイモ・タマネギ・ニンジン……肉は豚肉か…」
「サラダはキャベツ・キュウリ・トマトのサラダに、フレンチドレッシングがかかっている」

 地元野菜カレーライスと謳っているだけ有って、手作り感は有るカレーで有る。
 これで、業務用などのレトルトカレーだったら、優良誤認表示に該当するだろう……

「……」

 鈴音さんは、無言でオムライスを見つめていた。
 その訳は、直ぐに気付いた……

(これを、オムライスと言うべきか……)

 鈴音さんはオーソドックスのオムライスを求めていた。
 このオムライスも、ケチャップベースのチキンライスに薄焼き卵が乗せられていて、トマトケチャップもかけられているが……

「……包まれていませんね!」

 鈴音さんが、静かに文句を言う。
 そう、このオムライスは、楕円形の形が作られていないのだ!

「これは、私の中ではマイナスですよ!!」
「点数で言ったら、-100点です!!」

 珍しくケチを付けている鈴音さん!
 鈴音さんがオムライスを作る時、薄焼き卵が途中で破けてもオムライスの形を作るからだ。

(そう言えば、何かの番組で……オムライスの成形を、濡れ布巾を使って成形している店が有ったな!)
(専用布巾だと思うが、あれを見た時は衝撃的だった!)

 その技を使えば俺でも出来るだろうが、それで良いのかと同時に思った。

(この店の場合は、上手に包む事が出来ないと判断したから、チキンライスの上に薄焼き卵を乗せているが、これを『オムライスです!』とは言い切りにくいな…)

 見栄えは大事で有るし、それを邪道や手抜きをしては成らない。素人料理人なら別だが……
 布巾成形は王道では無いし、形作られてないオムライスなど、オムライスでは無い!
 只の、チキンライス薄焼き卵乗せで有る。

 鈴音さんは期待外れの表情に変わっていた……
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