上 下
250 / 434
【R-15】鈴音編 第2章

第248話 就農から結婚式までの行方 その3

しおりを挟む
 季節も、5月の中旬辺りに入る……

 俺は今月から、書類上でも新規就農者に成った。
 経営開始型の助成金支給は、年度単位で支給されるので直ぐに貰える訳では無い。
 まぁ、その話は置いて置いて……

 今日は、俺が幸村さんから借りた水田に、水稲びょう成苗せいびょうを定植させる日で有る。分かりやすく言えば、田植えの日で有る。
 以前、幸村さんに、苗は播種からやって貰いたいと言われたが、今回の苗は農協から購入した物で有る。

 当たり前だが、もみから育てるより苗を買った方が楽だし、途中で苗を枯らす心配も無いが……農協等から水稲苗を買った方が良い場合が有る。
 それは、米の品種(苗)を農協等が保証しているからで有る。

 米は地域ごとにブランド化されているし、地区農協の推奨品種で無いと出荷が難しい場合も有る。珍しいブランドを作っても、俺の規模ではブレンド米の道しか無いからだ。

 俺の水田には、初心者向けの品種を作付けする。
 高級ブランド米と比べて、味や買い取り単価は低めだが、そこそこの収量が有るらしいし、地区農協の推奨品種にも選ばれている。良い米に成れば成る程、手が掛かる物に成る……

 俺にネット通販等の販売ルートが有れば、作りたい米(品種)を作れば良いが、俺にはその伝手が無いし、仮にネットショッピングを開設しても、誰も俺の商品を買わないだろう……
 そのため今は、幸村さんや地区の営農に合わせた農業をするしか無い。

 田植えに関しては稀子の家に有る、田植機を拝借して、稀子両親指導の中、鈴音さんと田植えをする。
 機械で出来る所は俺が機械で植え、角の機械が入りにくい場所は鈴音さんが主に植える。
 水が張られた水田は非常に歩きにくく、何度も足を取られそうに成った!
 借りた面積も大規模では無いので、半日位で終わる。

 ……

 水田の田植えは終わったが、少し前からナスの栽培も始めている。キュウリはもうしばらく後である。
 ナスを栽培する圃場を耕耘して、元肥を撒いて、うねを立てて、灌水チューブを敷いてから、マルチ(※)を敷いてと……ナスの栽培も大変で有る。
 この辺りも稀子両親指導の下で、俺と鈴音さんは圃場作りをしていく。


(※) マルチ=マルチング
    地温の調整や、雑草を生えにくくしたり、病気の伝染を防ぐ効果がある。

 俺は一応経験者だが、鈴音さんは初心者なので、ほぼ稀子の母親が付きっ切りで指導してくれる。
 稀子の忠実まめの良さは、母親譲りだろう……

 ナスやキュウリの専門農家に成る訳では無いから、水田に影響が出ない程度の株数を植えていく。
 ナス関しては育成期間の関係で今回は、幸村さんが育てたナスの苗を定植したが、キュウリに関しては播種から行っている。
 予定では、来月上旬にキュウリの定植予定である。

 ナスは早ければ、来月下旬から収穫出来る様には成るが、収量の関係で農協や市場への出荷を積極的には行わず、地区交流センターや道の駅等の直売所での販売や、収量の最盛期には、地元漬物加工会社の直取引を考えていると幸村さんは言った。

 只、普通に栽培をして、収穫した作物を農協に出荷の時代では無いと改めて感じた。
 そんな感じで……俺と鈴音さんと共に歩む、農業が本格化してきた。

 初夏のある日……

 春の農業繁忙期も過ぎて、やれやれと言いたいが、この先も収穫に向けての細かい準備が待ち受けている。だが、今日は小休止の日で有る。
 俺と鈴音さんは、特に出掛けようとはせずに、静かに居間で過ごしている。
 今日の鈴音さんは、野菜栽培の本を熱心に読んでいた。

「ふぅ」
「少し、落ち着きましたね……」

 本を読み終えた鈴音さんが、顔を見上げて俺に話し掛けてくる。

「本当だね…。鈴音さん」
「収穫までは、少し気が楽な日が続きますね」

「はい…。春から秋は忙しいと言いますが、本当ですね!」
「農業法人の時も、比叡さんはこの様な事をしていたんですね」

「していたけど……今の方が気楽ですよ!」
「鈴音さんと一緒ですし!」

「まぁ!///」
「そう言ってくれるのは嬉しいですけど…、これでお金を稼がなければ成らないのですよね……」

「今年はどっちみち、農業収入は当てに出来ないから、来年からが本勝負だね。鈴音さん!」

「私も今年は、覚えるだけで精一杯の年に成りそうです」
「……でも、今の面積だけでは、食べて行くのは難しいですよね?」

 今、幸村さんから借りている農地面積だけでは、完全な自立は出来ない。
 5年間は助成金が有るから助成金を当てにした農業が出来るが、この先が問題で有る。
 けど、夫婦で出来る農業も限界が有る。

「鈴音さん…。今年は仕事を覚えるを重点で行きましょう!」
「将来も大事ですが、目の前の事をこなして、覚える事も大事です!!」

「それは、比叡さんの言う通りですが……出来れば、水田の面積をもう少し増やしたいですね」

 鈴音さんは、呟く様に言った。
 作物栽培は今の段階で、だいぶ堪えているのだろう……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

お嬢様は没落中ですが、根性で這い上がる気満々です。

萌菜加あん
恋愛
大陸の覇者、レイランドの国旗には三本の剣が記されている。 そのうちの一本は建国の祖、アモーゼ・レイランドもので、 そしてもう二本は彼と幾多の戦場をともにした 二人の盟友ハウル・アルドレッドとミュレン・クラウディアのものであると伝えられている。 王家レイランド、その参謀を務めるクラウディア家、そして商業の大家、アルドレッド家。 この伝承により、人々は尊敬の念をこめて三つの家のことを御三家と呼ぶ。 時は流れ今は王歴350年。 ご先祖様の想いもなんのその。 王立アモーゼ学園に君臨する三巨頭、 王太子ジークフリート・レイランドと宰相家の次期当主アルバート・クラウディア、 そして商業の大家アルドレッド家の一人娘シャルロット・アルドレッドはそれぞれに独特の緊張感を孕みながら、 学園生活を送っている。 アルバートはシャルロットが好きで、シャルロットはアルバートのことが好きなのだが、 10年前の些細な行き違いから、お互いに意地を張ってしまう。 そんなとき密かにシャルロットに思いを寄せているジークフリートから、自身のお妃問題の相談を持ち掛けられるシャルロットとアルバート。 驚くシャルロットに、アルバートが自分にも婚約者がいることを告げる。 シャルロットはショックを受けるが、毅然とした態度で16歳の誕生日を迎え、その日に行われる株主総会で自身がアルドレッド商会の後継者なのだと皆に知らしめようとする。 しかし株主総会に現れたのはアルバートで、そこで自身の婚約者が実はシャルロットであることを告げる。 実は10年前にアルドレッド商会は不渡りを出し、倒産のピンチに立たされたのだが、御三家の一つであるアルバートの実家であるクラウディア家が、アルドレッド商会の株を大量購入し、倒産を免れたという経緯がある。その見返りとして、アルドレッド家は一人娘のシャルロットをアルバートの婚約者に差出すという取り決めをしていたのだ。 本人の承諾も得ず、そんなことを勝手に決めるなと、シャルロットは烈火のごとく怒り狂うが、父オーリスは「だったら自分で運命を切り開きなさい」とアルドレッド商会の経営権をアルバートに譲って、新たな商いの旅に出てしまう。 シャルロットは雰囲気で泣き落とし、アルバートに婚約破棄を願い出るが、「だったら婚約の違約金は身体で払ってもらおうか」とシャルロットの額に差し押さえの赤札を貼る。

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

処理中です...