上 下
229 / 434
【R-15】鈴音編 第2章

第227話 稀子の町に向かう道中 その1

しおりを挟む
「……お見苦しい所をご覧に入れて、申し訳有りませんでした」

 電車がホームから遠ざかった所で、鈴音さんは俺と稀子に顔を向けて言うが、鈴音さんの顔は涙でグシャグシャだった。

りんちゃん……まずは、顔を拭いて!」

 稀子はハンカチを取り出して、鈴音さんの顔を拭う。

「……すいません。稀子さん…」

 顔を稀子に拭かれながら、謝る鈴音さん。
 先ずは……鈴音さんの心を落ち着かせないと!

「鈴音さん、稀子。まずは……座ろうか」

 通勤・通学時間帯では無いので、電車内は空席が目立ち何処でも座れる。
 別に扉側に立っている必要は無いし、鈴音さんも色々と疲れて居る筈だ。

「そうだね。比叡君!!」
「立って居るのも疲れるしね。一番近い彼処に座ろう!」

 俺と稀子は鈴音さんを支えながら、一番近い席に座らせる。
 鈴音さんは少しフラつき気味で有り、そうしないと危ない感じがしたからだ。

「電車の終着点まで……少し休ませて貰います」

 席に座った直後、鈴音さんはそう言う。
 心の整理を付けたいのだろう……

「鈴ちゃん!」
「終点に着いたら起こすから、ゆっくりと休んでいて!!」

 稀子は元気よく、鈴音さんに声を掛ける。

「鈴音さん…。今は体を休めてください……」
「本当に大変なのは、これからですから…」

「はい……。すいません、比叡さん…」
「休ませて貰います…」

 鈴音さんは目を瞑って眠りに入った。
 この電車の席は対面シートにも成るから、対面シートにして座っている。
 俺の横に鈴音さん。正面には稀子が座って居るが……

『ちょい、ちょい』

 稀子が俺を手招きする。
 鈴音さんが眠りに入り掛けているので、手招きで俺を呼んでいる。

 鈴音さんは電車の壁に体を傾けているので、俺は簡単に座席移動が出来る。
 俺が稀子の横に座ると、稀子が小声で話し掛けてくる。

「あんなに泣いた鈴ちゃんは、初めて見た気がする……」

「それだけ、真理江さんが好きだったのだろ?」
「……実の母親が居るのに」

「そうだよね…、比叡君」
「私は優しい“おばさん”にしか感じなかったけど、鈴ちゃんは“おばさん”の何処を気に入ったのだろう?」

「俺に聞かれてもな……稀子」
「これは俺の予想だが…、それだけ山本鞄店に対する思いが強かったのでは無いかな?」

「でも、比叡君」
「お店は、とうの昔に売っちゃったじゃん!」

「店が無く成っても、鈴音さんの中では心残りだったんだろ」
「それに、山本さんに彼女が出来た事は、稀子も知っているだろ」

「うん。知ってるよ!」
「比叡君に復讐を仕掛けた割には、変だよね!!」

「まぁ、それもそうだが、その時の鈴音さんは寂しそうな表情をしたんだ」

「えっ!?」
「そうなの!!」

 思わず大声を上げてしまう稀子。

「稀子。しっ!」
「俺との将来を約束している癖に、鈴音さんは山本さんを完全に忘れていなかった」

「う~ん……」

 急に静かに、うなり声を上げる稀子。

「比叡君には悪いけど…、鈴ちゃんは本気で、比叡君を好きでは無かったのかも知れないね……」

「やっぱり……稀子もそう思うか」

「うん…。鈴ちゃんはかなり本気で山本さんが好きだった」
「だからこそ、それ見て嫌気を感じた過去の私は、山本さんの家を飛び出して偶然、比叡君と出会ってこの関係が生まれた」

「鈴ちゃんと山本さんが喧嘩を本気でした時、私はチャンスだと思って、何度も山本さんに好意とを伝えても鼻であしらうだけだった」
「山本さんも鈴ちゃんが本気で好きだからこそ、比叡君と鈴ちゃんが内緒で遊びに行った事知った時に、私に怒りを思いっきりぶつけてきた」

「私達が、余計な事をしなければ良かったね……」

 最後の言葉は、俯きながらに言う稀子。
 本当にその通りだが、あの時の俺と稀子は、本当にペアの交換を望んで居た。

「過ぎてしまった事を言っても仕方無いよ。稀子」
「そう考えると俺は、山本家に翻弄されていたのかな?」

「それは違うと思うよ。比叡君!」
「山本さんは別だけど、おばさんは赤の他人の比叡君に、此処までの支援をしてくれた!」
「おばさんの支援が無ければ、今の比叡君は此処に居ないよ!!」

 力強く言う稀子。確かにその通りだ。
 ドラマの様な人生がここ数年間続いたが、本当にドラマの様なクライマックスが待ち受けている。

「そうだよな…」
「真理江さんが俺に肩入れを始めた理由は、山本さんの身勝手から始まったと思うのだが、実際は違うのかな?」

「それは…、おばさんに聞いて見ないと分からないよ。比叡君」
「ただ1つ言える事は、おばさんは比叡君を期待したし、鈴ちゃんも……母性本能で比叡君を助けたのでは無いかな?」

「鈴音さんが俺に好意を持ったのは、母性本能からか……」

「まぁ、私も似た様な物だしね! 比叡君を気に入った理由は!!」

 最後の最後で、稀子から衝撃発言を聞かされる!!
 俺が稀子と鈴音さんから好かれたのは、俺が駄目人間だったからか!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

処理中です...